×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

瀬見の場合

2017 Valentine Day


クラスでも結構人気がある名前に、瀬見は密かに恋心を抱いていた。物腰柔らかい雰囲気や女友達と話している時にちらりと見せるふんわりとした笑顔が、男心を擽るのだ。
とは言え、ただのクラスメイトでしかない自分のことなど名前は覚えてすらいないだろう。そう思っていたのに、なんとバレンタインデーの今日、瀬見は名前から可愛らしいチョコレートマカロンをもらってしまった。


「俺に?くれんの?」
「うん。瀬見君には特別に」
「なんで…?」
「瀬見君、知らないの?今日バレンタインデーなんだよ?」


名前は瀬見が好意を抱くきっかけとなったふんわりとした笑顔で、なんでもないことのように言ってのけた。その言動にどきりと胸が高鳴るが、無駄に期待しては駄目だと自分に言い聞かせて、瀬見は何食わぬ顔をしてみせる。


「知ってるけど。義理チョコ、クラスのやつ全員にあげてんの?」
「ううん。全員じゃないよ」
「でも、俺だけでもないだろ?」
「ふふ…どうでしょう?」


名前とまともに話すのは初めてだったが、こんなに小悪魔的だったとは知らなかった。もしかして自分の気持ちがバレているのだろうか。そんな瀬見の不安など知りもしない名前は、再び口を開く。


「瀬見君、マカロンをあげる意味って知ってる?」
「意味なんかあんの?」
「あるよ。例えばキャンディーだったら、あなたが好きです、とか」
「…へぇ」


例えでも、好き、という単語に反応してしまった瀬見は、ぎこちない相槌を打つだけで精一杯だった。しかし、キャンディーがその意味ならマカロンは何なのだろうか。考えても分かるはずなどなく、瀬見は押し黙る。
分からない?降参?と、まるで悪戯が成功した子どものように無邪気な問いかけをしてくる名前に、またもや胸がどくんと脈打つ。これは、やはり確信犯なのだろうか。


「正解はね、あなたは特別な人」
「………は?」
「ふふ、びっくりした?」
「名字…俺のこと、そんなに知らねぇだろ」
「バレーで頑張ってるのは知ってるよ」
「でも、それだけで…」
「ちなみにね。マカロンあげたのは瀬見君にだけだから」


これは期待しても良いのだろうか。もし駄目だとしたら、名前という女の子は相当人の心を弄んでいる。瀬見は確認の意味を込めて、尋ねてみることにした。


「名字、俺のこと好きなのか?」
「……どう思う?」
「特別な人、なんだろ?」
「うん。そうだよ」
「じゃあ、そういうことだと思っても良いんだよな?」


瀬見はイマイチ核心を突けなかった。現に、瀬見の問い掛けに対して、名前は否定も肯定もしていない。思わせぶりといえばそうだが、そんなところにも心を擽られる自分が、少し情けない。


「瀬見君」
「……なに…?」
「ホワイトデーのお返し、期待してるね」
「は?いやいや…その前に名字の気持ちは…?」
「私、キャンディーがいいな」
「そんなので……、」


そんなので良いのか?と言おうとして、瀬見は口を噤む。先ほどまで名前としていた会話から、キャンディーを贈る意味を思い出す。そうだ、キャンディーを贈る意味は、あなたが好きです。
そこまで考えが至ったところで、瀬見は名前を凝視した。ほんの少し頬をピンク色に染めて微笑む姿は、やっぱり、可愛らしい。


「待ってるね?」
「……期待してろよ」


強がりだとバレバレだっただろうけれど、瀬見の言葉に満足そうに頷いた名前は自分の席に戻っていった。
名前が視界から消えたことを確認して、瀬見は机に突っ伏す。完全に、やられた。いつどのタイミングで自分に好意を抱いてくれたのかは分からないが、こんなにも心が躍るなんて、自分はなんて単純なのだろう。
突っ伏したまま瀬見は考える。ホワイトデーなんか待ちきれないから、明日にでも大量のキャンディーをプレゼントしてやろう。ありったけの、好き、が伝わるように。



もはやこれは瀬見なのかどうか疑うレベルで非常に申し訳ない…。

BACK