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「英太君ってさ、デートの時どうしてるの?」
「は?どうしてるって、何を?」
「服だよ!英太君の私服ってダサいじゃん!」
「うるせー!黙れ天童!」


事の発端は天童とのこの会話だった。天童曰く、瀬見の私服はダサいらしい。そんな瀬見にも彼女はいるわけで、デートだってする。が、よくよく考えてみれば私服デートはしたことがなかった。
部活で忙しい瀬見がデートをするのは、もっぱら部活終わりだ。土日でも基本的には遠征やら練習試合やらで埋まってしまうため、丸一日休みということはほぼないに等しい。彼女である名前は、そんな状況でも何ひとつ文句を言わず、会える時に会おうね、と言うようなお人好しだ。そんな名前でも、自分の私服姿を見たら幻滅したりするのだろうか。瀬見はそんな小さな疑問を抱いたのだった。
そこで、なんともタイミングよく、何ヶ月かぶりに与えられた部活がオフの日曜日。瀬見は意を決して名前をデートに誘った。いつもとは違い、駅前で待ち合わせて買い物にでも行こうと提案すると名前は目を丸くして驚いていたが、すぐに嬉しそうな笑顔で承諾した。
そうと決まれば、瀬見がやることはひとつだ。まず、見たこともない男性ファッション誌を片っ端から買い漁り熟読した。が、結果から言うと、それは全く意味がなかった。アウターだのインナーだの、テーラードだのテーパードだの、やたらカタカナが多いことに加えて、ズボンのことをボトムスやパンツと表記してあったり帽子のことをハットと言ってみたり、瀬見にはちんぷんかんぷんだったのだ。パンツって下着じゃないのか?というレベルの瀬見にとって、買った雑誌の中で唯一分かったカタカナと言えば、パーカーぐらいだった。
そんなわけで、雑誌を見てマネをするのは早々に諦めて、瀬見は恥を承知で天童にアドバイスを求めることにした。人のことをダサいと言うぐらいなのだから、きっとそこそこオシャレなのだろう。


「つーわけだから。服。どうすりゃ良い?」
「英太君の場合は、どこをどうすればって問題じゃないと思うんだよね〜」
「どういう意味だよ」
「全部取っ替えないと、どうにもなんないってこと。ていうかさー、今回だけ取り繕っても、いつかはダサいのバレちゃうんじゃない?」
「ダサいって言うな!」


天童にも見捨てられた瀬見は、ほとほと困り果てた。確かに、天童の言うことも一理ある。今回だけ、仮にファッション誌と全く同じ格好をしてデートが成功したとして、その次からも同じように全身コーディネートするのは無理があるだろう。自分でどうにかできなければ、結局は何も解決しないのだ。
悩みに悩んだ挙句、瀬見が選んだのは、制服で行くという選択肢だった。わざわざ部活がオフの日曜日に駅前に誘っておきながら制服で現れるという信じられない行動を、名前はどう思うだろうか。不安に思いながらも待っていると、英太君?と声をかけられた。
そこには、当たり前のことながら私服姿の名前がいて、瀬見だと分かるなりひどく驚いた顔をする。休みの日に制服姿でデートの待ち合わせ場所にいる彼氏を目の前にしたら、当然の反応だ。


「英太君、今日、部活お休みって言ってなかった…?」
「休みだけど」
「でも、制服……もしかして、制服着て来なきゃいけなかった?」
「それは違う!あー…なんつーか…」


歯切れの悪い瀬見に、名前は首を傾げる。180cm近くある男が、あーとかうーとか言いながら言い淀んでいる姿は、なかなかに滑稽だ。瀬見は観念したように肩を落とすと、バツが悪そうに白状した。


「俺、私服ダサいらしくて」
「え?そうなの?」
「天童が言ってた…」
「それで、制服?」
「……そう」


ガヤガヤと騒がしい日曜日の真昼間。2人の間にだけ妙な沈黙が流れて。その沈黙を破ったのは、名前の方だった。クスクスと、おかしそうに笑いをこぼす名前に、瀬見はなんとも言えない微妙な表情だ。


「そんなの、気にしなくていいのに」
「ダサいヤツと歩くの、嫌だろ」
「んー、オシャレな方が良いのかもしれないけど、でも、」
「でも?」
「私は英太君がカッコ良いの知ってるから、周りの人にどう思われても気にしないかな」


依然として笑顔を絶やさずそんなことを言ってのけた名前に、瀬見は愕然とした。なんという殺し文句なのだろうか。うじうじと悩んでいた自分が馬鹿らしい。名前が、そう簡単に他人を否定するような性格ではないことぐらい、分かっていたはずではないか。
とは言え瀬見にも、そこは男のプライドというものがある。いくらダサくても良いと言われても、彼女と並んで歩くからにはお似合いだと思われたい。


