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名前には自慢の彼氏がいる。名前は牛島若利。高校男子バレー界において3本の指に入ると言われている選手だ。牛島は、バレーは勿論のこと、他のスポーツ全般も、勉強もできる。その上、逞しく恵まれた身体と精悍な顔立ちを持ち合わせているという、まさに完璧を絵に描いたような人物だ。
そんな牛島の唯一の欠点と言えば、色恋沙汰に滅法弱いということだろう。だから、牛島が名前と付き合い出すまでも相当な時間を要した。
名前はバレーについてそこまで詳しくないし興味もなかった。牛島との接点と言えば3年間同じクラスということぐらいで、クラスの中でもそこまで仲が良いというわけではないのに、いつどのタイミングでかは分からないが、牛島は名前に一目惚れしてしまったらしい。どうアプローチしたら良いか分からずにいた牛島を見兼ねたバレー部員達が、必死になってお膳立てをした結果、苦労の甲斐あって、2人はなんとか結ばれたのだ。
さて、付き合い始めたからといって、2人の距離はそう簡単に縮まらない。名前は元々、そこまで積極的なタイプではなかったため、自分から練習を見に行ったり声をかけに行ったりはしなかった。牛島の方はというと、主に部員達にアドバイスされてできるだけ名前に話しかけるようにはしていたが、なかなか会話は弾まなかった。
そんな関係を続けていたある日。他のクラスの女子が牛島を訪ねてきた。その女子は男子バレー部のマネージャーで、ここ最近、よく牛島の元へやって来る。牛島は主将なのだからきっと用事が沢山あるのだろう。最初はそう思っていた名前だったが、ほぼ毎日のように教室にやって来ては牛島と楽しそうに会話をする姿は、とても部活の話をしているようには見えなかった。
そもそも、部活の話なら部活の時に話せば良いではないか。名前は、そんな醜い感情が湧き上がってくると同時に、自分は本当に牛島の彼女でいても良いのだろうかと不安になり始めた。それが態度にも出てしまったのだろう。名前は不安になり始めて間も無く、牛島を避けるようになってしまった。
そんな様子を見兼ねたのは、副主将である大平だ。クラスは違えど、牛島とともにバレー部を引っ張ってきた大平は、牛島の様子がおかしいことに気付き、その原因が名前であることに辿り着いたのだ。


「名字、ちょっと良いか」
「あ、大平君。何?」
「若利と何かあったのか?」
「え…いや…別に、何もない、けど…」
「最近、若利の元気がないようなんだが。名字、心当たりあるんじゃないか?」


大平の落ち着いた声音は、名前の心を落ち着かせる。2年生の頃に同じクラスだっただけだが、名前は大平の穏やかな雰囲気を好んでいた。
静かに返答を待つ大平の表情を見て凝り固まった胸のつかえがサラサラと溶けていく感覚があって、名前はゆっくりと、自然に胸の内を晒け出していた。


「牛島君ってすごい人でしょ?」
「そうだな」
「だから、私なんかが彼女で良いのかなって…」
「若利の方から告白してきたんだから、名字はそんなこと気にしなくて良いんじゃないか」
「でも…最近、マネージャーさんと楽しそうに話してるところばっかり見るし…私、そんなに話す方じゃないから、牛島君と上手く会話が続かないし…」


この際だからと、名字は大平に自分の気持ちを全て言ってみることにした。牛島のことは好きだがどう接したら良いか分からないこと、マネージャーと楽しそうに話す牛島を見て引け目を感じつい避けるようになってしまったこと。昼休憩を半分ほど費やして、大平は名前が話すことを、ただ黙って聞いていた。
そして最後に名前が、どうしたら良いと思う?と質問を投げかけてきたところで、大平は名前の背後に目を向ける。


「その気持ちを、若利に伝えたら良いんじゃないか?…な、若利?」
「え!」
「……大平。名前を借りるぞ」
「ごゆっくり」


いつからそこに立っていたのか背後には牛島がいて、名前は身体を大袈裟に跳ねさせる。しかもそのオーラは、なんというか怒気に近いものを漂わせていて、掴まれた手首は少し痛い。
名前はそのまま、牛島に手を引かれて部室に連れて行かれた。どうやら2人きりで話がしたいらしい。部室に入ると牛島は漸く名前の手を離し、その身長差から、名前を見下ろすように見つめた。視線は痛いほど感じるものの、名前は怖くて顔を上げることができない。


「俺に言いたいことがあるんじゃないのか」
「……ない、よ…」
「大平には言えて、俺には言えないのか」
「そういうわけじゃ…」
「なら何だ」


威圧的な物言いに、名前は益々萎縮してしまう。けれど、先ほどの大平の言葉を思い出した名前は、深呼吸をすると意を決して牛島の顔を見上げた。


「私は、牛島君の彼女、なの?」
「俺はそのつもりだったが」
「マネージャーさんみたいに、上手く話せなくても?」
「マネージャー?なぜそこでマネージャーが出てくるんだ」
「だって、牛島君、マネージャーさんと一緒にいる時の方が楽しそうなんだもん…」


