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【先輩と車】



 練習の片付けを終えた雪村が部室に戻ると、吹雪がベンチで自動車の専門誌を読んでいた。珍しいなと思って尋ねてみたところ、テーブルに置いてあったとのこと。こういうのが好きな部員がいるので、置いていってしまったのだろう。
 学校に雑誌を持って来ても良いのか、という校則の問題は華麗に無視して、吹雪は雑誌の内容を興味深そうに眺めている。

 荒野を走る四駆の写真を指差して、吹雪がああと感嘆の溜め息をついた。
「いいなぁ。こういうゴツい車も乗ってみたいよなぁ」
 それを聞いた雪村は、えっと間の抜けた声を出してしまった。以前吹雪は自転車に乗れないという話をしていたので、自動車なら尚更…と思っていたのだが。思わず雪村は尋ねてしまった。
「…先輩、運転できるんですか?」
「できるよ。免許証あるけど見る?」
「見たいです」
 吹雪はヴィトンの長財布から、免許証を取り出した。吹雪士郎。やたらと証明写真の写りがいい。どうやら書き換えたばかりのようだ。
「本物だ…意外すぎる…」
「失礼な。十八歳で取得してから、今日まで無事故無違反だよ」
「凄いですね」
 雪村は素直に感激した。運転が出来るというだけで、吹雪が物凄く大人に見えてくる。
「車は持ってるんですか?」
「持ってるよ。北海道は車がないと不便だからね」
「そうですよね」
 田舎だから交通の便が良くない。その上土地は無駄に広い。車がないと移動が大変なのだ。

「凄いなぁ。先輩は車に乗れるんですね…」
 いつにも増してきらきらした眼差しを向けてくる雪村に、吹雪は良いことを思い付いたとばかり提案した。
「そうだ。今度車で迎えに行くから、ドライブデートしようよ」
「ドライブ…デート…ッ!」
 カッと目を見開いた雪村は、戦慄きながら問題の単語を叫んだ。吹雪はにこにことしている。雪村は望外の喜びにも動揺する可愛い子だからだ。
「雪村は僕の助手席に乗るのは嫌?」
「嫌なわけがありません!」
「じゃあ決まりだね」
 吹雪に問われた雪村は赤い顔で答えた。吹雪と二人きりになれるのなら、何処だって構わない。ドライブデートという如何にも恋人同士らしい甘美な響きに、雪村はすっかり舞い上がっている。
 運転する吹雪の隣に座る自分の姿を想像して、雪村はますます身体を火照らせた。憧れの吹雪と密室で二人きり。中学生の旺盛な妄想力は、瞬く間に膨らんでいく。

 ときに、吹雪がおもむろに問い掛けた。
「ねぇ雪村、迎えに行くのは青いのと白いの、どっちがいい?」
 質問の意味は分からなかったが、ワックスで立たせた白銀の髪を見て、雪村は適当に答えてしまった。
「じゃあ、白いので」
 雪村はこの選択を、デート当日、非常に後悔することになる。


※補足:吹雪の車二台の内訳→年上の女社長からプレゼントされた青い外車と、祖父母のお下がりの白い軽トラ 白を選んだ雪村と吹雪のデートは…。



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