×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

突然だが、月島とマネージャーの名前は付き合っている。けれども、その事実は誰も知らなかった。なぜなら、月島がからかわれることを心底嫌がっているからだ。誰か1人に付き合っていることが知られれば、たちまち噂は広がってしまうだろう。そうなれば部活だけでなく、学校生活でも何を言われるか分かったものではない。そんなわけで、名前も自分の友達にさえ付き合っていることは秘密にしていた。
驚くべきことに、告白したのは月島の方からだった。告白といっても、アンタって僕のこと好きなんでしょ?付き合ってあげてもいいけど。という、なんとも月島らしい言い方だったため、名前は好きだとか愛してるなんてセリフは一度も言われたことがない。それでも、部活終わりに2人きりで帰っているとさり気なく歩調を合わせてくれたり、必ず寝る前におやすみとLINEでメッセージを送ってくれる月島が、名前にはとても愛おしかった。
そんなある日のこと。烏野は東京で合同練習に参加することになった。バスに揺られて合同練習の場所となる音駒高校に到着した一行は、慣れた足取りで体育館を目指す。合同練習は何回か行っているため、流れは分かっているのだ。


「ツッキー久し振りだなー!」
「だからその呼び方やめてください」
「名前ちゃんも久し振り」
「あ、黒尾さん。お久し振りです」


体育館に入るなり、月島と名前は木兎と黒尾に声をかけられた。月島が自主練に参加するようになってから、なぜか名前も自主練メンバーとは仲良くなっている。恐らく、ボール拾いやビブスの後片付けなどを手伝っている内に自然と声をかけられるようになったことが原因だろう。
月島は密かに、名前に変な虫が寄り付かないかと懸念していたけれど、今のところ特にそういった気配はなかった。付き合っていることは隠したいが、名前が誰かにチヤホヤされるのも気に食わない。月島はひどく、欲張りだ。
他愛ない会話を交わし、ウォーミングアップを済ませ、いよいよ練習試合が始まった。いつものことながら白熱した展開に、名前は目を奪われる。月島は自主練の成果もあって、驚くほどブロックが上手くなっていた。敵チームの木兎も自分のスパイクを止められ、ツッキーのくせに!と騒いでいる。
そんな調子で練習試合は進み、あっという間に時間が経った。合同練習自体は終わりだが、今日は東京に泊まることになっているため、月島はなんとなくいつものメンバーのところへ向かう。


「練習、するんですか」
「あったりまえだろー!ツッキーブロック跳んでくれー!あかーし!トス!」
「はいはい…」
「じゃあ俺もブロックー」


いつものメンバーでいつものごとく練習が始まる。名前もまた、いつものようにボール拾いに励んでいたのだが、まさかの事態が発生した。なんと木兎の暴投が名前目掛けて飛んできたかと思うと、足に直撃してしまったのだ。バランスを崩した名前はそのまま尻餅をついて倒れてしまう。


「木兎さん!烏野のマネージャーさんにぶつけてどうするんですか!」
「げ!マジか!悪い!」
「大丈夫です…練習止めちゃってごめんなさい…」
「足当たったろ?見せてみ?」


わらわらと全員が名前のところに集まってきて、様子を窺う。黒尾が慣れた手つきで名前の足に異常がないか確認するのを、月島はつまらなそうに見ていた。が、次の瞬間。黒尾が名前の身体をひょいっと担ぎ上げたのを機に、月島は思わず、何してるんですか!と声を荒げてしまった。らしくない月島の反応に、その場にいた全員が目を丸くする。


「何って…保健室、連れて行った方がいいだろ?」
「僕が連れて行きます」
「場所分かんねーだろー?」
「うちのマネージャーなんで」
「……ふぅーん?じゃあ案内だけしましょうか?」


何やら勘付いてしまったらしい黒尾は、素直に名前を下ろしてそう言うと、月島にニヤリと笑みを向けた。この人にだけは知られたくないと思っていただけに、現状は非常に不利だが、仕方がない。月島は名前を横抱きすると、大人しく黒尾に付いて行った。


◇ ◇ ◇



保健室に付いてから名前を椅子の上に下ろした月島は、もう大丈夫なんで、と言ってさっさと黒尾を追い出そうと試みた。が、そこで引き下がる黒尾ではない。ニヤニヤと笑みを浮かべながら、核心を突く質問を投げかけてきたのだ。


「で?名前ちゃんはただのマネージャーですか?」
「…そうですけど、何か?」
「俺が名前ちゃん担いだ時のイライラした感じ、尋常じゃなかったけど?」
「気のせいじゃないですか?」
「月島君、喧嘩はよくないよ」
「名前は黙ってて」
「あら?名前って呼んでたっけ?」


黒尾の挑発にまんまとのってしまった月島は、うっかり名前のことを名前で呼んでしまった。勿論、黒尾はたったそれだけのことで全てを悟ってしまったので、なるほどねぇー若者だねぇーなどとからかってくる。
これが嫌だったのに、と思っても、もうどうしようもない。月島は諦めたように黒尾に背を向けると名前の足に処置をし始めた。こうなったら無視に限る。


