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国見英は、ひどく無気力な男だった。いつもなんとなく眠そうで、何事にもやる気がなさそうで、冷めている。そんな印象を抱かれがちな国見だったが、青城バレー部の一員として成り立っているのだから、それなりに練習もこなしているのだろう。実は自分なりに配分を考えて行動しているだけで、国見は割とやる時はやる男だったりする。名前は、そんな国見の性格を理解しているつもりだ。だから今、国見の家でただグダグタしている時間にも、特に不満はなかった。
月曜日は部活がオフということだが、先輩を始めとする部員達の多くは自主練をしているらしい。詳しいことは知らないが、金田一もジムに行ったりしていると聞いたことがある。しかし国見は期待を裏切らないというか、オフの時はその名の通り頭も身体もオフらしく、バレーに関することには一切手を付けない。筋トレやロードワークなんて以ての外。バレーの試合や雑誌を見ることすらしたくないと言っていた。
というわけで、今もスマホでアプリをしてみたり、好物の塩キャラメルを頬張ってみたりと、だらだらした時間を過ごしている。名前もそれには慣れているので、そこまで興味もないSNSに目を通していた。友達はどうやらカラオケの真っ最中らしく、テンション高めの文面とともに楽しそうな写メが添付されている。


「あー…眠くなってきた」
「いつもそれ言うよね」
「月曜日しか休みないんだから寝れるのも月曜日だけだし」
「まあ、そうだね」
「……寝る」


国見は突如、そんな発言をしたかと思うと、名前が背もたれにしていたベッドにごそごそと入り込み、本格的に寝る体勢に入った。これも、そこそこよくあることだ。国見は暇さえあれば寝る。日頃の疲れも溜まっているのだろうが、それにしてもよく寝るのだ。
名前は、一応、国見の彼女である。彼女が家に来ていて2人きりの状態で自分だけ寝るなんて、健全な男子高校生がすることではない。最初は、自分が女らしくないせいだと落ち込んでいた名前だったが、月日が流れるにつれて、これが国見の通常運転なのだと気付いてからは、何とも思わなくなった。
今日も睡眠欲に勝てなかったらしい彼氏を見て、名前はそっと立ち上がる。寝入った国見はなかなか起きない。だからいつも名前は、国見が寝始めると帰ることにしていた。せめて寝顔でも見てから帰ろうかな。そんな出来心でそっと国見の様子を窺った名前は、ベッドに付いた手をがしりと掴まれて驚きを隠せなかった。いつもならピクリとも動かないくせに、今日はどうしたのだろうか。


「英、まだ起きてたの?」
「……帰って良いとか言ってないんだけど」
「でも寝るんでしょ?」
「名前も寝れば良いじゃん」
「え、私、眠くないし、」
「いいから」


国見は名前の発言を聞いていないのか、掴んでいた手を自分の方に引き寄せると、強引に名前を布団の中に引き摺り込んだ。名前の肩にかけていたカバンはずり落ちて、数分前と同じく床の上に逆戻りだ。
こうなったら抵抗しても意味はない。名前は諦めて、素直に国見の隣で落ち着いた。国見の体温によって布団の中はポカポカしていて、眠たくなかったはずの名前もうとうとしてくる。そんな名前に、国見がまるで抱き枕のように抱き付いてきた。大きな身体を丸める姿は、まるで猫のようだ。


「あったか…」
「そうだねー」
「名前、こっち向いて」
「ん?ん…、めずらし」


呼ばれて顔だけ国見の方に向ければ、唇と唇が重ねられた。初めてではないけれど、国見がそういう行為をしてくるのはとても珍しいことで、名前は思わず思ったことをそのまま口にしてしまう。
そんな、照れもしなければ嬉しそうな素振りも見せない名前に、国見は機嫌を損ねてしまったらしい。名前の身体に絡めていた腕も足も離して、背中を向けてしまった。ちょんちょん、と背中を突いてみても反応はない。


「英?」
「……」
「こっち向いて」
「やだ」
「…もう1回、ちゅーしてよ」


国見の広い背中に頭をグリグリと押し付けて、恥ずかしさを押し殺しながらおねだりしてみる。すると国見は、くるりと身体を反転させて名前の顎を持ち上げると、先ほどよりも深めの口付けを落とした。
よく考えてみれば布団の中はなかなかに狭く、国見と名前の身体は密着している。ドキドキするなという方が無理な話だ。


「あー…どうしよっかな」
「何が?」
「んー。こっちの話」
「変なの」


国見は何かを思案しているようだが、名前には何に悩んでいるのか分からない。久し振りに恋人らしい雰囲気になったことが嬉しくて、名前は自分の顔がニヤけているのを感じた。
ふと、目の前にある国見の胸に目がいって、何の気なしにそっと触れてみる。細身ながらも逞しい体つきに、やっぱり男なんだなあ、などと呑気に思っていると、国見の胸に伸ばしていた手を捉えられてしまった。見上げた国見の表情は、なんとなく怪訝そうだ。


「何やってんだよ」
「いや…特に意味はないけど…」
「何だよそれ…お前さあ…」
「あ、ごめん。寝るんだったよね。もう邪魔しないから」


そういえば国見が眠たいと言っていたことを思い出した名前は、国見が眠りを妨げられて不機嫌になったのかと思い、慌ててそんなことを言う。けれども国見は、益々眉を顰めて難しそうな顔をしたかと思うと、名前の額に自分のそれをコツリと寄せてきた。
顔が、近い。つい数分前にキスしたくせに、なぜかまた心臓がばくばくし始めて、名前はどうしたら良いのか分からなかった。


「寝ない」
「え。じゃあ起きる?」
「起きない」
「え?どっちなの?」


戸惑う名前をよそに、国見は額を合わせたまま視線を合わせてきたかと思うと、珍しくも口角を上げた。なぜか、やばい、と。そう思ってしまった名前は、ごくりと唾を飲み込む。


「俺、最初からそこまで眠くないし」
「嘘でしょ…!?」
「そんなに驚くなよ」
「いつも眠そうじゃん」
「うん。いつもそんなに眠くないけど」
「意味分かんない…」


国見の意図が全く読めない名前は、ただただ、驚くばかりだ。今までのおうちデートでの眠たそうな様子は、全て嘘だったと言うのか。ベッドに潜り込んでいたことさえも意味はなかったと言うのなら、なぜそんなことをする必要があったのか。名前にはちんぷんかんぷんだ。


「俺も男ってこと分かってる?」
「分かってるよ」
「平気でうちに来るくせに」
「それは英が誘うからでしょ」
「俺は下心があるから毎回誘ってるんだけど」


するり。腰を撫でる手は、いつになくいやらしい。いつも眠たそうで、やる気がなさそうで、そういうことにあまり興味がないのだと思っていた。それなのに、今、唇が触れるかどうかギリギリのラインでほくそ笑んでいる男は、どう見ても捕食者の目付きをしていて、名前の背中はぞわりと粟立つ。


「嫌なら来週からうち来んなよ」
「……来るもん」
「へー。俺は良いけど」
「英、」
「何?」
「まずは、ちゅーからが良いな?」
「…何それ」


呆れながらも、国見は名前の口を優しく塞いで。毎週月曜日は、2人して微睡むのが定番と化したのだった。
演技派ナルコレプシー

10000hits記念お礼の国見夢でした。実は1番ネタに悩んだキャラ。国見はロールキャベツ系男子のイメージが強い。