稲妻11 | ナノ


「源田くん」
 ある種の期待を込めてアフロディが源田の袖を引っ張った。三大欲求の内の食欲が満たされたので、次なる欲求が首をもたげてきたといったところだろうか。この美しい生き物は優雅で清廉な見た目に反して、欲望に貪欲であり忠実だ。
 真っ赤な舌で唇を濡らし、熱っぽくこちらを見つめる表情は、実に蠱惑的で挑発的だった。アフロディは自分の見せ方をよく心得ている。それがアフロディの仕掛ける策略なのだが、思わず手を伸ばしたくなる気持ちもよくわかる。
 しかし源田は誘惑に流されなかった。
「隣には辺見がいるから駄目だ」
 如何せん寮の壁は薄い。テレビや音楽機器の音すら隣の部屋に筒抜けなのに、セックスなどしたらどうなるか。明日からどんな顔をして辺見に会えばいいかわからない。どれだけ騒いでも問題のないラブホテルとは事情が違うのだ。
「えーそれが楽しみで来たのに…」
「黙ってできるなら別だが…できるか?」
「……」
 快感を感じたままに声を上げずにはいられない自分の身体の淫らさを、アフロディはよく自覚していた。セックスをして声を我慢できる自信はないし、声を出さないために猿ぐつわをするというのも、無理矢理乱暴されているようで気が乗らない。
 源田の部屋で源田の匂いのするものに囲まれてするのが夢だった。しかし理想と現実は概ね相容れないものである。源田の部屋に来れただけでも良しとして、セックスは諦めるべきなのかも知れない。
 アフロディがしぶしぶ承諾の態度を見せたときである。「源田いるか?」とドアを叩く辺見の声がした。
「どうした辺見」
「ひいばーちゃんが倒れたっていうから、俺今から実家に帰るわ。二、三日戻らないと思う」
「大丈夫なのか?」
「もう百近いからなぁ…駄目かも知れねぇけど、まぁ一応」
「そうか。気をつけて帰れよ」
「ああ、行ってくる。アフロディもまたなー」
「うん。いってらっしゃい」
 室内にいるアフロディに手を振ると、辺見は旅行バッグをゴロゴロいわせながら行ってしまった。

「辺見くんいなくなっちゃったね」
「ああ、そうだな」
「これで心置きなくエッチできるね」
「こ、こら…!」
 隣人がいなくなったとわかった途端に、勢い良く飛び付いたアフロディを支えきれず、源田は背中からベッドに倒れ込んだ。仰向けの源田に跨がったアフロディは、待ってましたとばかりにその顔へキスの嵐をお見舞いする。
 帝国学園の制服はとにかく露出が少ないのが特徴だ。アフロディは押し倒した源田の襟元を寛げながら、自身の着衣も器用に肌蹴させていく。
 だが決して全てを脱ぎ去ってしまおうとはしない。源田がこの服装に劣情を覚えることにも、アフロディはきちんと気が付いているのだ。
「制服汚すなって…佐久間に…」
「ちょっとなら大丈夫だよ…後でちゃんと脱ぐから」
 全てのホックが外れて制服の前合わせが開いた。はらりと現れた裸体の眩さに目を奪われる。アフロディは制服を素肌に直接着ていたのだ。
「おま…なんて格好を…」
「僕、シャツとか着ない派なんだよね…興奮した?」
 薄い胸板からなだらかな腹部までが、絶妙な露出加減で目前に曝される。禁欲的な印象のある帝国の制服が、肌に直接着られているという状態は、源田を大いに刺激した。

 視覚的に十分煽れたと判断したアフロディは、源田の目の前に胸の先を突き出した。
「ね、さっきからずっと擦れてて変な感じなの…舐めてよ」
 真っ白な胸にそこだけ色づく小さな突起は、生地との摩擦によって赤く染まり、つんと硬く尖って存在を主張している。源田は堪らず口元に差し出された愛らしい乳頭を口に含んだ。
「ふぁ…ン…あぁ…っ」
 アフロディの要望どおり芯の入った肉芽を舌先でつついて、乳輪ごとべろりと舐め上げる。柔らかさのない胸を掴んでくにくにと揉み上げると、アフロディは嫌々と首を振った。あんまりに気持ち良くて嫌なのだと、そして本当はもっとして欲しいことを現していた。
 源田はアフロディの身体を抱きかかえると、慣れた仕草でベッドに横たえた。しなやかな金糸がシーツに散らばり、非現実的な様相を醸し出している。
 弛緩した手足を投げ出して、虚ろな瞳でこちらを見上げるアフロディは、着衣も乱れてあられもない姿なのに、この世のものとは思えないくらい綺麗だった。
 アフロディを抱く度に源田は夢でも見ているような感覚に陥る。アフロディはあまりにも浮世離れして見えて、幻ではないことを確かめるために、その熱に触れていたいのかもしれない。

