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【先輩と写真】



 根気よく強請り続けた甲斐あって、雪村は吹雪に中学生の頃の写真を見せてもらえることになった。「ちょっと恥ずかしいけど」と照れる吹雪は、見せるのを渋った割に嬉しそうにしている。
 その証拠に、吹雪は雪村がお願いした以上に、沢山の写真を持ってきた。曰く、どれもよく撮れていて選べなかったとのこと。
 撮影当時が充実していなければ、このようには思わない。吹雪が持ってきたフォトアルバムは、吹雪の一生の宝物だと言う。
「先輩にとって素敵な思い出なんですね」
 そう言われた吹雪は、はにかむように笑った。

「いっぱいあるから、好きに見ていいよ」
「うわぁ…!」
 渡されたアルバムのページを捲る度に、雪村は歓声を上げずにはいられなかった。
 写真に収められた十四歳の吹雪士郎は、一言でいうと可愛かった。ちいさくて、しろいのだ。触ったら柔らかい感触に違いないし、人の体温で溶けてしまいそうな儚い感じも受ける。透き通るような雪の肌に、ふんわりと優しげな天使の微笑み。同年代の少年たちより一回り小柄で、華奢な身体をしている。
 この吹雪と雪村が並んで立ったとしたら、雪村は吹雪を初めて見下ろすことになるだろう。こんなに愛らしい少年が至上最強のサッカーチームの一員だった、というのだから驚くしかない。

「どうだい?」
「すっごく可愛いです」
「でしょ?十年前の僕は可愛かったなぁ」
「先輩は今も可愛いですよ」
「その台詞は、雪村には十年早いかな」
 本気で雪村は発言したのに、吹雪には軽くあしらわれてしまった。口説こうと思って頑張っても、肝心なときに子供扱いされてしまうことが歯痒い。経験値の違いである。
 雪村は吹雪に対して、もう誤魔化せない程の恋心を抱いていたが、十歳という年齢の差に告白を阻まれていた。もしも吹雪と同世代だったなら…と雪村は考えて、どうにもならない切なさに、胸を締め付けられてばかりいる。
だからこそ雪村は、吹雪が自分と同い年だった十年前の写真を、熱心に見せてもらいたがったのだ。

 一枚くらい貰えないものか…とよこしまな思案を始めた雪村の目に、アルバムの最終ページに収められていた一枚の写真が留まった。満面の笑みでピースサインをする吹雪の隣に、ピンクの刈り上げ頭が特徴的な、怖面で泣き黒子の男が写されている。
(何だ?このゴツい奴…)
 皆と同じジャージを着ているので、吹雪のチームメイトであることは分かる。色白で可愛い吹雪とは真逆の厳つい見た目なのに、正反対の二人は頻繁に同じ写真の被写体になっていた。シャッターチャンスの偶然や、カメラマンの気紛れにしては多過ぎるくらいに…。
「先輩、この人は誰ですか?」
 ピンク頭の男を指差して雪村は尋ねた。説明を求められた吹雪の表情に、花が咲いたような明るい喜色が浮かぶ。
「彼は染岡くんって言ってね…雷門の点取り屋を自称するFWで、ちょっと怖い顔をしてるけど優しい人なんだ」
 染岡について話す吹雪の声は優しかった。心中がちくりと疼く心地がしたが、雪村は気付かない振りをする。

「どうしてこんなところに、この写真があるんですか?」
 まるでこっそりと隠すように、しかし忘れたくないという思いが、写真を納め入れた位置から滲み出ている。雪村の真っ直ぐな質問に、吹雪が照れ隠しの笑顔を見せた。
「やだなぁ雪村、察してよ」
 察してよと言われても、察しの付かない雪村は首を傾げた。吹雪は今度こそ破顔する。
「好きな人だったから、だよ」
 写真で見たような屈託のない笑顔が、雪村の胸に突き刺さった。


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