×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

黒尾の場合

2017 Valentine Day


「研磨にも、どうぞー」
「ありがと…」


名前はバレンタインデーの今日、バレー部員達にチョコレートを配っていた。みんなマネージャーからのプレゼントに顔が綻んでいる。そんな中、不機嫌そうな男が1人だけいた。黒尾だ。
なぜ黒尾が不機嫌そうなのか。理由は簡単で、自分の彼女である名前が他の男子達にもチョコを渡しているのが気に入らないのだ。しかも、自分がもらったチョコもみんなのそれと同じとなれば、不機嫌になるのも当然かもしれない。


「クロ…顔、怖い…」
「うっせー。お前、今日はゲーム買いに行くんだろ。さっさと帰れよ」
「八つ当たりしてないで早く名前のところ行ったら?」


研磨にたしなめられた黒尾は、部活終わりに自分を待つ名前の元にゆっくり近付いた。黒尾の存在に気付いた名前は、ぱあっと顔を輝かせる。その表情にイライラも少しは落ち着いたが、まだ不機嫌であることに変わりはない。


「お疲れ様」
「…おう」
「なんか機嫌悪い?」
「さあ?」
「……怒ってるの?」
「さあ?」
「チョコ、他の人にもあげたから?」
「さーあ?」


何をきいても同じ返答しか得られず、名前は困ってしまう。名前に対しては大概甘い黒尾だが、今回ばかりはそう簡単に機嫌を直す気はないらしい。
名前は自分の前をどんどん歩いて行く黒尾の服の裾を摘んで、くいくいと引っ張ってみる。それでも、振り返るどころか立ち止まることすらしてくれない。いつもなら隣を歩いてくれるはずなのに、そんなに怒らせてしまったのだろうか。


「鉄朗の馬鹿!もう知らない!こんなの捨てちゃうんだから!」
「痛っ!何投げて……、」


自分の後頭部にクリーンヒットしたものを拾い上げた黒尾は、思わず言葉を詰まらせた。赤く四角い箱は、中身を見ずとも何が入っているか分かってしまう。けれど、部員達にあげたものと同じそれをくれたはずの名前が、なぜ更に違うものを用意しているのか。黒尾は頭を悩ませた。


「これ、俺にくれんの?」
「最初から、鉄朗にはちゃんと別の用意してたもん。みんなと同じのあげて、実は本命は別にあるんだよーって驚かせるつもりだったのに…」
「なんでそんな面倒なことすんだよ。こっち先にくれたらこんなことになんなかっただろ」
「…普通に渡してたら、鉄朗、どんな反応した?」


黒尾にその質問の意図は分からなかったが、一応想像してみる。部員達の前でもらったら、名前は俺のこと大好きだもんなー?とかなんとか言って、恐らくからかっていただろう。もしかしてからかわれるのが嫌だったのか。


「俺にからかわれるのが嫌だったってこと?」
「違うよ。私は普通に、単純に、喜んでほしかったの」


黒尾は今までのことを思い返してみた。誕生日もクリスマスも、プレゼントを貰うたびに自分はどんな反応をしていただろうか。素直に喜んでありがとうと言ったことがあっただろうか。
捻くれ者の自分は、つい照れ隠しにからかうようなことばかり言っていた。逆に名前は、自分の何でもない言動にも笑顔でありがとうと言ってくれていたのに。


「名前、悪かった…」
「いいよ…もう。どうせそんな大したもの作ったわけじゃないし」
「すげー嬉しい」
「え、」
「ありがとな」


ちょっと照れながら笑う黒尾を見て、名前も思わずつられて笑う。いつも素直じゃないし、からかわれてばかりだし、振り回されてばかりのような気がするけれど、たまにこんな笑顔を見られるなら許せてしまう。名前は黒尾の手に自分の手を絡めた。


「今日ぐらい、手繋いで帰ろ」
「珍しー。いつも恥ずかしがって嫌がるくせに」
「いいの。今日はバレンタインデーだから」
「毎日バレンタインだといいのになー」


繋いだ手からお互いの体温を感じながら、2人は帰り道をゆっくり歩くのだった。



高校生黒尾は大人に見えて意外とガキっぽいのではないかと妄想してみた結果、かなり幼稚なヤツになってしまった。

BACK