×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

Happy
White Day
2018.03.14

バレンタイン同様ほんの少ししか準備できませんでしたが、ホワイトデー用のSSを書いてみました。例のごとく名前変換なしで申し訳ありません…。少しでもお楽しみいただければ幸いです。バレンタインのSSとの繋がりはありませんので悪しからず…。それでは皆様、ハッピーホワイトデー!

HQ

Tooru Oikawa

「及川はバレンタインにチョコ沢山もらったでしょ?」
「え?うん。もらったけど…」
「全員にお返しするの?」

高校時代からの腐れ縁である及川に尋ねたのは、ただの気紛れだった。何の因果か、及川とは東京の同じ大学に進学。学部は違えど、大都会東京という知り合いが極端に少ない土地で同じ高校出身の人間を見つければ自然と安心感を覚えるもので、及川とは1年生の頃からそれなりに仲が良い。
そしてこの男は高校から変わらずモテ男っぷりを発揮していて、今年のバレンタインデーに山のようなチョコをもらっているのを見た。ので、少し気になってきいてみたのだ。大学近くの路地裏にある小さな喫茶店。目の前に座りカフェオレを啜っていた及川は、突然の質問にキョトンとした表情を浮かべている。たとえ表情が呆けていようとも、ただカフェオレを啜っているだけのくせに絵になるのが及川徹という男だ。

「まあ、覚えてる範囲で…クッキーとかチョコレートとかあげることはあるかな」
「へぇ…大変だねぇ…」
「なんでそんなこときくの?」
「別に。どうなのかなって思っただけ」

まあ尋ねてみたところで、バレンタインに及川へチョコを渡していない私は、今日がホワイトデーだとしても何ももらえないのだけれど。自分のレモンティーを啜りながら、何かデザートでも頼もうかなとメニューに手を伸ばしたところで、及川が先にそのメニューを取った。及川は基本的に、こういうところでデザートの類を頼まない。飲み物はまだ残っているようだし、追加注文なんて珍しい。
とは言え、今日は何か頼みたい気分なのかもしれないと思い及川がメニューを見ているのを待つこと数分。まだ私の手元にメニューは渡されていないというのに、及川は店員さんを呼んだ。え。こんなに空気読めない男だったっけ?

「これひとつ」
「かしこまりました」
「…ねぇ及川。私も頼もうと思ってたんだけど」
「うん。知ってる」
「だよね。分かってたよね絶対。メニューかして」
「だめ」

全く意味が分からない。結局、及川は私にメニューを渡してくれず、その理由がなぜなのかも分からぬまま、再び数分が経過したところでテーブルに運ばれてきたものは、及川の前ではなく私の前に置かれた。ホワイトデー限定メニューだってさ、と正面で笑う及川は一体どういうつもりでこれを注文したのだろう。小さなマドレーヌとカップケーキが上品に盛り付けられたお皿には、キャンディーも添えられている。

「私、バレンタインに何もあげてないよ」
「うん。だってこれ、お返しってわけじゃないし」
「…ん?じゃあどういうつもりで…」
「お前にだけ特別にあげたかったからって言ったら、意味分かる?」

私だけ特別?腐れ縁だから?甘いもの、食べたそうだったから?全然意味分かんない。頬杖をついて、ふふ、と笑いながら私の表情を盗み見る及川の目はなんだかいつもより穏やかに見えて。どうしよう。心臓、ドキドキしてきたんですけど。及川はただの友達なのに、こんなのおかしい。おかしい、けど。
ドギマギしている私に今更渡されたメニュー表。見てみろと言われたのでパラパラとめくって、とあるページで止まる視線。ホワイトデー限定メニューは2種類。1つは、お友達へのお返しに、という文句つき。そしてもう1つ、私の目の前にあるメニューには、特別な人へ気持ちを伝えたい時に、という文句がついていた。

「意味、分かった?」

にこやかに微笑む及川は、今日、ここでお茶しようって言ってきたときから、こうすることを決めていたのだろうか。一体いつから?きっかけは?パニック状態の私に、食べないの?などと尋ねてくるこの男の策略にはハマりたくない。そう簡単に、心を奪われてなるものか。ついさっきまで友達だと思っていた。今だって、そう…だよね?
自分自身に問いかけてみても、目の前の及川を視界に入れるだけで心拍数が上がるばかり。私、こんなに単純でいいのか。ほんの数分前まで普通に話していた友達。それが急に、他の何かへと変わる。しかもそんな私に追い打ちをかけるように、及川は言うのだ。

