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※大学生設定


二口と名前が出会ったのは大学に入ったばかりの頃だった。同じ学部で同じ学科。そのため、必然的に同じ講義を受講することが多く、それに加えて何の因果か、2人は講義中のグループワークで同じ班になる確率が非常に高かった。そんなわけで自然とよく話すようになったわけなのだけれど、いつからか二口と名前は、会えば口喧嘩をする関係になっていた。最初は勿論、普通の男女の友達として話していたはずなのに、なぜこんなことになってしまったのか。原因は当人達にも分からない。しかしながら、喧嘩するほど仲が良いとはよく言ったもので、なんだかんだ言いながらも2人は、お互いの家を行き来するほどの仲だった。
付き合っているわけではない。俗に言う、友達以上恋人未満といった関係。名前は今日も、二口の部屋に遊びに来ていた。理由は、最近別れた彼氏の愚痴をきいてもらうため。…というのは建前で、本音は、ただ二口と一緒にいたいから、という至極シンプルなものだった。そう、名前はあろうことか、二口のことが好きなのだ。
今更可愛らしく告白なんてできる間柄ではない。自分の気持ちを誤魔化すために彼氏を作ってはすぐ別れ、二口の家で愚痴を言う。名前は、そんなことをここ2年ほど続けていた。今日も今日とて、名前は二口の家にお邪魔してローテーブルに肩肘を付きながら、2日ほど前に別れたばかりの彼氏の愚痴を零す。


「でさあ、他の男と話すのも控えてほしいとか言われて、そんな束縛されるの嫌じゃん?だから別れたんだよねー…って、堅治、きいてる?」
「きいてるきいてる。つーか俺の家で愚痴んのをルーチンにすんな」
「だって居心地いいんだもん。お菓子あるし。そのグミちょーだい」
「これ新作だからやだ」


ぼーっとお昼のワイドショーを見ながらグミを摘んでいる二口は、名前の方を全く見ない。私の別れ話よりも人気女優の泥沼不倫の方が気になるのか、と名前は密かに溜息を吐く。
毎回のことだから慣れてしまったのだろうけれど、こうも興味を示されないと落ち込んでしまうのは仕方のないことだ。所詮、女友達。二口の部屋に2人きりでいつもドキドキしているのは自分だけなのだと思うと、名前は胸が苦しくなった。
そんな感情を悟られぬよう、名前は再び別れた彼氏の愚痴を言い始める。本当は好きでもないのに付き合った何の未練もない男のことだから、愚痴らしい愚痴なんてない。ただ、ほんの少しでも、こいつ彼氏と別れたんだなーフリーなんだなーと、二口に意識してほしいだけだ。そんな名前の思惑が成功したことは、一度もないのだけれど。


「……私そろそろ帰る」
「は?まだ話の途中じゃねーの?」
「だって堅治、明らかにきいてないよね?」
「きいてるっつったろ」
「テレビばっかり見てるじゃん」
「テレビは見てるけど名前の話もきいてやってんの。俺って器用だから」


やっとのことで名前の方に顔を向けた二口は、そんな都合の良いことを言ってのけた。名前は、絶対うそじゃん、と思いつつも、視線が合ったことが嬉しくて微妙に口元を緩めてしまう。
とは言え、もう愚痴のネタも尽きてきた。今日はこれから講義もバイトもないし、あわよくばこのまま二口の家に入り浸れたらと思っていた名前だったが、さすがにそこまで図々しくはなれない。用もないのに居座るわけにもいかないので、やっぱり帰るわ、と言って立ち上がろうとした名前の手を、二口が掴む。


「結局、なんで別れたんだよ」
「え…?それは…まあ、私と合わなかったからじゃないの」
「へー。じゃあ名前と合うやつって誰?」
「そんなの知るわけないじゃん。私がききたいよ」


掴まれた手に心臓をバクバクさせながらも、名前はいつものごとく返事をした。こんな時ぐらい照れたりすればいいものを、自分はつくづく可愛くないやつだと罵倒する。
それにしても、二口からそんなことをきいてくるのは珍しい。本当に話をきいてくれていたのか、と少しばかり喜んでいると、名前の手を掴む二口の力が強くなった。痛いほどではない。けれど、逃さないと言うようなその動作に、名前は僅か戸惑う。


「俺が教えてやろうか?」
「なんで堅治が知ってんの…?」
「お前に合うやつって、」
「わ!」
「俺しかいねーだろ」


ぐい、と引き寄せられた手。名前はバランスを崩して隣に座っていた二口の胸に顔からダイブしてしまった。ドクドクと鳴る心臓がうるさい。
二口は今、何と言った?引き寄せられた直後、自分の頭の上できこえた発言が、名前には信じられなかった。


