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月島の場合

2017 Valentine Day


月島には、山口ともう1人、名前という幼馴染みがいた。ふわふわしていて危なっかしくて、山口よりも頼りない名前を月島は疎ましく思っていたが、高校生になってからはそれがどういうわけか恋心に変わっていった。人間の心理というのはよく分からない。
幸か不幸か、月島は名前と同じクラスだったので、それまで通り世話を焼いていた。山口と3人で昼食を取るのもお決まりである。そんないつも通りの昼休憩。名前は山口にラッピングされたマドレーヌを渡した。


「いいの?」
「うん。忠君にはいつもお世話になってるから。ハッピーバレンタイン」
「ありがとう」


目の前で繰り広げられるやり取りに、月島は苛立ちを隠せない。しかも山口に渡しておきながら自分には何もないとなれば、イライラはMAXに達した。名前の面倒を1番見ているのは自分じゃないか。それが分かっていないのだろうか。
けれど、そんなことを言ったら山口に嫉妬しているみたいでカッコ悪い。月島は不機嫌そうにダンマリを決め込むしかなかった。


「蛍君、あの…」
「早く食べてどっか行ってくんない?次の授業移動教室だから早く準備したいんだけど」
「あ、うん。ごめんね」


何かを言いかけた名前の言葉を遮り冷たくそう言い放った月島に、名前は何も言い返さずお弁当を食べすすめた。山口がハラハラしながら見守る中、雰囲気は最悪のまま、昼休憩が終了する。
結局、そのまま放課後になり部活を終え、時刻は夜の7時を過ぎていた。月島は部活中もイライラがおさまらず、影山に突っかかりすぎたせいで澤村の檄が飛んだ。
山口はいつもの自主練に向かうとのことで、月島は1人、自宅までの帰路を歩く。家まであと少しというところで、月島の目に飛び込んできたのは名前の姿だった。


「名前?何してんの?」
「あ、蛍君。部活お疲れ様」
「何してんのかってきいてるんだけど」
「あのね、これ…蛍君に渡そうと思って」


そう言っておずおずと月島に渡してきたのは、ケーキ屋さんでよく見るそれだった。まさかと思い中を確認すると、そこには月島の大好物であるショートケーキがあった。


「学校にショートケーキは持って行けなくて…渡すのが遅くなってごめんね」
「…これ、渡すためだけに待ってたの?」
「そうだよ」
「馬鹿じゃないの」


素直に、嬉しいとかありがとうとか、言えたらどんなに良いだろう。けれど、月島の口から飛び出てきた言葉はいつも通り辛辣なものだった。本当は嬉しくて堪らないのに。


「暗いから。送る」
「いいよ、大丈夫」
「最近ここら辺で不審者出たって話、きいてないの?」
「でも、迷惑、かけるから」
「僕が送るって言ってるんだから良いんじゃないの?」
「……ありがとう」


暗闇の中、ぼんやり見えた名前の顔は嬉しそうで。月島は胸のドキドキを悟られないよう、名前に背を向けた。先ほどまでのイライラは勿論消えている。


「蛍君、いつも迷惑かけてごめんね」
「…もう慣れたし」
「私、蛍君に頼らなくて良いように頑張るね」
「良いんじゃないの。そのままで」
「え?」
「僕以外の奴に頼ったら許さないけど」
「……蛍君、あの、それって…」
「分かったらさっさと歩いて。帰り遅くなるから」


何気なく自分の手を引いて歩く月島に、名前は驚きながらも素直に従った。繋いだ手から伝わる熱が、名前には心地よかった。



月島がどうやっても甘いセリフを言ってくれなくて困り果てた結果、終着点迷子。

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