×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

赤葦の場合

2017 Valentine Day


赤葦には1つ年上の彼女がいる。頭が良くて運動神経も良いくせに鈍感で少しおっちょこちょいで放っておけない。そんな、とても自分より年上には見えない名前が、赤葦は好きだった。
今日は名前に、部活が終わってから調理実習室に来て欲しいと言われていたため、着替えを済ませた赤葦は調理実習室に向かっていた。名前は料理部に所属しているから遅くまで使用していても問題ないのだろう。言われた通り、調理実習室に着いた赤葦は眉を顰める。なんだか焦げ臭い。


「名前さん…?いますか…?」
「あ!京治君!」
「……これ、なんですか…?」


調理実習室に入るなり目に飛び込んできたのは、恐らくカップケーキになるはずだったであろう真っ黒の物体。これを作ったのは間違いなく名前だ。赤葦は小さく溜息を吐いた。
名前は3年間料理部であるにもかかわらず、恐ろしいほど料理が下手なのだ。なぜ上達しないのか定かではないが、赤葦は今までまともな料理ができたのを見たことがない。


「それは失敗なんだけど…今焼いてるのがあるの!ほら、もうできた!」
「……確かに、こっちのよりは黒みが軽減してますね…」


たった今焼きあがったカップケーキは、黒というより焦げ茶色。まだ食べられそうな雰囲気だ。
名前はというと、もっと上手に焼けているはずだと信じていたのだろう。焼き上がったばかりのものを見て、相当落胆していた。なんとなく目が潤んでいて泣きそうでもある。


「ごめん京治君…」
「どうして謝るんですか?」
「だって、今日バレンタインデーなのに…やっぱり買ったやつ準備しておけば良かった…」
「そんなもの、必要ないでしょう」
「え?京治君!だめだよ!それ焦げてるから!」


肩を落としている名前をよそに、赤葦は出来立てのカップケーキにぱくりと噛り付いた。大慌てでそれを止めようとする名前に、赤葦はゆるりと微笑む。


「見た目よりずっと美味しいですよ」
「…京治君……」
「俺のために一生懸命作ってくれたんでしょう?不味いわけないじゃないですか」
「優しいね、京治君は…」
「誰にでも優しいわけじゃないんですけど」


そう言って名前の手を取り自分の方へ引き寄せた赤葦は、流れるような動作で唇を重ねた。突然の出来事に、名前は放心状態だ。


「カップケーキの味、分かりました?」
「…っ、分かんないよ…」
「じゃあもう1回します?」
「だめだめ!ここ学校だし!」
「冗談ですよ…」


我に帰った名前は赤葦の提案を全力で拒否すると、照れ隠しなのか後片付けをし始めた。黒焦げのカップケーキを処分して、まだマシな方のカップケーキだけを小袋に詰めている。


「それ、どうするんですか?」
「え?これ?んー…誰か食べてくれそうな人にあげようかな…あ、木兎とか。なんでも食べそうだし」
「駄目です」
「え?でも、」
「名前さんが作ったものは全部もらっておきます」
「そんなに食べられないでしょ」
「ちゃんと食べます。全部。木兎さんになんかあげられませんよ」
「…京治君まさか、ちょっと嫉妬してくれてる?なーんて…」
「悪いですか?好きな人のもの、他の人になんてあげたくないに決まってるでしょう」
「え、京治く…!」


もうしないはずだったのに、再び重なった唇。カップケーキよりこっちの方が美味しいですね。そう言って笑う赤葦を見て、名前は顔を真っ赤にさせて俯くことしかできなかった。



赤葦は年上のちょっと抜けた感じの先輩と付き合ってて常に優位に立っていてほしい。

BACK