「クッキーやチョコレートは友達にあげるものだけど、これは違うからね?」

…分かりました。その笑顔にキュンとしちゃった時点で、降参するしかないんですね。ヤケクソになって口に頬張ったマドレーヌは、思っていた以上に甘かった。

Tetsurou Kuroo

「はい、バレンタインのお返し」
「え?ああ…どうも」

他の女性社員が配るのに私だけ用意しないのは何となく気がひける。そんな理由で、バレンタインデーに安いチョコを部署内の男性社員達に配り歩いた。もはやこれは義務のようなものであって、そこに気持ちはひとつも存在しない。だから、お返しなんてこれっぽっちも期待していなかった。
けれども、ホワイトデーの今日、数人の男性社員は律儀にもバレンタインデーのお返しにとお菓子をくれた。とは言っても、皆さんで食べてください、とクッキーの箱詰めやチョコレートの詰め合わせをもらったりしただけで、個人的にもらったわけではない。それが当たり前だと思っていたし、むしろお返しなんて用意してもらって申し訳ないとすら思っていた。のに。
先輩である黒尾さんに渡されたのは明らかに1人分。色とりどりの飴が詰まった袋は可愛らしくて、選んだ人のセンスを感じる。こんなの全員に返していたら大変だろう。主にお財布事情が。

「これ、高そうですね…」
「ん?そうでもないけど」
「全員に返すとなると大変じゃないですか?」

私なんかがもらっても良いのだろうかと躊躇いながらも、ここで遠慮するのも失礼かと思い有り難く受け取る。見れば見るほど綺麗な包みを眺めながら、なんとなくの流れで尋ねてみれば、んー?と首を傾げる黒尾さん。
おかしなことを言ったわけではないと思う。お互いに首を捻りながら沈黙が続いて、先に口を開いたのは黒尾さんの方だった。

「全員にコレあげてると思ってる?」
「え…違うんですか?」
「そりゃあね。ランクがありますんで」
「なるほど…まあそうですよね」

ランク付けするのは納得だけれど、私ごときにこのランクなら、もっと上のランクの方々にはどんなものをあげているのだろう。少しばかり興味がわいてきて、他の方には何をあげたんですか?と尋ねてみれば、知りたい?と、質問で返された。ニヤリと口角を上げたその表情は、何やら含みを持っているような気がする。
休憩スペースにはちらほら人がいるけれど私達の周りには誰もいなくて、まだ会話をしていても大丈夫そうな雰囲気なので頷く。先輩とのコミュニケーションも仕事の一環みたいなものだ。

「マシュマロとか」
「可愛いですね」
「クッキーとか」
「美味しそう」
「チョコとか」
「それも良いですね」
「ちなみに飴は誰かさんにしかあげてないけど」

この発言には上手い相槌の打ち方が思いつかなかった。それはつまり、あまりにもひどい義理チョコをあげてしまったのは私だけだと、遠回しに嫌味を言われているのだろうか。

「…すみません」
「なんで謝ってんの?」
「バレンタインのチョコ、かなりケチったので…」
「マジ?ひっどーい」
「え。それが分かってて私にだけ飴だったんじゃないんですか?」
「違う違う」

笑いながら否定する黒尾さんが嘘を吐いている様子はなさそうだけれど、それならば私にだけ飴を選んだ理由は何なのだろうか。私の頭の上にはクエスチョンマークが浮かぶ。
そうして考えていたせいで私がおかしな顔でもしていたのか、黒尾さんは、ぶひゃひゃひゃ!と突然豪快に笑い出した。そんなに笑うところ?ちょっと失礼では?と思うと眉間に皺が寄ってしまった気がする。

「悪ぃ悪ぃ、ほんとに理由分かってねぇんだなと思って」
「…そんなの分かりませんよ」
「ホワイトデー、お返し、意味、で検索してみ?」
「意味?」
「分かったら返事よろしくどーぞ」

言いたいことだけ言って謎を残したまま、ひらひらと手を振って行ってしまった黒尾さん。私はポケットからスマホを取り出すと、先ほど言われた単語を入力して検索してみた。そして、後悔する。
ホワイトデーに飴を贈る意味は「あなたが好きです」って。冗談でしょ?動揺しまくっているこんな時に限って仕事に戻れと上司から呼び出され、言われた通りに仕事には戻ったものの仕事なんて上の空。
チラリと視界に入った黒尾さんと目が合って、調べた?と口パクで尋ねられた瞬間、慌てて目を逸らした。どうしよう。絶対バレた。
結局その日は仕事なんて手につかなくて、仕事終わりに待ち伏せしていた黒尾さんに、返事は?と迫られることになるなんて、この時の私はまだ知らない。

