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松川の場合

2017 Valentine Day


松川一静という男は、年齢に不釣り合いな容姿と性格をしていると思う。見た目は兎も角として、性格は完全に大人のそれだ。
3年間同じクラスでそこそこ仲の良い女友達のポジションをゲットした名前は、そこから恋人へどうステップアップしていこうか非常に悩んでいた。大人な松川を出し抜く方法なんて自分には考え付かない。ならば、真正面からぶつかるのが1番いい。そう意気込んでバレンタインデーをむかえた。
柄にもなく手作りのトリュフを用意したのは、大人な松川に喜んでもらえるようビターなものにしたかったからだ。形はそんなに綺麗ではないが、味はきっと気に入ってもらえるだろう。
部活終わりを狙って渡そうと正門で待っていると、いつものメンバーとともに歩いてくる松川が見えた。


「松川」
「ん?名字?なんでこんな時間までいんの?」
「ちょっと、話があって」
「話?あー…分かった」


何かを察したらしい松川は残りの3人に先に帰るよう告げて名前のところに戻ってきた。途端、今から告白するのかと思うと緊張してきて、名前は無言でトリュフを突き出す。


「何これ。もらっていいの?」
「うん」
「へー…トリュフ?手作り?」
「バレンタインデーだから」
「そっか。ありがと。美味そう」


俯いたまま最低限の発言しかしない名前にツっこむこともなく、松川はそのラッピングをほどくと、トリュフを食べ始めた。さすがにその行動に驚いた名前は、視線を上げて松川を凝視する。


「ん、美味い。けど、苦いね」
「松川は大人だから苦い方が好きかと思って…」
「俺が?大人?」
「うん」
「どんなところが?」
「え?えっと…いつも落ち着いてるところとか、私の話黙ってきいてくれるところとか、余裕そうな感じとか?」


尋ねられたことに対して素直にそう答えると、松川は怪訝そうな顔をした。何か気に障るようなことを言っただろうか。不安になる名前に、松川は眉を下げて苦笑する。


「俺、そんな風に見える?」
「うん」
「これでも結構、テンパってるよ。毎日」
「…そうなの?」
「誰かさんがニコニコしながら話しかけてきた時とか、俺の服の裾掴んで上目遣いで見上げてきた時とか、正門で俺のこと待っててくれた時とか」
「え、それ、まさか、」
「名字の前だと、俺、余裕ないんだけど」


そんな、まさか。松川の発言は、まるで名前だけは特別だと言っているみたいで。勘違いかもしれないけれど、名前は自分の身体が熱くなるのを感じた。どうしよう。今、言うしかないよね。


「あの、松川」
「うん?」
「私…松川のこと、」
「好きだよ」
「へ、」
「名字のこと、好きだよって言ったの」


自分が言おうとしたことをまさか先に言われるとは思っていなかった。しかも、好きだなんて。恥ずかしいやら嬉しいやらでアタフタしている名前を見て笑っている松川は、やっぱり大人だと思う。仮にも告白したくせに、なぜ平然としていられるのか、名前には不思議でたまらない。


「名字も俺のこと好きだよね?」
「…知ってたの……?」
「うん。ごめん、必死な感じが可愛くて見てたんだけど…先に言われちゃうと男のプライドが傷付くから」
「ずるい…」


終始、松川に翻弄されまくりな自分って相当マヌケじゃないか。両想いだったことは嬉しいが名前は複雑な心境だった。そんな名前の様子に気付いたのか、松川は名前の手を取って自分の方に引き寄せると胸の中にすっぽりとおさめてしまった。
まだ部活帰りの生徒達がいるのに、こんなことをするなんて松川はどういう神経をしているのか。名前はなんとか離れようとするが、松川がその手を緩めることはない。


「まつ、かわ!」
「俺、結構独占欲強い方だと思うんだよね」
「何言ってんの…?」
「みんなに見せつけてやろうと思って」
「そんな、子どもみたいなこと…」
「俺、大人じゃないでしょ?」


そう言って笑った松川は掠めるように名前の唇を奪う。キスされた。そう認識した名前は、やっぱり大人じゃんか、と思いながら松川を睨むことしかできなかった。



余裕ないとか言いながらそんな素振りを見せない大人な松川にはビターチョコが似合うはず。

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