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 俺を抱いている最中のバダップの表情が好きだ。

 覆い被さるバダップを下から仰ぐこのアングルを、円堂は絶景だと思っている。褐色の肌は夏の夜に溶け出して、無造作に伸びた銀髪と炯々と光る双眸とが、薄暗闇に鮮やかに浮かび上がる。瞬きが重なり合うような至近距離で見つめ合ってようやく、お互いの表情が視認できる。

「円堂、守…」
 吐息混じりの掠れた声で名前を呼ばれると、それだけで酷く煽られた。フルネームで円堂を呼ぶのはバダップだけだから、新鮮で特別な感じがする。嬉しくなった円堂は、目の前にあった物欲しげな口許に唇を押し付けて、キスの合間にバダップの名前を囁いた。バダップがもっと呼んで欲しそうな目をするから、円堂は幾度となく呼び続けた。
「バダップ」
 こういうときのバダップは、普段の人形のような無表情とも、感情を高ぶらせたときの鬼の形相とも違う、実に人間らしい表情をしている。端正な顔立ちが情欲に浮かされて、目に見えて上気し始める。切れ長の眦が柔らかく綻んで、優しい顔付きに変わっていく。バダップ自身、どんな顔をして良いのかわからないようで、困っているときもある。
 だけどその機微を間近で見つめる円堂には、バダップの心が手に取るようにわかる。バダップは俺を可愛いと思っている。好きだと感じている。バダップは感情の表現に不慣れだから、ぎこちないのは否めないが、切羽詰まった表情は溢れんばかりの愛しさを孕んでいた。

 ――この男は俺にどうしようもなく惚れているのだと、抱かれている円堂にはわかる。

 直接の快感とは違うところで円堂は背筋を震わせた。一言でいうと、今のバダップは強烈に性的なのだ。円堂はバダップに抱かれる側にいるが、セックスのときのバダップは、思わず押し倒したくなるくらい扇情的で色っぽい。このときのバダップを思い出すだけで、円堂は自慰の材料に困らない。そのくらい、淫らでいやらしい表情をしている。

 バダップが腰をぐいと性急に進める。バダップのは大きくて太いから後ろが少し痛いのだが、この顔を見つめる対価としては安すぎるくらいだ。もっと深く密着して熱を感じたい円堂は、腕と脚の両方を使ってバダップの身体を抱き寄せた。骨肉に一切の無駄がない禁欲的な身体がしっとりと汗をかいていた。
 バダップも自分と同じで興奮している。身体を重ねて快感を得ている。円堂は無意識に穴をきゅっと締め付けてしまった。小さく呻いたバダップの眉間に皺が寄った。律動を止めて恨めしそうに、何処か助けを求めるような目で円堂を見る。
「今の、気持ち良かったのか?」
 いきなり締められて。と、円堂が率直に尋ねるとバダップは口を噤んでしまうけれど、ばつの悪そうな仕草が何よりも雄弁に答えていた。そんな初なバダップの反応に、円堂は微笑ましい気持ちになる。
「バダップは可愛いなぁ…」
 円堂はしみじみそう思って、胸に抱き締めたバダップの頭に頬擦りをした。汗をかいた素肌に銀髪が張り付くのも気にならない。むせ返るような雄の匂い。俺の男。全部、独り占めしたい。
「なぁバダップ…そんなエロい顔、俺以外に見せたら駄目だぞ?」
「わかっている…お前だけだ」
 不服そうに眉をしかめる顔も愛おしい。





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