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及川の場合

2017 Valentine Day


及川と名前は、今年のバレンタインで付き合って丁度1年を迎える。去年のバレンタインデー、名前が何気なくチョコレートを渡したところ、及川から告白されるというまさかの事態が発生した。引っ込み思案で自分から行動を起こすタイプではない名前だったが、密かに想いを寄せていた及川からの告白を断るわけもなく。それから2人は、順調にお付き合いを続けていた。
さて、そんな思い出のあるバレンタインデー。名前はどんなチョコレートをあげるべきか悩んでいた。及川は知っての通りモテモテなので、今年も大量のチョコレートをもらうことだろう。他の人と同じようなチョコレートはあげたくない。とは言え、パティシエでもなければ料理人でもない名前には良いアイディアは思いつかず。結局、ミルク風味強めのガトーショコラを作ってしまった。
バレンタインデー当日。名前は一応綺麗にラッピングしたガトーショコラを持って学校に行ったのだが、及川は朝からずっと女の子に囲まれていてとても近付けない。分かっていたことではあるけれど、自分を優先してくれない及川にチクチクと胸が痛む。もういっそ、渡さずに捨ててしまおうか。それとも誰か他の人にでも渡してしまおうか。そんなことを考えていた時、隣の席の男子が声をかけてきた。


「名字さんは義理チョコくれない派?」
「え?ああ…あるよ。ちょっと待ってね」


義理チョコ用に小袋に分けたトリュフも作っていたので、それを渡そうと袋を漁る名前だったが、袋の中はいつの間にか空っぽになっていた。多めに作ったつもりだったがなくなってしまったようだ。残っているのは及川に渡す用に準備したガトーショコラのみ。
名前は少し悩んでから、それを隣の席の男子にあげることにした。どうせ及川には渡せないだろう。名前にとっては大切な思い出のバレンタインだけれど、及川はそこまで気にかけていないようだし、自分だけ気合いを入れていたら重たい女だと思われるかもしれない。捨てるより誰かに食べてもらった方がいいに決まっている。


「これで良かったら、どうぞ」
「えっ、いいの?なんかちょっと豪華っぽくない?」
「いいの。美味しいか分からないけど食べて」
「ありがとう」


そうして及川に渡すはずだったガトーショコラは顔見知り程度のクラスメイトの手に渡ってしまったのだった。
それから何事もなく1日が終わり、あっという間に放課後になった。帰り支度をしていた名前のところにやって来たのは、漸く女の子達から解放されたらしい及川。


「名前ちゃん、」
「どうしたの?」
「今日…全然話せなかったから、」
「仕方ないよ。バレンタインだもん」
「…名前ちゃんのチョコは?」
「……ごめん。徹君いっぱいもらうからいらないかなと思って用意しなかったの」


名前は及川と目を合わせずにそんな嘘を吐いた。今更、自分のチョコレートなんてほしいわけがない。沢山の大きな紙袋いっぱいに詰まったチョコレートが及川の席に置いてあることは分かっているのだ。


「うそ。ちゃんと作ってくれたんでしょ」
「…本当にない。探してみなよ」
「これ…俺に渡すつもりだったんじゃないの?」
「えっ…なんで、それ…」


及川の手には、なぜか隣の席の男子にあげたはずの名前手作りのガトーショコラ。意味が分からない名前は及川を見つめて呆然とすることしかできない。


「名前ちゃんが義理チョコ配ってるのは知ってたよ。でも、隣の子にだけ違うのあげてるの見えたから。他のチョコと交換してもらった」
「……なんで、そんなこと…」
「どんなに沢山のチョコもらっても、名前ちゃんからのチョコじゃないと嬉しくないよ。なんでくれなかったの?」
「だって、あんなに女の子達に囲まれてたら近付けないよ」


名前は俯きながら答えた。1年経った今でも、名前は自分が及川の彼女であるという自信が持てなかった。だからこそ、女の子達に囲まれる及川に近付くことなんて、できなかったのだ。


「…今日で付き合い始めて1年だね」
「そう、だね」
「名前ちゃん」
「なぁに…?」
「俺とこれからもずっと付き合ってください」
「…え?」
「俺といる時、いつも不安そうだよね。自分で良いのかなって顔してる」
「……そんなこと…」
「俺はね。名前ちゃんが良いんだよ。他の人じゃダメなんだから」


なぜか泣きそうな顔をしながらそんなことを言う及川に、名前は自分の胸がキュンと締め付けられるのが分かった。誰になんと言われても良い。自分が好きなのは及川だ。及川も、自分が好きだと言ってくれる。それ以上、何を望むというのだろう。


「徹君、私、徹君のこと好きです」
「うん。俺も好きだよ」
「徹君に渡す勇気なくて、隣の男子にあげちゃってごめんなさい」
「俺も他の女の子達ばっかり構っててごめんね。不安にさせないように、俺、頑張るから」


まだ他のクラスメイトも残っている教室内で、及川はそっと名前のことを抱き締める。普段なら何もできずに固まってしまう名前だけれど、今日は特別な日だから。自分の想いが伝わりますように。そんな願いを込めて、遠慮がちに及川の腰に手を回したのだった。



及川と付き合っていたら絶対にあるあるネタ。ありがちな内容で申し訳ない。

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