×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

名前の彼氏はバレー馬鹿だ。中学の時からそうだったから、今更それに対してどうこう思うことはない。彼氏である影山は天才セッターと言われているらしいが、名前からしてみれば天才などという言葉で片付けられるのは気に入らなかった。確かに影山は天才かもしれない。けれど、誰にも負けないぐらい努力を積み重ねてきたことを名前は知っている。誰よりも直向きに、真面目にバレーに打ち込む影山だから、名前は好きになったのだ。
中学の時は色々あったが、烏野に入ってからというもの、影山は実に楽しそうにバレーに打ち込んでいる。中には喧嘩ばかりする相手もいるようだが、なんだかんだで仲間にも恵まれているようだ。試合も勝ち進むことができていて、影山にとってバレーは、きっと身体の一部なのだろう。
それが分かっているから、名前は、影山と恋人らしい時間を過ごせなくても、何ひとつ不満を言わなかった。デートをしたいとか、もっと一緒に過ごしたいとか、思うことは勿論ある。けれども、それを影山に伝えることは一切なかった。
しかし、だ。名前にも、限界というものがある。学校でもクラスが違うため、話すどころか会うことすらほとんどない。部活の終わりを待とうとしたこともあったが、部活終わりの自主練があまりにも長すぎて早々に断念した。もはや会えないのは100歩譲って仕方がないとしよう。けれど、せめて電話ぐらい、いや、LINEの返信ぐらいできないものだろうか。
名前は、影山とのトーク履歴の画面を見つめて溜息を吐いた。元々マメに連絡を取り合うタイプでないことぐらい分かっている。けれども、ここ1週間、LINEでのやり取りが全くないのは付き合っている男女としていかがなものか。ちなみに1週間前に名前から送った最後のメッセージは、部活終わった?だ。疑問形のメッセージを既読無視。名前は寂しいとか悲しいとか、そういった感情を通り越して、怒りを覚えていた。
いくらバレーで忙しくても、うん、とか、おう、とか、それぐらいの返事はできるはずだ。名前はとうとう、意を決して影山にLINEでメッセージを送った。ウザいと思われたら、それはその時に考えれば良い。
“飛雄君、たまには声ぐらいききたいんだけど。”
ド直球だとは思ったが、鈍感な影山には回りくどい言い回しをしても伝わらない。ストレートに伝えるのが1番なのだ。


◇ ◇ ◇


名前がLINEでメッセージを送ってから1時間。夜ご飯を食べてスマホを見ると、既読はついている。が、それだけだった。声がききたいと言ったんだから、電話ぐらいしてくれるのではないかと期待していた。それがどうだろう。蓋を開けてみれば、またもや既読スルーだ。
名前は信じられないほどの虚しさに襲われた。本当に自分達は付き合っているのだろうか。中学の卒業と同時にまさかの告白をされてOKの返事をしたはずなのだが、あれは夢だったのかもしれない。
そんなことを考えながら、こうなったら別れ話でも切り出そうかと思い始めていた時だった。ピコン、と。LINEの通知音が鳴った。まさかと思って画面を確認してみると、そこには待ち侘びた影山からのメッセージ。
返事がきたこと自体は嬉しい。が、これはどういう意味だろうか。
“ついた”
たった3文字。ついた?ツイタ?突いた?頭の中で様々な変換をして考えること数十秒。もしかして、いや、そんなこと有り得ないかもしれないけれど、もしかしたら。名前は半信半疑で家を飛び出した。
すると家の前には、随分と久し振りに見る影山の姿があって、名前は泣きそうになる。影山の方は、よお、といつものことながらぶっきらぼうに挨拶をしてくるのみだ。


「なんで、いるの?」
「名前が、声ききたいって連絡してきたんだろ」
「そうだけど…」


電話で声をきくだけで良いと思っていたのに、わざわざ部活終わりに家まで来るなんてとんだサプライズだ。少し息が上がっているところを見ると、影山は名前の家まで走って来たらしい。
急いで来てくれたのかもしれないと思うと、名前はそれだけで胸がいっぱいになった。


「電話でも良かったのに…」
「え?あー…その……ロードワークのついでだ!ついで!」
「飛雄君の家、逆方向なのに?」
「ロードワークは遠回りした方が良いに決まってんだろ!」


わけの分からない理屈を述べる影山だったが、ただ単に、電話という選択肢を考えていなかっただけなのだろう。そんなこと、名前にはお見通しだ。
照れ隠しなのか、ぽりぽりと首裏を掻きながらそっぽを向いている影山を見て、名前はクスクスと笑いをこぼす。先ほどまでの怒りが嘘のようだ。


「飛雄君」
「なんだよ」
「会いに来てくれてありがとう」
「……おう」
「でも、できたらもう少し、LINEの返事ほしいな」
「…苦手なんだよ……ケータイ使うの」


バツが悪そうにそう言った影山に、名前は珍しく食い下がる。


「じゃあ、電話は?」
「…何話せば良いのか分かんねぇ…」
「そっかあ…」


困ったなあ、と。名前が独りごちていると、立ち尽くしたままだった影山が突然近寄ってきた。そして、ぐい、と名前を引き寄せると、自分の胸に強引に頭を押し付ける。
夜も遅く人通りがないとは言え、道の真ん中で堂々とそんなことをする影山に、名前はパニック状態だ。


「バレーばっかで悪い。LINEも電話も好きじゃねーから、今度からは会いに来る」
「…それが1番大変じゃない?」
「俺はそれが1番楽だ」
「ふふ…それなら、お願いします」


どさくさに紛れて影山の腰にぎゅっと抱き着くと、影山は突然アタフタし始めた。自分から大胆なことをしておいて今更照れるのもどうかと思うが、そんなところがまた影山らしい。
これからもきっと、影山はバレーばかりで恋人らしい時間なんてほとんどないだろう。けれど、本当にたまにでもこうやって影山の体温を感じることができるなら、それだけで良いかもしれない。
ぎこちなく名前の背中に回された手は、ボールに触れるかのごとく繊細な優しさを纏っていた。
不完全無欠なぼくら

10000hits記念お礼の影山夢でした。影山の登場遅い上に会話も甘さも少なくて申し訳ない。烏野メンバーが難しすぎて困る。