稲妻11 | ナノ


 フットボールフロンティアインターナショナルが開幕した。エドガー・バルチナスは圧倒的なカリスマ性と実力で、イギリス代表のキャプテンに着任した。そしてエドガー率いるナイツオブクィーンは、ヨーロッパ地区予選を難なく勝ち抜き、世界大会への切符を手に入れた――ここまではエドガーが思い描いたとおりの流れだった。

 委員会から送られてきたFFI本大会の出場国リストを見て、エドガーは端正な柳眉を歪めた。同じAグループの中にアメリカ代表ユニコーンの記載がある。奴らも地区予選を勝ち上がったのかと、アメリカの実力からすれば順当なことだが、エドガーは忌々しい気持ちになった。何せエドガーにはアメリカ代表に浅からぬ私怨がある。
 ユニコーンキャプテンのマーク・クルーガー。あの爽やかな甘いルックスに騙されてはいけない。奴の本質は慇懃無礼で八方美人、穏和かと思いきやしたたかで抜け目がなく、自信家で口先の上手い予測不能な男だ。ここ数ヶ月の間エドガーは、マークに何度も大変な目に遭わされている。
 初対面のときは野外で散々に犯されたし、もう二度と会うまいと思っていた矢先にかかってきた電話では、いやらしい指示を聞いて自慰をしてしまった。エドガーはマークに知らなくてもいいことを身体に沢山教えられた。
 あのように下劣な仕打ちを受けたのは、エドガーは初めてだった。マークのことを思い出すと致された屈辱の数々がよみがえり、怒りと恥ずかしさで顔面が熱くなる。喩えるならマークはエドガーの人生の汚点だった。決して抜けない不快な染みだ。

 FFIでマークと再会しなければならない、マークのチームと試合をしなければならない…そう思うとエドガーは、それだけで気が滅入って憂鬱になった。神はどうしてこうも自分とあの男を引き合わせたがるのか、マークと出会う前の平穏を求めるエドガーは不満でならない。
 しかしそこでエドガーは閃いた。考え方を変えればこれはむしろ、マークの呪縛に苛まれて鬱屈とした日々から脱却する、千載一遇のチャンスなのではないか。
 同じグループに属するイギリスとアメリカは必ず一戦交える。ナイツオブクィーンの必殺タクティクスとエドガー自身の必殺技エクスカリバーで、ユニコーンを完膚なきまでに叩き潰し、マークに敗北を与えた上で金輪際自分に関わるなと言い渡せば良いのだ。
 誇りにしているサッカーでなら、エドガーは誰にも負ける気はしなかった。正々堂々とした方法でマークの鼻を明かす日を思うと、世界のフィールドへ向けてエドガーも俄然気合いが入る。

 (待っていろ、クルーガー…)

 憎き男への復讐に燃えるエドガーは、早くもFFIの開催が待ち遠しくてならなかった。



 日本戦を数日後に控えて開催された夜会の会場で、日本代表のキャプテンとの一勝負に勝利したエドガーは、パーティー会場に戻ることなくイギリス宿舎へ帰った。あの円堂という男は馬鹿にし甲斐がないほどの馬鹿なのに、愛らしい女性マネージャーを何人も従えているのが気に食わない。
 花を愛でることすら知らない男には勿体無い話だ…とつれない女性たちを未練がましく思いながら、エドガーは寝る支度を済ませてベッドに横たわった。昼の練習から夜会にかけての疲労がどっと押し寄せて、エドガーは布団に潜ってすぐに寝入ってしまった。

 真夜中、身体に違和感を覚えて、エドガーの意識が浮上した。夢うつつなので判然としないが、何やら下半身がやたらと気持ち良い。それは夢精する前の感覚によく似ていた。世話役としてセバスチャンは連れて来ているが、自宅ではないし、下着を汚してしまっては面倒だ。
 潔癖な質のあるエドガーは、強烈な眠気に苛まれながらもなんとかベッドに半身を起こし、身体を覆う掛け布団を捲った。
 すると金色の物体がエドガーの下半身の上でうごめいている。月明かりが照らす中で顔を上げたそれとエドガーの目が合った。

