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澤村の場合

2017 Valentine Day


「あの、スガ君にお願いがあるんだけど…」
「何?」
「その…これ、澤村君に渡してくれないかな…部活の時にでもこっそり」
「えっ、自分で渡しなよ」
「無理!返されたら立ち直れないし…お願いね!」


名前は菅原に押し付けるようにチョコを渡すと、急いで自分のクラスに戻った。今日はバレンタインデー。あちらこちらでチョコを渡す女子の姿が見える。何を隠そう、名前も恋する乙女の1人だった。
相手は菅原ではなく、バレー部主将の澤村だ。大らかで大人っぽくて、けれど屈託なく笑う澤村に、名前は2年生の頃から想いを寄せていた。簡単な会話をする程度には仲良くなったものの、そこから先へはなかなか踏み出せない。高校生活も残り僅かとなった2月、想いを伝えるべきか否か迷った結果、名前は自分で伝えるのを断念し菅原に託したのだった。
ここまできてフラれてしまったら、卒業までの残り数週間が気まずくて堪らない。だからせめて間にワンクッション置こうということで菅原がチョイスされたのだ。


「名字ー、澤村が呼んでるけど」
「えっ、なんで」
「知らねーよ。自分できけって」


クラスの男子に呼ばれ教室の入り口に視線を送ると、なんとなく不機嫌オーラを醸し出している澤村と目が合った。その手には菅原に託した名前のチョコが握られている。
部活の時に渡してって言ったのに!なんでもう渡しちゃってるの!菅原を責めたところでどうしようもない。名前は重たい足取りで澤村の元へ向かった。


「名字、話があるんだけど」
「あの、えーっと、」
「とりあえずこっち」
「え?ちょ、澤村く、ん」


グイグイと。手を引かれるまま連れて来られたのは誰もいない屋上だった。文字通り、2人きりである。澤村は名前の腕を解放すると、真正面から向き合って手に持っていたチョコを突き返した。


「なんでスガから渡されないといけないんだ」
「ごめん…なんか、恥ずかしいし、」
「他の男子には自分から渡してたじゃないか」
「それは、だって…」


他の男子は義理チョコだから簡単に渡せるけど、澤村のは本命チョコだから渡す勇気がなかった。とは、言えなかった。妙な沈黙が訪れ、暫くその状態が続く。
はあ、と。澤村が大きく溜息を吐いたことで、名前は胸が締め付けられた。自分のせいで澤村を困らせている。でも、本当のことを言ったら告白になってしまう。何かうまく誤魔化す方法はないだろうか。


「あのなあ…俺の身にもなってくれ」
「そうだよね、困るよね」
「好きな人からのチョコをスガから渡されて、俺はどうしたらいいんだ」
「うん……う、ん?」


名前は自分の耳を疑った。澤村は今、自分からのチョコを、好きな人からのチョコ、と言ったような気がする。それは、つまり、澤村の好きな人が自分ということになってしまうわけで。何かの間違いではないかとワタワタしている名前に、澤村はチョコを突き返し続ける。


「俺は名字から直接もらいたい。これ、返すから」
「え、でも、」
「でも、何?」
「……なんでも、ないです…」


恐ろしい笑顔にたじろぎながら、名前は自分のチョコを手に取った。これ、渡す意味あるのかな。疑問に思いながらも、名前は澤村に再びチョコを渡す。


「これ、どうぞ」
「ん。ありがとな」
「うん」
「……で?名字の気持ちは?」
「え?」
「俺はさっき言ったろ。名字が好きだって。返事は?」


さらりとそんなことを確認してくる澤村はなんだか楽しそうで。自分の気持ちなんて、きっともうバレているに違いない。


「私、も…好きです」
「最初からそう言って渡してくれたら良かったでしょーが」
「だって、断られたら辛いもん」
「断るわけないだろ」


俺はずっと前から名字のことが好きだったんだから。
そう言って屈託なく笑う澤村を見て、やっぱり好きだなあなんて思って。名前は、自分もずっと好きだったことを伝えた。
卒業まで残り数日。2人の青春はまだ始まったばかり。



澤村は付き合ったらすごくすごく大切にしてくれそう。包容力ピカイチなイメージ。

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