名前は折角上げた顔を再び下に向けて自分の足元を見つめる。一方牛島は、心底驚いているようだった。牛島としては、マネージャーはマネージャーでしかなく、楽しいとか楽しくないとか、そういう次元で接したことはなかったからだ。
しかし、と。牛島は先ほどの大平と名前の話している姿を思い出す。名前はきっと否定するだろうが、大平と話す名前は、自分と話している時よりも自然で、仲睦まじく見えた。だからつい、イライラしてしまったのだ。もしかしたら名前にも、自分とマネージャーの姿はそういう風に見えていたのかもしれない。


「俺も同じことを思った」
「え?」
「大平と話す名前は、俺と話す時よりも楽しそうに見えた」
「私はただ、相談にのってもらってただけで…楽しいとか、そういうわけじゃ…」
「そうだろうな。俺も同じだ」


淡々とした口調で話す牛島を、名前は再び見上げる。その表情は今まで見た中で1番柔らかいように見えて、名前は息を飲む。そして牛島の発言に、自分が勝手に勘違いしていたことに気付いた。


「あの、牛島君…」
「なんだ」
「避けてたわけじゃないの」
「…そうなのか?」
「牛島君とどう接したら良いか分からなくて…」
「名前はどうしたいんだ」


その質問に、名前は固まる。自分がどうしたいかなんて、考えたこともなかった。牛島は、どう思うだろうか。牛島は、どうしてほしいだろうか。牛島は、どうやったらもっと楽しんでくれるだろうか。名前は常に、牛島がどうかということしか考えたことがなかったのだ。
改めて、考えてみる。自分は、どうしたいか。


「私は、牛島君と、もっと仲良くなりたい…です…」
「仲良く、とは?」
「えーと……うーん、恋人っぽく?というか…」
「恋人っぽく?」


うまく説明できず、うーんうーんと考え込む名前を前に、牛島もほんの数秒思案して。自分の辿り着いた答えを実践すべく、小さな名前の身体を、ばふっと自分の胸に抱き寄せた。


「こういうことか」
「え、ちが、いや、違わないけど、」
「どっちなんだ」
「……2人きりの時は、これで、良いかも」
「そうか。クラスではダメなのか」
「駄目だよ!絶対!」


慌てて念を押す名前をよそに、牛島は、難しいな…と呟く。


「クラスではどうしたら良いんだ」
「え…それは……普通に話すぐらいで良いんじゃないかな…」
「今までと変わらないな」
「うーん…じゃあ、部活行く前にバイバイだけするようにしようか?」
「……分かった」


そこで昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。牛島は名前の身体を名残惜しそうに離すと、当たり前のように名前の手を引いて教室に戻る。大平はそんな2人の姿を自身のクラスから眺めて、胸を撫で下ろしたのだった。


◇ ◇ ◇



その日の放課後。牛島は昼休憩の約束通り、名前の席にやって来た。律儀に、今から部活に行ってくる、と告げてくる牛島に名前がほっこりしていたのも束の間。次の瞬間、目の前が真っ暗になって、唇に少しカサついた柔らかいものが触れた。
それが牛島の唇だと気付くまでほんの数秒。名前は騒ぎ立てる外野の声で我に返って牛島を見上げた。その顔は、勿論、茹で蛸のように赤い。


「牛島君!バイバイするだけって言ったのに!」
「恋人同士が別れる時はキスをするのが普通じゃないのか」
「そんなの聞いたことないよ!」
「天童がそう言っていたんだが」


照れたり恥ずかしがったりする素振りなど1ミリも見せず通常運転の牛島は、はて、と首を傾げながらそんなことを言う。名前は、あまり話したこともない天童に、言いようのない怒りと恨みを募らせた。


「キスもハグも2人きりの時だけ!」
「そうか。2人きりの時なら何をしてもいいんだな?」
「2人きりならね!」
「……分かった」


そうしてその場はなんとかおさまったのだが。その後、昼休憩に部室で2人きりの時間を必ず確保するようになった牛島によって、名前は自分の言ったことを後悔した。
2人きりの時なら何をしても良いとは言ったが、校内なのだから限度ってものがあるだろう!そう抗議しようにも、満足そうに名前を堪能する牛島には逆らえなくて。名前は、牛島の愛を存分に受け止めることしかできないのだった。
キミ限定のhow to LOVE

10000hits記念お礼の牛島夢でした。あんな堅物そうなのに、恋愛下手ゆえに制御できない牛島とか可愛いと思いませんか。