 跨がられて積極的に奉仕されるのも良いが、男としてはやはりこちらの方が都合がいい。源田はアフロディに覆い被さり、胸への愛撫を再開した。今や完全に上を向いた胸の突起に歯を立てる。もう一方の先端は爪できつく摘まんでくりくりと嬲る。強い刺激に腫れてきた乳首を次は優しく吸い上げる。緩急を付けて愛撫を続けると、アフロディは蕩けた瞳に涙すら浮かべて、堪らないといった声で鳴いた。
「もぉ…そこばっかり、やだぁ…」
「…お前が舐めろと強請ったんだぞ」
「あん…ちがうの…下も触って…」
 身も蓋もない明け透けな懇願に源田は目眩を覚える。もどかしげに擦り合わされる脚を抱えて、性急にベルトを抜き去りズボンを脱がせた。流石に下着は身に付けていたが、それも剥ぎ取って下腹部を露出させてしまう。
 露わになったそこはまだ触れていないのに緩く立ち上がり、先端からぽたぽたと物欲しそうに雫を垂らしていた。
「あっ、もぅ…はやく…」
 浅ましい反応を見せる局部を観察する視線に焦れたアフロディが、早くしてと言いたげに悩ましく腰を揺らす。しなやかな両足の中心に充血した性器が震えている。源田は大きな手のひらで昂りを包み込むと、反応を見ながら上下に擦り始めた。
「ふぁ、あんっ!ああん…いいっ…」
 手の大きさに似合わない巧みな手淫はアフロディを翻弄した。ゴールキーパーである源田の手はマメやタコの跡が積み重なり硬くなっている。ざらざらとした感触の皮膚に敏感な場所を擦られると、堪らない刺激がそこに生まれる。胸への愛撫で散々焦らされたせいもあり、気持ち良くてどうにかなってしまいそうだった。
「やぁ!いっしょにしちゃらめぇ…」
 源田はちらつく乳首に欲望のまま再び噛みついた。胸に吸い付きながら手の中の性器を弄ぶ。与えられた快感を素直に受け取る身体はすぐに絶頂へと昇り詰める。
「あ、イっちゃう、あぁ…あーっ」
 アフロディは源田にしがみついて身体を震わせ、絶頂の証をその手のひらへ存分に吐き出した。

「あ…待って…今脱ぐから…」
 借り物の上着を脱ごうとするアフロディに、源田は覆い被さり動きを制する。
「このままでいい」
「でも、佐久間くんに怒られちゃうよ?」
「後で謝る」
 熱中すると源田は言葉が少なく短くなってくる。必要最低限の会話から源田も興奮しているのだとわかって安心する。
 源田はアフロディをうつ伏せにしてベッドに転がした。達したばかりで力の入らない下肢を支えて膝を立たせ、腰を高く掲げるような姿勢を取らせる。
 排泄のための穴を見せつけるような屈辱的な体勢に、アフロディの中の羞恥がかっと燃え盛る。源田は恥じらうアフロディの姿を可愛いと思い、呼吸に合わせて震える小さな蕾に指を這わせた。源田にとっては自身を健気にも受け入れて、締め付けて快楽を与えてくれる愛しい場所である。
「ん…!あぁ…」
「相変わらずきついな」
 源田は自身のスポーツバッグを探ってローションのボトルを取り出すと、突き出された下肢に中身をとろとろと垂らした。ローションが会陰部を伝う冷たい感触にアフロディは腰を震わせる。
「や…冷た…ぁ」
「指、入れるぞ?」
「う、ん…ぁ…あぅ…」
 人工的な滑りに助けられて、さほど苦もなく人差し指が根元まで挿入された。抜き差しする間もなく中指も中に入ってきて、二本揃えた指が狭い筒を広げるように粘膜の中をぬるぬると動く。
「ふあっ、やん…あぁ…!」
 腹の中をうごめく異物の動きに確かな快感を見出だせるほど、アフロディの身体は淫らに作り変えられてしまっていた。源田も源田で指だけで、奥深くにある性感帯を探り当てては掘り起こしていく。
「や!ああっ…はあぁっ…!」
 源田の長い指先が体内の一点を掠めるとアフロディの身体が跳ね上がった。
「だめ、そこは…あっ!あっ…あーっ」
 男の性感の源である前立腺を見付けた源田は、少しだけ膨らむそこを腸壁越しに指で突いた。粘膜と指が接する場所から生まれる暴力的とも言える快感に、アフロディは髪を振り乱して身悶える。
 このまま内壁を弄られたらまた達してしまう。しかし全身が緊張する直前に体内から指が引き抜かれた。突然やんだ愛撫に安堵すると同時に物足りなさを感じ、アフロディは背後の源田の様子を窺った。源田は前を寛げて雄の象徴を取り出し、獣の目でこちらを見つめているところだった。

