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- ナノ -

木兎の場合

2017 Valentine Day


「ヘイヘイヘーイ!チョコ大量だぜー!」
「木兎さん、うるさいです」
「なんだよ赤葦!お前も貰ったんだろー?」


体育館内に響く木兎の声に、名前は溜息を吐いた。なぜ自分は、あんな馬鹿みたいに鈍感なやつが好きなんだろう。一応、本命チョコとして作ってきたブラウニーが、ポケットの中でカサリと音を立てる。チョコ、大量なんだ。チクリと痛む胸が、木兎への想いを物語っていた。


「名前!お前のチョコは?」
「は?ないよ」
「なんでだよ!」
「木兎、チョコ大量なんでしょ?私からのチョコなんていらないじゃん」


我ながら可愛くないと思いつつも、ついいつもの調子で悪態を吐く名前。また何か言い返されるかもしれないと身構えていた名前だったが、それまで騒がしかった木兎が驚くほど静かになっていて、思わず動きを止めた。


「俺が大量にチョコ貰ってるから、くれねーのか」
「え?いや…別に、そういうわけじゃ…」
「決めた!チョコ、返してくる!」
「はあ?返すって…どこに?」
「貰ったやつに!やっぱいらねーって返す!」


わけが分からない。木兎の突拍子もない発言は今に始まったことではないが、今回は特に意味不明だ。大量に貰ったチョコを全て返すなんて到底無理だし、そもそも失礼ではないだろうか。


「チョコ全部なくなったら、名前がチョコくれるんだろ?」
「……え?」
「俺は大量のチョコより、名前のチョコ1個がほしい!」


体育館内に響く大声でそんなことを言うものだから、部員達は驚いて名前達の方へ目を向けている。こんな恥ずかしいことはない。事の発端となった木兎は、いつになく真面目な顔で名前を見つめているし、一体何がどうなっているのか。名前は混乱状態だ。
そんな2人のもとに近付いてきたのは、頼れる後輩、赤葦。やれやれ、といった様子だ。


「木兎さん、練習頑張ったら名前先輩からチョコ貰えると思いますよ」
「ほんとか赤葦!」
「そうですよね?」
「え?あ、う、うん…?」
「よーっし!赤葦、トス上げろ!」


赤葦の有無を言わせぬ物言いに頷いてしまった名前は、部活に全く身が入らなかった。
あっという間に部活は終わり、終わったと同時に木兎が名前の元へ駆け寄ってくる。どうしよう。どうしよう。思わず後退りする名前だったが、勿論、逃げられるはずがない。


「名前ー!今日の俺、絶好調だっただろ!」
「うん、そうだね」
「で、チョコは?」
「……はい。どうぞ」
「よっしゃー!名前のチョコ!本命だよな?」
「へ?」
「名前、俺のこと好きだろ?」
「な、何言って…、」
「俺は名前のこと好きだ!チョコありがとな!」


満面の笑みでチョコを受け取った木兎は、言いたいことだけ言って去って行った。残された名前は暫くポカンとして。けれど、何を言われたか自分の中で理解した途端、沸騰しそうなほど身体中が熱くなる。
鈍感なのはどっちだ。自分の方じゃないか。熱くて熱くて、このまま燃えてしまうんじゃないかと思っていた時、再び名前の元にやって来た木兎は、忘れてた!と言って。ぎゅっと名前を抱き締めたのだった。


「今日から名前、俺の彼女な?」
「勝手に決めないでよ!」
「ヤなのか?」
「…そういうわけじゃ、ない、けど」
「じゃあ決まりな!そうと決まれば一緒に帰るぞー!」
「ちょ、木兎、」


完全に木兎のペースだけれど、それでもいいかと思ってしまった名前は、自然と繋がれた手をそのままに一緒に体育館を出たのだった。



直球勝負な木兎が意外にも策士だったらギャップ萌えかもしれない。

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