「ああ、ようやく起きた」

 月光に煌めくエメラルドグリーンの瞳。嫌になるほど耳元で囁やいた声。忌々しさを呼び覚ます微笑み。此処に居るはずのない、有り得ない存在をエドガーは認めて、一瞬にして目を覚ました。
 反射的に後退りしようとしたが、脚をしっかりと抑え込まれていて叶わない。想定外の事態にエドガーはパニック状態に陥った。
「クルーガー!貴様っ…何故ここに!」
 イギリス宿舎のエドガーの部屋にマークがいる筈がない。期待を込めて夢かとも疑ったが、両脚にのし掛かる重さは本物だった。エドガーの動揺を余所にマークは呑気に笑っている。
「夜這いだよエドガー」
 忍び込んだのさと、何でもないことのようにマークは言う。あまりに非常識なマークに対してエドガーは怒りすら覚えた。
「よ、夜這いだと!ふざけるな…あっ!」
 いきなり生まれた刺激にエドガーは思わず高い声を上げた。下半身が生暖かく湿った柔らかいものに包まれている。股間の辺りにマークのブロンドの頭が見える。
 何故か反り立っていたエドガーの肉棒を、マークが口にくわえて舐めていたのだった。夢うつつの中で気持ちいいと感じた感覚の正体――それに気づいたエドガーは愕然とした。性器でありながら排泄器官でもあるそこ、しかも同性のものを躊躇なく舐められるマークの精神が、エドガーには全く理解できない。
「やめろっ…よせ、クルーガー…!汚い…!」
「汚くなんてないさ…気持ちいいだろ?」
「っあ!や、いや…あっ!はぁ…っ」
 初めての口淫を受けるエドガーの精神は、心の底からマークのその行為を拒絶していた。しかし口腔全体を使って肉棒を締め上げられると、エドガーは強烈な刺激に身悶えるしかなかった。生理的な嫌悪感も何処かへ飛んで行ってしまうような、手による自慰とは比較にならない快感を与えられる。
 一方的な快楽から逃れようとマークの頭を押してみるが、まるで力の入らない腕では無意味な抵抗にしかならない。逃げを打つ細い腰をしっかりと抱えたマークは、中心で反り返る肉棒に舌と唾液をねっとりと絡ませる。
 裏筋や雁首など、皮膚の薄い敏感なところを重点的に責め立てる。充血して剥け切った亀頭をちろちろと舐められるのは堪らない刺激らしく、奉仕を受けるエドガーの背中は可哀想なくらい仰け反った。
「いや、ぁあっ!はぁっ…あっ!」
 マークは尖らせた舌の先で、エドガーの性器の窪みを執拗にほじった。尿道の入り口を直接舐められたエドガーの下肢がびくびくと跳ねる。溢れ出る先走りを音を立ててわざとらしく吸うと、エドガーは顔を両手で覆っていやいやと首を横に振った。
 マークの口淫によって恥ずかしいくらい性器を勃起させているのに、男に寝込みを襲われているという己の立場を、エドガーはまだ認めたくなかった。
「や…いやだ…クルーガー…っ」
「強情なひとだな…」
「ひいっ!」
 頑ななエドガーの様子に痺れを切らしたマークは、小さく口を開いた鈴口に爪を立て、乱暴に弄ることでエドガーを蹂躙した。がちがちに硬くなった肉棒を無造作に握り締め、まだ柔らかさのある穴を指で容赦なく責め立てる。
「いたっ…いたい、あ!いや…!ぁあ!」
 気持ち良さよりも痛みが勝るマークの行為に、エドガーのスカイブルーの瞳から大粒の涙が零れた。痛いやら恥ずかしいやら悔しいやら、諸々の感情を浮かべる白皙の容貌は、今や真っ赤に染まっている。
「おねが…クルーガー…それ、もうやめ…っ」
 エドガーの訴えに悲痛な色が滲み始めたのを察して、マークは尿道を嬲る手を止めた。やめてと言う割には肉棒は硬く反り立ったままで、大量の先走りを垂らしているのだが、エドガー本人が嫌がっているのだから仕方ない。
「どうして欲しい?」
 性器を緩く上下に擦りながらマークは意地悪く尋ねた。答えないとずっとこのままだよ、と言って濡れた先端に息を吹きかける。その程度の刺激にも大げさに震えるエドガーは、達したくて仕方ない状態だった。マークの言いなりになる屈辱に耳まで赤くさせながら、エドガーは小さな声で答えた。
「いたいのはいやだ…やさしく…しろ…」
「お望みのままに、プリンセス」
 エドガーを言葉で揶揄ったマークは、充血した肉棒の頭に恭しく口づけた。今にも射精しそうなほど育った猛りを、喉の奥まで招き入れ、じゅるじゅると強く吸い上げる。エドガーの身体が盛大に仰け反った。
「ひ、はぁ!っあぁ…んっ!ひぁっ!」
 性器を食べるかのような激しい口淫に、エドガーは頭が真っ白に塗り替えられる快感を味わった。
「あっ!もぉ、いく…あ!あああっ…!」
 強烈すぎる愛撫に限界を迎えたエドガーは、マークの喉奥に迸る欲望を吐き出した。

