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【先輩と体格】



 ファーの付いたモッズコートを脱がせてみると、吹雪士郎は急に小さくなる。小さくなるというのは所謂ものの比喩で、実際は意外なほどの線の細さが明らかになるということだ。
 上背はそれなりに高いものの、成人男性にしては薄っぺらい身体を、雪村は珍しげに眺め回した。
「こんなに細かったんですね」
 長袖の上に半袖のTシャツを着る重ね着なのに、もったりとした感じは殆どない。ズボンなんて大きいサイズを穿きたがるから、ベルトで絞めて無理矢理ウエストに留めている有様だ。
 スマートを通り越してガリガリも良いところである。透き通るような色白なのが、見た目の不健康さに拍車を掛けていた。雪村は吹雪の生活環境が心配になった。
「ちゃんと食べてますか?寝てますか?」
「食べてるし、寝てるよ。体調に問題はないんだよ。これはもう体質なんだろうね」
 苦笑した吹雪は左手で、自身の右手首を掴む仕草をした。骨張った手首は細いので、親指と人差し指が余裕でくっついてしまう。
「食べても鍛えても、あんまり太くならないんだよ」
「それはまぁ、ご愁傷様です」
「これでも大きくなったんだけどなぁ」
 コートを再び羽織った吹雪は、室内なのに寒いなどと言って震えている。脂肪がないから寒いのだと雪村は思った。北国の人間としては致命的に痩躯である。

「…雪村は大きく逞しくなりそうだなぁ」
 雪村の頭にぽんと手を置いて、感慨深げに吹雪が呟く。子供扱いされていると思ったが、吹雪の手を振り払わずに雪村は答えた。
「大きくなりますよ。先輩よりも」
「いいなぁ、前向きで羨ましいよ」
 へらりと呑気に笑う吹雪を見ながら、雪村はこの人が大きくならなかったことに感謝した。幸いにも雪村の両親は共に長身で、父親に関しては偉丈夫である。
 あと五年、いや三年…。吹雪の身長を追い越す日を夢見て、雪村は野心を一丁前に蓄える。
 好きな人よりも背が高くなりたい、抱き締められるくらいの体格でありたいと思うのは、男として当然の心境ではなかろうか。


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