「名前が選んで」
「え?」
「俺の服。今から全部揃える」
「えー?全部?靴まで?」
「そう。名前が似合いそうって思ったやつを着るから。頼むわ」


最初は渋っていた名前だったが、どうやら瀬見が本気で言っていることに気付いたらしい。オシャレかは分かんないよ、と言いながらも、名前は瀬見のお願いを聞き入れたのだった。


◇ ◇ ◇



それから数時間。ショッピングモール内を回って、瀬見は次々と名前の選んだ服を身に纏っていった。そして、靴を履き替えたところで、コーディネートは完成だ。


「おー。こんなの着たことねーわ」
「似合ってるよ」


元々瀬見は、背も高くて引き締まった身体をしているし、顔も整っている。たとえ普通の格好だとしても、一般的な男性に比べればカッコよく仕上がるのだ。現に、特別オシャレな格好というわけではないはずなのに、道行く女性が振り返っている。
名前は密かに、このルックスでどんな格好をしたらダサいと言われるのだろうかと疑問を抱いていたが、瀬見にとっては地雷だろうと思い敢えて追求しなかった。


「大荷物だね」
「まあ、全身だからな。制服邪魔」
「自分が着て来たくせに」


瀬見の手には白鳥沢学園の制服が綺麗に折り畳んで入れられた大きな袋が握られていて、まるで制服を買いに来たみたいになっている。そんな光景も面白くて、名前はまた、クスクスと笑いをこぼした。何を笑っているのか分からない瀬見は訝しそうに名前を見つめる。


「これからも頼むな」
「え?」
「服選び。名前に任せた」
「これからもって…そんなにデートできる機会、ないでしょ?」
「高校卒業して大学行っても、社会人になっても、俺は一生、名前の選んだ服しか着ねーから」


今日1日、ずっと良いところなしだったが、服が整ったからだろうか。いつもより数倍カッコよく見える瀬見に、名前は戸惑ってしまう。しかもそんな瀬見にプロポーズめいたセリフを言われてしまえば、狼狽えてしまうのは当然で。クスクス笑っていた時の名前はなりを潜め、今はすっかり余裕を失っている。
何と返事をしたら良いのだろう。必死に何かを言おうとする名前だったが、瀬見の、あ。というマヌケな声で、ふわふわした気持ちが一気に現実へと引き戻された。


「やっぱ今のなし」
「…え、」
「いつかちゃんと、自分でカッコ良い服選べるようになるから」
「…英太君が自分で選べるようになったら、私の仕事、なくなっちゃうね」


先ほど言われたセリフは名前にとって嬉しかったのに、瀬見にあっさり前言撤回されてしまい、今度は密かにがっかりする。瀬見の一言に一喜一憂してしまう自分が情けなくて、名前は困ったように笑うしかなかった。
瀬見はそんな名前を見て、急に真剣な顔付きになる。今度は何を言われるのだろう。名前が身構えていると、すっと取られた手。


「自分で選んだカッコ良い服着て名前にプロポーズするから、待っとけよ」


瀬見は少し照れたように笑いながらそう言って、名前の手の甲にキスを落とした。
ここはショッピングモールで人が沢山いるのに、とか。片手に制服が入った紙袋を持っていてカッコつかない、とか。手の甲にキスなんてキザすぎて流行らない、とか。色々思うことはあったけれど。


「…はい。待ってます」


自分が選んだ服を着て、自分の大好きな笑顔で最高の殺し文句を言ってきた瀬見が、名前には途轍もなくキラキラと輝いて見えたのだった。


◇ ◇ ◇



後日、デートはどうだったのかとしつこく尋ねてくる天童に渋々デートの内容を教えたら、瀬見は大笑いされた。


「制服で行くとか!英太君、頭おかしいんじゃない?よく引かれなかったね!」
「ほんとお前はうっせーな!」
「名前ちゃんのこと、逃しちゃダメだよ〜?」
「心配されなくても、もう予約しといたわ!」
「予約?何のこと?」
「……うっせー!」


結局プロポーズ予告宣言をしてしまったことも天童にバレて再びからかわれまくる瀬見を、他の部員達は生温かい目で見ていた。
呪文はタキシードに包まれて

10000hits記念お礼の瀬見夢でした。瀬見はカッコイイはずなのにヘタレだと思う。カッコイイけど、天童に良いところもっていかれる系男子笑。