Ace of Diamond

Kazuya Miyuki

「一也がホワイトデーとか知ってると思う?」
「思わねぇ」
「ですよね〜…はぁ…」

仕事の帰り道、ばったり出くわした倉持とチープな居酒屋で夜ご飯を食べながら繰り広げた会話は、彼氏である一也について。バレンタインデーにビターチョコのケーキをあげた時も反応薄かったし、ホワイトデーのお返しなんて期待できないということは重々承知の上だった。
けれども、周りの友人達が彼氏とデートに行くとか、プレゼントをもらったとか、そういう話をきくと、もしかして一也も知り合いから何か吹き込まれて準備していたりしないかな、なんて思ってしまったのだ。そうして迎えた今日というホワイトデーは、一也からの連絡がないまま終わりを迎えようとしている。予想通りと言えばそれまでだけれど、やっぱり落ち込む。
倉持はビールをちびちび飲みながら、なんだかんだで私の愚痴をきいてくれていた。持つべきものは一也をよく知る友人である。

「アイツは知らねぇと思うけど、俺は知ってる」
「倉持が知ってても意味ないってば…」
「お前らなぁ…俺を中継地点にすんの、いい加減やめろ!」
「中継地点?」

はて?そんな風に扱った記憶はないけれど。お酒のせいもあって少しふわふわした頭で倉持の言葉の意味を考えてみるけれど、やはり分からないし思い当たる節もない。
呆けている私を見て溜息を吐いた倉持は、自分のスマホを眺めてから席を立った。え?もうそんな時間?慌てて倉持の後を追って席を立とうとした私を、お前は立たなくて良い、と制される。1人でここにいろと?そういうことですか?

「世話が焼ける…」
「何って?」
「もうすぐ来るってよ。じゃあな」
「え?は?ちょ、倉持!」

律儀にも数枚のお札を置いて店を出て行ってしまった倉持の背中を呆然と見送って、意味が分からない!とヤケ酒よろしくビールを一気に流し込む。もうすぐ来るって誰がですか!私の愚痴を聞くことに嫌気がさしたからって、そんな風に逃げなくても良いじゃないか!
そんな荒ぶった気分のまま、ビールを追加注文した時だった。ガタリと音を立てて先ほど倉持が座っていた席に座ったのは、今日ずっと連絡を待ち侘びていた一也。まさか倉持、一也に連絡を取って呼び出してくれたの?
先ほどまでの苛々した気分が嘘のように、今度は倉持に感謝する。私はなんとも都合が良い女だ。

「倉持と飲んでたんだろ?」
「うん…たまたま会ったから流れで」
「飯ぐらい連絡しろって」
「…今日は私から連絡したくなかったんだもん……」

これがただのワガママだということは理解している。けれども、女心とは複雑なのだ。そんな複雑な女心を、一也が察することができるとは到底思えないけれど。
急に酔いが冷めてしんみりしている私の隣で、一也は、あー…と、何やら歯切れが悪い唸り声を上げている。どう対応したらいいか分からず困っているのだろう。いいです。私がホワイトデーなんかにこだわったのがいけなかったんです。一也にはハードル高かったよね。
勝手に自分の中でそんな風に言い聞かせ、注文したビールが届くなりの飲み干そうとした私に、これ、と。乱雑に渡された紙袋。小さくて、オシャレなそれは、どう考えても一也に不釣り合いだった。

「何これ…」
「よく知らねぇけど、今日、ホワイトデーなんだろ?」
「えっ」
「倉持からきいた」
「ああ…なるほど…」
「こういうことたまにはちゃんとしてやらねぇと逃げられるってさ」

お節介。でも、ありがとう。持つべきものはやはり友人である。私は差し出された紙袋を有り難く受け取った。

「逃げられんのは困るから」
「…逃げないよ」
「ヤケ酒してたくせに、よく言うな」
「うるさい!」
「イベントごととかよく分かんねぇから、してほしいことがあるなら言えよ」
「…うん。ありがと」

一也はお世辞にも気が効くタイプじゃないしロマンチックな演出ができる人でもない。けど、私のためにこうして色々考えてくれてるんだって、ちゃんと伝わってるから。居酒屋でビールを飲みながら過ごすホワイトデーだって悪くないかな、なんて。
やっぱり私は、都合が良い女だ。


BACK