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- ナノ -

岩泉の場合

2017 Valentine Day


岩泉はよく鈍感だと言われる。特に恋愛に関しては飛び抜けて鈍感らしい。だからといって困ったことなど一度もないし、別に彼女なんていなくても良い。そう思っていた。
そんな岩泉でも、バレンタインデーというイベントはさすがに知っている。幼馴染の及川が毎年信じられないぐらい大量のチョコを貰うのを間近で見ているからだ。岩泉も、及川ほどではないにしろ、チョコレートは幾つかもらったことがある。勿論、全て義理チョコだ。
今年も困らない程度にはもらえるのだろうかと思っていると、クラスの男子に名前を呼ばれた。ニヤニヤ笑いながら見てくるものだから何事かと思えば、教室の扉の前には1人の女子がいる。どうやら自分に用があるのはその女子らしく、周りからは好奇の目が向けられていた。岩泉もそうだが待っている女子も格好の餌食にされているため、岩泉はとりあえずその女子の手を引いて人気のない空き教室に向かう。


「あ、あの、岩泉先輩、手…」
「あ?ああ…悪ぃ…」
「いえ、その、突然クラスに行ったりして、すみませんでした」
「俺は別にいいけどよ。えーと、」
「名字名前といいます。2年生です」
「名字は俺に何の用事?」


見たことのない顔だと思ったら、後輩だった。岩泉は益々自分に何の用事があるのか分からなくなる。岩泉が素直に尋ねれば、名前は一瞬にして顔を真っ赤にした。なんだ、これは。こんな反応、されたことがない。表情にこそ出てはいないものの、岩泉は慌てていた。


「私…岩泉先輩のことが好きです。今日、バレンタインだから…チョコ、渡したくて……」
「お、おう……」
「岩泉先輩のバレーしてるところ、ずっと見てました。カッコいいなって。これからも応援させてください!」
「え?あ、おう…サンキュ…」


ド直球で告白された岩泉は、曖昧な返事を繰り返すことしかできなかった。可愛らしくラッピングされたチョコは明らかに手作りで、自分のことを想って作ってくれたのかと思うと、なかなか嬉しいものだった。義理チョコとはわけが違う。
いまだに真っ赤になっている目の前の小さな名前を見て、岩泉は考える。好きだと言われた。俺も嫌な気持ちはしないし、必死な名前を見て可愛いとも思っている。いくら鈍感だと言われているとはいえ、ここまで真っ直ぐに告白されれば自分だって真剣に応えなければならないことぐらい分かる。


「名字、そのー…なんだ、」
「あの、返事なら大丈夫です。気持ち、伝えたかっただけなので…」
「おい、待てって、」


断られるのは分かっている、というニュアンスの発言を残し立ち去ろうとする名前の腕を、岩泉は咄嗟に掴む。立ち止まらざるを得ない名前は岩泉に背を向けたままだ。


「本気、なんだろ」
「え?」
「さっきの。好きってやつ」
「…はい」
「それなら返事、きけよ」


掴んだ腕をゆっくり離し名前が逃げないことを確認した岩泉は、大きく深呼吸する。


「名字のことはどんなやつか知らねぇけど、俺のことが好きって気持ちは伝わった」
「……良かったです」
「これから名字のこと、教えてほしい」
「え……?」


ド直球な告白にド直球に返事をするところが、なんとも岩泉らしい。名前は状況が飲み込めず困惑していた。それはつまり、どういうことなのだろうか。


「今はまだ名字のこと好きとは言えねぇけど、これから好きになるかもしんねぇだろ。だから、色々教えろよ」
「…は、い」
「ん。……これ、サンキュな。部活終わりに食う」
「はい!」


まだまだ友達でも恋人でもないけれど。数ヶ月後、手を繋いで歩く2人の姿が目撃されたのは、また別のお話。



岩泉はどうしてもウブなイメージがあってバレンタイン関係ない展開になってしまった。

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