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※社会人設定


川西と名前が付き合い始めてから早4年。つい先日、2人は婚約した。お互いの両親に挨拶も済ませ、同棲もしている。まさに順風満帆。川西も名前も穏やかな性格をしているせいか、喧嘩はほとんどしたことがない。些細な言い合いはするもののすぐに解決するため、長引くことはなかった。
お互いを尊重し合って、なんでもないことで笑い合う。そんな平凡な幸せを、2人が噛み締めていたある日のこと。名前は職場の仲良しグループで飲みに行くことになった。突然の決定ではあるけれど、川西に連絡すると、楽しんで来いよー、といつも通りの優しい返事。そんなわけで、名前は心置きなく飲み会に参加することができた。


◇ ◇ ◇



飲み会が始まって約1時間。お酒が入りテンションの上がってきた面々と、名前は仲良く語り合う。スマホをちらりと確認すれば、川西からメッセージが来ていた。
“帰り、遅くなりそうなら連絡しろよ。”
川西の優しさが滲み出ている文面に顔を綻ばせつつ、名前は“分かったよー。”と返事をする。こんな些細な気遣いが、名前には堪らなく嬉しかった。
それからも飲み会は盛り上がり、気付けばなんと、閉店間際の0時前になっていた。名前はそこで、はっとする。そういえば遅くなりそうなら連絡しろと言われていたのに、あれからスマホは鞄の中に入れっぱなしになっていた。当然、川西には何の連絡もしていない。
時間が時間なだけに、明日も仕事があるし、川西はもう寝てしまっただろうから起こすのも悪いと思った名前は、あえてそこから連絡しなかった。帰りが遅くなったことと連絡を入れ忘れていたことは明日謝ろう。そう思ったのだ。
名前は解散してから真っ直ぐ家へと向かった。できるだけ音を立てないようにそろーっと玄関のドアを開けると、なんとそこには、川西の姿。壁に背中を預けて腕組みしながら立っている川西は、珍しく不機嫌さを露わにしていた。時刻は午前1時前。普段ならとっくに寝ている時間だ。


「……おかえり」
「ただいま…」
「…で。俺に何か言うことない?」


柔らかな空気を放ついつもとは明らかに違って、どこか刺々しい口調の川西に、名前は怯んでしまう。よく考えてみたら、川西に面と向かってこんなオーラを出されたのは初めてのことだ。


「遅くなってごめんなさい…」
「うん。それと?」
「…連絡、忘れてて……」
「心配した」
「そうだよね。ごめん」


もういいよ、とは言われなかった。名前は恐る恐る川西の表情を窺う。いまだにムスッとした顔の川西は、名前を許したわけではなさそうだ。
いつもの小さな喧嘩なら謝れば許してくれるのにな、と思いつつも、今回は自分が全面的に悪いと分かっている名前は、ひたすら謝ることしかできない。


「今日の飲みって、男もいた?」
「え?ああ…うん。でも、みんな私が婚約したのは知ってるし」
「そういう問題じゃねーんだよ」
「はい…」
「浮気とか別に疑ってねーけどさ。こんな時間までなんの連絡もなく帰って来なかったら、考えたくないこと考えるし」


川西の言い分は尤もかもしれなかった。名前も逆の立場だったら、きっと同じように心配したり不安になったりするだろう。そう思うと余計に申し訳なさが募る。
しゅんと俯く名前を見て、川西は漸くほんの少し表情を和らげた。そして、玄関で立ち尽くしたままの名前に靴を脱ぐよう促すと、家の中に入ったところでぎゅーっと抱き締める。


「せめて帰る前に連絡しろよな」
「もう寝てるかなと思って…」
「なんで遠慮してんの。俺ら結婚すんのに」
「だって明日も仕事だし…」
「名前のためなら何時になっても迎えに行くって」


抱き締められたままそんなことを言われれば、名前は何も言い返せない。控えめに川西を抱き締め返して、何度目になるか分からないごめんを言うだけで精一杯だ。


「今度からは、ちゃんと連絡します」
「ん。そうして」
「分かった。遅くなってごめん。明日も早いから寝よ。太一、先に寝てね」


やっとのことで川西の機嫌が直ったと思った名前は、甘い雰囲気を打ち破って現実的なことを言い出した。確かに、今日は平日で明日も仕事があるわけだけれど、川西はこの名前の切り替えのはやさに再び機嫌を損ねる。もう少し、自分との時間を楽しんでくれても良いのではないかと思ったのだ。
身体を離そうとした名前の腰を、川西が再び抱き寄せて顔を近付ける。いっそのこと口付けてくれれば良いものを、川西はギリギリのところで動きを止めるのだからタチが悪い。


「たいち、どうしたの、」
「俺、今日の名前の行動に結構怒ってるんだよね」
「え…それは、もう、解決したんじゃ…?」
「そんなこと言ったっけ?」


川西が話すたびに息遣いまで感じてしまって、名前はいちいちドキドキしていた。恐らく、確信犯なのだろう。川西はニヤついたまま、一定の距離を崩さない。


「本当に反省してる?」
「してるよ」
「じゃあさ、こっち来て」
「え、ちょっと、太一!」


川西は、その言葉を待っていましたとばかりに笑うと、名前をひょいっと横抱きにして寝室へ直行した。その後の展開が容易に想像できてしまった名前はジタバタと抵抗してみるが、川西は動じない。あっと言う間に寝室に着くと、名前をベッドに組み敷く。


「太一、明日仕事、」
「知ってる」
「だから今日は、」
「却下。反省してるなら、今日は俺の言うこときいて」
「…そんなの、ずるい」
「もう結婚するんだし、子どもつくっても良いだろ?」


妖しく笑いながらそんな発言をしてくる川西に、名前はもう逆らうことなどできなかった。深く口付けられてしまえば、頭も心もとろりと溶けてしまう。いつも優しくて穏やかな川西だけれど、たまにならこんな少し強引で荒々しい川西も良いかもしれない。そんなことを頭の片隅で思いながら、名前は川西に身体を委ねたのだった。
ふたりぼっちになろうか

10000hits記念お礼の川西夢でした。川西ってこんなキャラなのでしょうか。迷走した割にキャラ崩壊しまくりですみません。