「濃いな…最近はオナニーしてないの?」
 マークの喉が上下するのを見て、エドガーは青ざめた。
「き、さまは馬鹿か!そんなものを飲むなんて…」
「精液だろ?エドガーのなんだから飲めるさ」
 マークはにっこりと綺麗に笑って唇を一舐めする。薔薇色の唇を汚す自身の白濁を見たエドガーは泣きそうになった。性器を舐められ、精液を飲まれた。馬鹿みたいに気持ち良くて、かつこんなに恥ずかしいことはない。
「最悪だ…」
「ぼんやりしてる暇はないよ…夜は短いんだから」
 自己嫌悪に陥るエドガーの目の前で、マークが見せつけるように下肢を露出した。マークの性器はエドガーが息を飲んでしまうほど明らかに雄の形を成している。
 勃起から目が離せないエドガーに笑みを零しながら、マークは猛る肉棒を自ら数度扱いて見せた。更に強く反り返る男根の生々しさに、エドガーの身体に被虐の記憶がよみがえる。マークの硬い雄に貫かれ、壁に縋って訳もわからず鳴いた夜のこと。
 マークに脚を掴まれてエドガーは狼狽えた。
「待てっ!クルーガー…私は明日も練習が…」
 またあの何処までも落ちていくような感覚を味わわされるのか。それに抱かれた後は身体が痛くて適わないのだ。初めての次の日をエドガーは丸一日ベッドで過ごした。
 あのときは休日だったから良かったが、明日は朝から練習がある。エドガーはナイツオブクィーンのキャプテンである。チームメイトや監督の前で無様な姿は見せられない。
 挿入されては困る、と焦るエドガーの額にキスを落として、マークは微笑んだ。
「大丈夫、セックスじゃないから」
 マークはエドガーの長い脚を二本揃えて高く掲げた。まるで挿入しやすくするような、後孔が露わになる格好を取らされたエドガーは、端正な美貌を歪めてマークを睨んだ。
「嘘吐き…今、挿れないと…」
「うん、だからアナルには挿れないよ」
 訝しむエドガーの股間に硬い感触が割り込んできた。
「ひゃ!えっ…や、なに…?」
「じっとしていて…エドガー」
 ぴたりと合わせたエドガーの太腿の間に、マークが勃起した性器を差し込んでいる。柔らかな肉に挟んだまま、マークは肉棒を抜き差しした。股の内側を擦っていく硬い感触にエドガーは戸惑う。マークがしているのはエドガーの知識にはない行為だった。
 不安そうにこちらを見つめるエドガーに、マークは優しく教えてやる。
「これは素股っていうんだよ」
「スマタ…?」
「疑似セックスの一つだよ。カズヤが教えてくれたんだ…エドガーの太股は柔らかくて気持ちいいね」
 太股の肉で性器を挟んで扱く。凛々しい眉を寄せて腰を動かすマークは、確かに気持ちがよさそうだ。自身の脚の間から覗く亀頭もすっかり充血していて、マークが興奮していることがわかる。
「あぁ…エドガー…」
 マークの良さそうな様子を目にしながら、張り詰めた剛直に陰嚢や会陰部を擦られる内に、エドガーも変な気持ちになってきた。股関がぬるついて滑るのは互いの先走りのせいだろう。エドガーのものも再び勃起していた。反り立つ性器同士が生身で擦れ合って、口淫ほどの決定的な刺激ではないものの、もどかしくて気持ちいい。
「あ、やだ…変…っ」
「本当に嫌なのか?」
「…ちが…あっ…きもちいい…マーク…」
 マークの性器が質量を増した気がしてエドガーは驚く。見ればマークは獣のような目でエドガーを見つめていた。
「…ッ…エドガー、君は本当にオレを煽るのが上手だな…」
 両脚を胸に付くほど抑え込まれて、挿入の角度を変えて穿たれると、二本の性器が更に激しく絡み合う。エドガーの幹の裏筋を、マークの亀頭が撫で上げる。指とも舌とも異なる感覚にエドガーは嬌声を上げた。
「あぁっ!あっ、マーク…やぁあ!」
「くっ…エドガー…」
 抱きかかえた白い脚に口づけて、マークは囁いた。
「大会が終わったら沢山セックスしよう。エドガー、約束だよ…」
「っあ!マーク、そこは…やっ!はぁ…!」
 先走りが流れて濡れそぼつエドガーの後孔に、マークは指を突き込んだ。擬似性交などではなく、本当は此処に飲み込まれたい。熱い内壁に包まれて性器を強く締め付けられたい。思う存分激しくエドガーを抱きたい。
「その時はここにも沢山挿れてあげるよ…エドガーの中をオレで満たしてあげる」
 挿入できない不満を晴らすかのように、エドガーの中をマークは指で掻き回した。二本の指を付け根まで深々と差し込んで、エドガーの好きな前立腺の上を擦る。
「ひっ、あっ!あぁ…も、あっ…でちゃう…マーク…っ」
「出していいよエドガー…オレもイきたい」
「ん、ひぃっ!あぁっ…はぁっ、あっ…」
 その美貌を羞恥と快楽に染めて、エドガーは自らの腹部に射精した。後を追うようにマークも絶頂を迎える。しなやかな腹筋に散る二人分の白濁が実に卑猥だった。



 後のナイツオブクィーンとユニコーンの試合では、闘争心剥き出しのエドガー・バルチナスの姿が、見られたとか見られなかったとか。

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