「なんで隠してんの?付き合ってんなら堂々とすりゃ良いのに」
「誰かさんみたいに、無駄にからかってくる人がいるんで言いたくないんですよ」
「名前ちゃんは?こそこそ付き合ってんの、嫌じゃねーの?」
「私は…月島君が望むなら、別に…」
「へー、愛だねぇー」


またもやからかうような発言をされ、月島にはイライラばかりが募っていく。


「僕達のこと、言わないでくださいね」
「言わねーよ。俺からは、な?」
「……どういう意味ですか」
「さーあ?じゃ、あとはお2人で仲良くどーぞ。邪魔者は退散しまーす」


黒尾は意味深な発言を残して去って行った。月島は嫌な予感がしながらもどうすることもできないため、名前に向き直る。幸い、足はそこまで大した怪我ではないため、明日からのマネージャー業に支障をきたすことはなさそうだ。


「あの、蛍君…ごめんね。私のせいで…」
「名前じゃなくて木兎さんが悪いんでしょ。それより、明日から黒尾さんに近付かないように気を付けて」
「う、うん…」


◇ ◇ ◇



と、昨日やり取りしたはずなのだが。月島の目の前には、スコアボードを用意する名前と、やたら名前の至近距離でそれを手伝う黒尾の姿があった。黒尾は確実にわざとやっているのだろう。その証拠に、月島の様子をチラチラと窺っている。
下手な挑発にはもうのらない。そう心に誓って見て見ぬフリを続けていた月島だったが、時間が経つにつれ、その誓いは破られてしまいそうだった。ことあるごとに名前に近付いては仲睦まじい姿を見せてくる黒尾に、月島のイライラは増すばかりなのだ。


「名字さんって、音駒の主将と付き合ってるのかな?」
「……違うでしょ」
「ツッキー顔怖いよ!どうしたの?」
「山口が変なこときいてくるからでしょ」
「ごめんツッキー!」


山口の発言にもイライラが増す。そして、昼休憩。どんな流れかは知らないが、黒尾が名前に顔を近付けて頬に手を伸ばした時、とうとう月島のイライラは頂点に達した。挑発にのらないなどと言っている場合ではない。
月島は足早に2人の元に近付くと、黒尾の手をはたき落した。パァンと乾いた音が響いて、皆が何事かと視線を向ける。


「いい加減にしてくれませんか」
「あら?何怒ってんの?」
「とぼけないでください。朝からずっと名前に付きまとってますよね」
「名前ちゃん可愛いから、つい?でもツッキーには関係ないだろ?」


相変わらずの憎たらしい笑顔を浮かべてそんなことを言ってくる黒尾に、月島はいつもの冷静さを失っていた。


「関係あります」
「どういうこと?」
「……名前は、僕のなんで」
「蛍君…!」


月島の発言と、名前が驚きのあまり月島の名前を呼ぶ声が、体育館内に響いた。黒尾はわざとらしく、そうだったのかーそりゃー悪かったなー、などと笑っているが、それ以外の人間は、揃いも揃ってポカンと口を開けて呆然としている。
暫く皆フリーズしていたが、やっとのことで全てを理解した面々は、急に騒がしくなり始めた。特に木兎は、きいてねぇぞー!と大騒ぎしている。そんな中、たまたま傍にいた澤村が近付いてきて2人を交互に見遣った。


「2人は本当に付き合ってるのか…?」
「はい。皆さんにバレたらうるさそうだったので黙ってました」
「はは…月島らしいな」
「主将にまで黙っててごめんなさい」
「いや、むしろ隠させてごめんな。これからは堂々と仲良くしろよ」
「そんな、みんなの前では今まで通りで…ね、蛍君?」
「そうですか。主将がそう言うなら、じゃあ、遠慮なく」


黒尾に好き放題された鬱憤が溜まっていたのか、月島は淡々とそう言うと、なんと皆の注目を浴びているにもかかわらず、名前の身体を抱き寄せたのだった。これには名前も、黒尾も、そして澤村も、驚きを隠せない。


「名前は僕のなんで。今後、手出さないでもらえますか」
「…ハイ。ゴメンナサイ」


からかって楽しむだけのつもりだったのに、まさか睨みつけられながらそんなことを言われると思っていなかった黒尾は、降参ポーズをしながら謝らざるを得なかった。
その後、田中と西谷に質問責めに合い、木兎に大騒ぎされ、その他の面々にも散々からかわれまくった2人だったが、月島は密かに、これで名前に変な虫が寄り付かなくなるならいいか、と思っていたのだった。
とびっきりの秘密に撃沈

10000hits記念お礼の月島夢でした。黒尾がでしゃばりすぎた上に甘さが1ミリもない。そしてキャラ崩壊も甚だしい。月島ってどうやったら甘くなるんですか。