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松川と名前が付き合うことになってから2週間近くが経過していた。しかし、バレーで忙しい松川とバイトに追われている名前ではなかなか予定が合わず、付き合うことになった日以来会えていない。連絡は取り合っているものの、お互い会いたい気持ちは募っていくばかりだった。
そして、やっとのことで予定を調整することができた日曜日。名前は待ち合わせ場所の公園にいた。浮き足立ってしまうのも無理はない。松川に会うのは約3週間ぶりなのだ。そわそわしながら時計を確認すると、待ち合わせ時間まであと10分ほど。どうやら楽しみすぎて少し早く来すぎてしまったらしい。
どうせなら最終チェックでもしておこう。名前は公園に備え付けられているベンチに座って鏡を取り出すと、髪型を整えたりグロスを塗り直したりと身だしなみを整え始めた。それから数分経過した頃スマホが鳴った。着信の相手は松川だ。


「もしもし?」
「名前さん、俺のために身だしなみチェックしてくれてんの?」
「え…、え?」
「今日のワンピース可愛いね」
「え、ちょっと、一静君、いるの?」
「うん。名前さんが公園に来たところから見てたけど」
「え!うそ!どこ!」


名前は慌てて辺りをキョロキョロと見渡す。どこにいるんだろう。公園に到着したばかりの時にも軽く確認した筈なのに、見つけることができなかった。あんなに背が高い松川ならすぐに見つけられると思ったのに。
公園にいる人を注意深く観察して、名前は漸く松川を発見した。しかも、ちょうど目の前のベンチに座っているではないか。座っているから背の高さが目立たなかったせいか、見慣れない私服姿のせいか。気付かなかった、気付けなかった理由は定かではない。


「見つけてくれた?」
「うん」
「じゃあそっちに行くね」


電話を切って、松川が近付いてくる。名前はその姿にうっかり見惚れてしまった。背が高く元々ルックスが良い松川は、何を着てもモデルのようで様になっている。これで、年下。
名前は今更ながらに、本当に自分が彼女で良いのだろうかと不安になってしまった。その気持ちが表情に出ていたのだろう、傍までやって来た松川は怪訝そうな顔をする。


「どうした?何かあった?」
「…ううん、何でもない」
「うそ。名前さん、すぐ顔に出るからバレバレ。何?俺には言えない?」
「うう…」


つくづく子どもみたいだと、名前は項垂れた。隠し事さえまともにできない成人女性ってどうなんだろう。しかも考えていた内容が内容なだけに、なんだか惨めだ。
益々暗い表情になっていく名前を見た松川は、困ったように眉を下げて笑った。


「折角久し振りに会えたのに、嬉しくない?」
「ううん、嬉しいよ。楽しみにしてたし」
「じゃあなんでそんな顔してんの?」
「…笑わない?」
「笑わないよ」
「一静君がカッコいいからね、本当に私なんかが彼女で良いのかなって不安になっちゃったの」


どうせ隠せないなら言うしかないと思い、名前は仕方なく本当のことを打ち明けた。松川は約束通り笑わない。が、様子がおかしいことに気付いた。口に手を当てて固まっているし、ほんのり耳が赤くなっているような気がするのは気のせいだろうか。


「名前さんって、天然でしょ」
「え?違うよ?」
「天然じゃなかったら、素であんな可愛いこと言わないって」
「へ、」
「俺は、名前さんが良いんだけど。それでもまだ不安?」


たったそれだけの言葉に、名前の心はふんわりと温かくなる。首を横に振って、もう大丈夫だと言わんばかりに笑って見せれば、松川も優しく笑う。
幸せだなあ。漠然とそんなことを思うのはいつぶりのことだろうか。名前は先ほどまでの暗い気持ちが嘘のように、自分の頬が緩むのが分かった。


「ん、じゃあ行こうか」
「どこ行くの?」
「名前さんの行きたいところ」
「えー…どこでも良いよー」
「俺も。名前さんと一緒ならどこでも良いよ」
「…一静君は、女慣れしてるよね」
「なんでそう思うの?」
「なんていうか…いちいち、ドキドキさせるようなこと言ってくる感じが…」


いつもそうなのだ。まだそこまで会話らしい会話はしていないようにも思うが、名前はことあるごとに松川の言葉に一喜一憂させられている。さらりと、スマートに。女性が喜ぶであろうことを言えるのは、女慣れしているからだと思う。


「ドキドキしてくれたんだ?」
「…うん」
「そりゃ良かった」
「どういうこと?」
「名前さんをドキドキさせるために必死だったもので」
「うっそだあ…」


ほら、まただ。大人っぽいなと思ったら、高校生らしい無邪気な笑顔を見せたりする。そういうギャップにも心を揺さぶられていることに、松川は気付いているのだろうか。もしも確信犯なのだとしたら、なんてズルいのだろう。
名前はいまだにドキドキしっ放しの心臓を落ち着けようと、俯いて深呼吸をする。こんな状態で今からデートだなんて、自分は死んでしまうのではないか。そんなことを思っている名前の気持ちを知ってか知らずか、松川はおもむろに名前の手を攫う。


「行くよ」
「あ、あの、手…」
「恋人繋ぎが良い?」
「えっ」
「ふ…、名前さんの顔、真っ赤。可愛い」
「からかわないで!」


やっぱり駄目だ。松川にはどんなに頑張っても敵わない。名前はなかばヤケクソになりながら松川の手をぎゅっと握った。どうかこれ以上ドキドキさせないで。本当に死んじゃいそうだから!そんな思いを込めて。
呼吸を止めてもまだ足りぬ

2人の初デートのお話。どこにも行っていませんが笑。甘い雰囲気だけでも感じていただきたい。