「アフロディ…挿れるぞ」
「うん…きて…」
 限界まで張り詰めた怒張が後孔に押し付けられる硬い感触に、アフロディの口から小さな悲鳴が漏れる。これほど猛々しい肉塊を突き入れられたら自分はどうなってしまうのかと、恐怖と期待に慄きながら大人しく挿入のときを待つ。源田は細い腰を両手で掴むと、濡れてひくつく蕾に猛る肉棒を押し込んだ。
「ひっ、ああっ…ひああっ…!」
 指とは比べ物にならない圧倒的な質量が体内に容赦なく侵入してくる。腹の中を満たす熱に思考が焼き切れそうになるが、飛びかけた意識を引き戻すのもまた源田の与える刺激だった。
「ふあっ!やっ、あついっ、んぁあ…!」
 指の跡がつくほど強い力で腰を抱え込まれて小さな蕾を散らされる。限界まで緩やかに引き抜かれ、そしてまた乱暴にならない程度に強く突き込まれる。
 敏感になりすぎた粘膜を固い亀頭にごりごりと擦られると電流が走ったように下肢が痺れた。容赦なく与えられる熱の激しさに腰が砕けそうになる。源田が支えてくれていなければ、とっくに体勢は崩れている。
「ア、ああ!やぁ、ん、あ…はぁっ…!」
 獣じみた四つん這いの格好で、男の性器を肛門にくわえ込む状況だけでも倒錯的なのに、そのまま入り口と内壁を余すところなく蹂躙されて肉の快楽を得てしまうと、精神まで肉棒に犯されているような錯覚に陥る。
 男を受け入れ慣れた後孔は既に性器だとアフロディは思った。潤滑剤と先走りとが愛液のように内部に満ちて、腰を打ちつける度に卑猥な水音を生む。まるで女の蜜壺だ。貪欲に男の精を貪ろうとする浅ましい穴だ。
 いつから自分はこんなにいやらしい女になってしまったのだろう。呆れることができたのも最初だけだった。性交の悦びに頭の中が真っ白に弾け飛ぶ。猛る剛直が肉襞を抉る感覚に何も考えられなくなる。

「あぁ…げんらくんっ!んぁあ!やぁ!あっ!」
 意味のない喘ぎ声に混じって舌っ足らずに自分が呼ばれると、源田は堪らない気持ちになる。
「アフロディ…っ!」
 あの誇り高くて高潔なアフロディが、腰を突き出す屈辱的ともいえる格好で、排泄器に男の怒張を受け入れている。ぬちゃぬちゃと下品な音と共に肉棒を抜き差しされては、性交の快感に身も世もなく喘いでいる。一時は神とも呼ばれていた存在が自身の下で淫らに乱れる姿は、源田の征服欲を大いに掻き立てた。
 普段は真綿で包むように大切にしているのに、性行為になるとたがが外れる。酷く鳴かせて喘がせて、ぐちゃぐちゃになるまで抱いてしまう。女ならとっくに孕ませている。
 今はまだ我慢が効いている方だが、いつ理性の限界が来るかわからないし、欲望に従った自分が何をするかもわからない。だからあまり煽るなよとアフロディには言ってあるのに、この淫乱で無邪気な恋人は、源田の理性を試すようなことばかり仕掛けてくる。
 確信犯にしろ天然にしろ質が悪いことに変わりはない。優しくしたいのに傷つけたくなる。守りたいのに壊したくなる。この葛藤をアフロディは知っているのだろうか。知らないから惑わすのだろうか。
 衝動のまま蹂躙したいのを理性で押し留め、乱暴になりすぎない程度に腰を揺する。小さかった蕾は見る影もなく広がり切って、太い雄を受け入れ締め付ける。淫らにうごめく内壁の極上の感触に呻き、源田は夢中で腰を突き入れた。

「アフロディっ…くっ…イくぞ…っ」
「うんっ、ああっ、イく…もうイっちゃ、ん!はぁ、ぁあっ!」
 肉棒を根元までしっかり押し込んで、アフロディの体内深くで源田は絶頂を迎えた。アフロディは最奥を濡らす精の熱さに震え、シーツと共に敷いてしまっていたズボンに白濁を飛ばした。
 帝国学園の深緑の制服には精液の濃厚な白さがよく映えた。




 アフロディを無事寮から帰した数日後。
 佐久間は源田から例の制服を返された。クリーニングに出したから、返却が数日後になったと謝られた。
「わざわざクリーニングに出してくれたのか。律儀だな」
「……」
 気が利くなと褒めたつもりなのに途端に無言になる源田。怪しい。佐久間はかまをかけようと思い、おもむろに制服に鼻を突っ込んだ。無論クリーニングに出された後の清潔な匂いしかしないのだが。
「…精液くさい」
「…!」
 源田の身体がビクッと跳ねた。それは佐久間が予感して危惧していたことが事実であることを証明していた。
 挙動不審な源田の顔には、借りた制服をアフロディに着せそのまま行為に及び、制服が精液まみれになるまで色々致した、ということが書いてあるようだ。
「信じらんねぇ…!あれだけ…汚すようなことに使うなって言ったのに」
「…本当にすまん」
 佐久間は怒りに肩を震わせた。クリーニングに出さねばならないほど自分の制服が汚されたことよりも、あのアフロディにどれだけいやらしいことをしやがったんだこのドスケベ、ということの方に腹立たしさが込み上げてくる。
 ムッツリはこれだから嫌だ。佐久間は返されたばかりの制服を源田に突き返した。
「テメーこれ買い取れよ!」
 佐久間の当然の権利主張に、源田は申し訳なさげに頷いたのだった。

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