「…お前、なんとか言えよ」
「え、あ、うん…?」
「もしかして意味分かってねーの?馬鹿じゃね?」
「はあ?馬鹿って言う方が馬鹿なんですー!」
「あのなあ!俺は、お前の彼氏になってやっても良いって言ってんだぞ!そんなことも分かんねーとか、馬鹿だろーが!」


売り言葉に買い言葉。馬鹿馬鹿言い合っていた2人だったが、二口の言葉に名前は口を噤んでしまう。何それ。彼氏になってやるって、どれだけ上から目線なんだ。でも、嬉しい。
見上げた二口の顔は余裕がなさそうで、なんとなくほんのり赤くなっているような気もする。そんなことにまた嬉しくなってしまい、名前は二口の服をくしゃりと握った。


「ごめん。その、嬉しすぎて信じられなくて、」
「……は?」
「私ずっと、堅治のこと、好き、だったし…」
「…でもお前、彼氏……、は?」


今度は二口が戸惑っているらしく、威勢の良かった先ほどとは打って変わって、しどろもどろになっている。
嬉しさのあまり、ついうっかり好きだと暴露してしまった名前は、今更ながらに恥ずかしくなってきて二口から距離を取った。ほんの数分とは言え、二口の胸に顔を寄せていたなんて、それこそ恥ずかしくて信じられない。
いまだにフリーズしている二口は何も言わず、もはや誰もきいていないワイドショー番組の音だけが部屋の中を支配する。そんな状況に耐えられず、名前はついに二口に向き直った。


「いつまで固まってんのよ!私が言ったこと分かんないの?やっぱり馬鹿なのは堅治じゃん!」
「おま、それが好きな男に言うセリフか!俺がどんな気持ちで元彼の愚痴きいてやってたと思ってんだよ!」
「そんなの知らないよ!」
「言っとくけど!俺も結構前からお前のこと好きだったんだからな!」
「は?」
「そんなことも気付かねーとか、やっぱりお前の方が馬鹿だろ!」


本日何回目になるか分からない衝撃を受け、またもや固まる名前。この際、馬鹿とか馬鹿じゃないとか、そんなことはどうでも良い。結局のところ2人は、相思相愛だったのだ。しいて言うなら、お互い馬鹿じゃないか。
なんだかおかしくなってしまって、思わず笑い出した名前を、二口は怪訝そうな顔で見つめる。その表情は、こいつおかしくなったんじゃないか?とでも言いたげだ。


「なんかお互い馬鹿だなって思ったらおかしくて。ごめんごめん」
「……お前さ、肝心なこと忘れてない?」
「何?」
「ここ、俺んち」
「うん?そうだね」
「警戒心なさすぎ。俺も男なんだけど」
「え、な!け、んじ…っ、」


どさり、と。盛大な音を立てて名前が倒れたのは、二口の部屋に敷かれたふわふわのラグの上で。二口の手によって両手を床にしっかりと縫い付けられた名前は、漸く状況を理解した。自分は今、二口に組み敷かれている。
動揺とともに、燻る期待。目の前で笑う二口は、いつもと何も変わらないはずなのにやけにギラギラしている。


「覚悟、しろよ?」
「……私が嫌がったら、どうすんの」
「嫌がるなら今の内だけど」
「分かった」
「………、おい」
「何?」
「俺の話きいてた?」


何の抵抗もなく組み敷かれたままの名前に、二口が少し焦っている。そんな二口を見るのは初めてで、名前はつい、悪戯心が芽生えてしまった。
こんな自分に似合うとは到底思えないけれど。今なら試してみる価値はあるかもしれない。


「嫌じゃないって言ったら、襲ってくれる?」
「……っ、」


小首を傾げて上目遣いで誘うようなことを言ってきた名前に、二口は絶句した。実は本気でどうこうするつもりはなくて、ちょっとした脅しのつもりだったのに、まさか名前の方からけしかけてくるなんて思っていなかったのだ。
けれど、これは思ってもみなかったラッキーである。二口はすぐに状況を理解すると、名前の唇に吸い付いた。


「ぜってー啼かす」
「堅治ってばハレンチー」
「いつまでそんな口きけるか楽しみだな?」


色香を漂わす二口の笑みに見惚れながら、名前は快楽に沈んでいくのだった。
愛は投げられた

10000hits記念お礼の二口夢でした。二口は照れながら怒ったりして素直じゃないイメージ。口では強がってるけど心の中では大混乱だと良い笑。