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花巻の場合

2017 Valentine Day


花巻は落胆していた。今日は世の中の男女が浮き足立つバレンタインデー。意中の相手にチョコを貰えるか、渡せるかとドキドキする1日だ。花巻も例外ではなかったのだけれど、意中の女の子にはどうやら自分以外に好きな人がいるらしく、少し前、中庭に走っていくところを見かけた。完全に失恋してしまった。そう思い、落胆していたのだ。教室の机で項垂れる花巻。周りの人間は何事かと不思議に思っているものの、誰も声をかけようとはしない。そんな時だった。


「花巻、どうしたの?」
「……名字?」
「元気ないね。何かあった?」
「いや……まあ、ちょっと……」


歯切れの悪い返答をする花巻に首を傾げる名前。花巻がそんな反応になってしまうのも無理はない。自分がつい先ほど失恋したと思っていた相手に、声をかけられたのだ。告白はどうなったのだろうか。知りたいような知りたくないような複雑な感情が花巻の中で渦を巻く。


「さっき中庭行くの見たけど」
「あー、うん。もう終わった」
「…告白、じゃねーの?」
「気になるー?」


クスクスと笑う名前に僅か見惚れて、花巻は我に帰る。惚れた弱みというやつなのか、花巻は名前の無邪気な表情にめっぽう弱いのだ。


「別にー?」
「…ふーん。そう。じゃあ教えてあげない」
「好きにしろよ」


花巻と名前は友達だった。お互いに異性の中では1番仲が良い存在であるがゆえ、恋愛要素など一切ない関係を築き上げてしまった。だから花巻は、名前のことが好きだとは口が裂けても言えないのだ。そして仲が良いからこそ、憎まれ口ばかり叩いてしまって現在のような状況に至ることは珍しくない。
またやってしまった、と後悔する花巻に、名前は、そういえば、と呟いた。


「これ、あげる」
「…何?」
「バレンタインデーだから」
「は?お前、さっき告白したんだろ?」
「はあ?違うよ。呼び出されたの。逆チョコってやつ?断ったけど」


名前の返答に心底安堵して、気分が急上昇する自分はなんと現金なやつなのだろうか。そう思うけれど、花巻は緩む頬を引き締めることができない。
しかも名前からバレンタインのチョコまで貰えるのだ。小さな箱を受け取り中を見ると、好物のシュークリームが2つ並んでいた。


「なんで2つ?」
「1つはアタリ。もう1つはハズレ。どっちか選んでよ」
「ロシアンルーレットかよ。バレンタインぐらい可愛いことしろよな」
「いいから、早く選んで」


何はともあれ嬉しいことに変わりはないくせに、ありがとうの一言も言えない自分を恨みつつ、促されるまま左側のシュークリームを選ぶ。食べてみて、と言われたのでパクリとかぶりつけば、中からはチョコクリームが溢れてきた。


「アタリ。良かったね」
「美味いけど。アタリだったらなんなの?」
「……私、花巻のことが好きだよ」
「は…?」
「アタリだったら言おうって決めてたの。それだけ。じゃあね」


言うだけ言って猛ダッシュで教室を出て行く名前を、花巻は急いで追いかけた。女子にしては速い名前だが、そこは男と女。屋上に駆け上がる名前を、難なく捕まえた。


「なんで逃げてんだよ…」
「だって、恥ずかしいじゃん」
「言い逃げすんな」
「言っとくけど返事とかいらないからね。そういうの期待してるわけじゃ、」
「好きだよ。俺も名字が」
「う、そ……だって、いつも可愛くないって、」
「本気でそんなこと思ってるわけねーだろ」


驚愕と歓喜と羞恥が入り混じって混乱しているらしい名前に、花巻はそっと手を伸ばす。ポンと頭を撫でてやれば、今にも泣き出しそうな顔で笑う名前の姿があった。
それにしても、シュークリームでアタリを引いて良かった。もしハズレだったらこの状況はきっと生まれていなかっただろう。そんなことを思う花巻に、名前が信じられないことを言ってきた。


「花巻。もう1個のシュークリームも食べてみてよ」
「なんでハズレ食わなきゃいけねーんだよ」
「いいから!」
「はあ?…意味分かんねー…」


なぜかハズレのシュークリームまで食べろと言われ、嫌々ながらも控えめに齧ると、中身はアタリと同じチョコクリームだった。さっぱり意味が分からない花巻に、名前は悪戯っぽく笑う。


「それもアタリ」
「…それって、」
「どっち食べてもアタリだよ。今日言うって決めてたんだもん」


してやられた。全ては名前の思うツボだったということか。なんとなく悔しいが、満足そうな名前を見たらどうでもよくなって。花巻はせめてもの仕返しにと、額にキスを落としたのだった。



花巻には絶対シュークリームネタと決めていた。シュークリームって作るの大変なのにヒロインすごい。

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