稲妻11 | ナノ


▼生徒マーク×塾講師エドガー



 あの夏私と彼の関係は、非常に理解りやすく非常に難解かしいものであった。
 出来合いの公式に当て嵌めれば模範解答が容易く導き出され、しかしいざ計算の仕組みを証明しようとペンを取ると、頭を悩ませざるを得ないような厄介な問題だった。


 生徒である彼が、仮にも教師である私に課した要求は、片手では指折り数え切れない。彼の指導を私が担当することが決定した際、勉強に励んだ分だけ褒美が欲しいのだと彼は言った。
「何が欲しいんだ」と尋ねると「先生が欲しい」とそれだけ。子供みたいだなと思って、事実彼が十四に過ぎない子供であると気づき、私は彼の求めを承諾した。何かの対価として己の身を差し出すことに躊躇いはなかった。

 彼は私と交わした全ての約束を果たした。膨大な単語を覚えて来なさいと私が命じたら一晩でそのとおり暗記してきたし、私が課したどんな宿題も目の下に隈を作りながらこなして来た。
 そうして彼が言い付けを遵守してくる度に、私は彼に髪を撫でられたり、肌に触れられたり、口付けられたりした。
「エドガー先生、次はね…」
 彼の要求は日に日に過激に、そして性的な性質を帯びるものになっていった。そういう年頃なのだろう。私は彼に自慰を見せたり、フェラチオを施したりもした。


 夏休みに入る直前に彼は遂に私の身体そのものを欲しがった。
「期末考査が全部満点だったら、抱かせてよ」
 その時の遣り取りは明瞭に記憶していないが、私はどうやら頷いたらしい。100点の並ぶ成績表を持ってきた彼の満面の笑みがそれを物語っていた。
 そうして私は彼に抱かれた。


 いつ誰が入って来るともわからない個別部屋の一室で、ネクタイも解かずジャケットも脱がないまま、下の着衣だけを適当に乱して彼の熱を受け入れる。
 まるで狂気の沙汰だと思った。私はとうとう教え子といやらしい関係を結んでしまった。肉と肉が擦れ合う誤魔化しようのない音が室内に響く。彼が興奮に血走った目で私を見ている。
「っ先生、エドガー先生っ…」
「っく…は…あぁ…」
 焼け付くような質量が腹の中を掻き回す久々の感覚に私は震えた。彼の荒削りな抜き差しに合わせて腰を揺らすと、繋がる部分からじんわりとした快楽が生まれて広がる。暫く使っていなかったが、私の身体は男の味をきちんと覚えていた。
「ん…あ…はぁっ…」
「先生…あっ…気持ちいい…」
「…っあ!ん…あぁ…」
 私を抱いているのは子供だ。まだほんの十四に過ぎない未熟な子供。背伸びをしていても本物にはなれない。不器用な方法でしか求めることを知らない子供だ。
「せんせ…っ…先生…」
 彼は私を揺さぶりながら前に触れた。少しだけ勃っていたそれを握られて上下に扱かれる。
「ひっ、ぁあ!や…あぁ…ん…」
 後孔で得るぼんやりとした快楽とは違う、直接的に官能を刺す肉の悦びに私は鳴いた。性器を扱かれることで敏感になった内襞を硬い亀頭に擦り上げられる。律動は激しさを増し、下半身の荒ぶる快楽に私は流される。


「…いい?ねぇ、気持ちいい…せんせ?」
 執拗に具合を尋ねる彼の様子に私は違和感を覚えた。恐る恐る目を開けて覆い被さる彼を見る。その瞬間、性交の高揚に耽っていた思考が、一気に冷めた気がした。
「…マーク…?」
 私を揶揄って抱く彼は、笑いながら泣いていた。彼のエメラルドの瞳から溢れた涙が私の頬に落ちてきた。後から後から零れるものだから、まるで私が泣いているようだ。
「…エドガー先生…好き……」
 彼の涙の理由は私には分からなかったが、ただ私が彼を傷つけた原因であることだけは間違いない。
「…く、うっ…」
「…あ、マーク…ん…はぁっ…!」
 身体の奥深くに彼の熱を受けて、私も彼の手のひらに精を放った。



 お互いに酷く煮え切らない思いを抱えたまま。

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