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※大学生設定


花巻と名前は大学1年生の秋から付き合っている。同じ学部、同じ学科、おまけに同じゼミとなれば仲良くなるのは必然で、気付いたら2人はお互いのことが好きになっていた。
そんな2人も、今や大学3年生。2月から、所属しているバレーサークルの飲みや学科の飲み、仲の良い友達同士での飲みなど、卒業シーズンということもあって立て続けに飲みが重なっており、今日はゼミ飲みだ。卒業する4年生のため、花巻達3年生が中心となって企画した。大学生活最後の飲みを楽しんでほしい。そんな思いを込めて店を選び、餞別まで用意した。準備は万端である。
その甲斐あってか、飲みは大いに盛り上がっていた。が、花巻は最初から少し嫌な予感がしていた。というのも、彼女である名前は4年生のある1人の先輩のお気に入りらしく、開始の時点で隣の席に座らされていたのだ。困ったことにその先輩は酒癖が悪いことで有名で、飲みが始まって1時間を過ぎた辺りから、既にベロベロに酔っ払っていた。
最初は少し騒いでいる程度で、笑って眺めていられた花巻だったが、名前の肩に腕を回したり、抱き寄せるような仕草が見られ始めると、相手が先輩とは言え、さすがに黙っていられない。花巻は波風立てないように、やんわりと2人の間に割って入る。


「先輩、飲みすぎじゃないっスか?」
「あー?花巻ー何言ってんだよー!まだまだ飲めるぜー俺は!ビール持ってこーい!名前ちゃん、こっちー」
「先輩、あの、ちょっと…」
「最後だしいーじゃん。なー?」


先輩は更に暴走して、あろうことか名前の膝に頭をのせて寝転がり始めた。これには周りもやり過ぎだと慌てて止めに入るが、酔っ払っている先輩は言うことをきかない。名前も、相手が先輩だからなのか、されるがままになっている。
そんな状況に、花巻のイライラは募るばかりだった。大体、先輩だからといって嫌がりもせず、全てを受け入れている名前も名前だ。本当は満更でもないんじゃないか。そんなはずはないのだが、花巻はつい、悪いことばかり考えてしまう。
結局その後、先輩が酔い潰れて寝てしまったところで飲みはお開きになり、花巻と名前がその先輩を家まで送り届けた。その帰り道、2人が纏う空気は、なんとなく重苦しい。


「貴大…今日、行っても良い?」
「いつものことだろ」
「…うん、そうだけど……」


名前の問い掛けに対する花巻の返事は、明らかに刺々しい。確かに、飲みの後で名前が花巻の家に泊まるのはいつものことだった。名前の住む実家は大学から電車で2駅ほどのところにあり、終電を逃すと帰ることができない。その点、花巻の住んでいるアパートは大学の傍にあるため、付き合い始めてからというもの、飲みの後は花巻の家で過ごすのが定番と化していたのだ。
名前は、いつになくイライラしている様子の花巻の顔色を窺う。表情こそ変わりないが、やはり、不機嫌であることは間違いないようだ。その証拠に、いつもなら繋がれる手が、今日はお留守になっている。なんとなく何かを話せる雰囲気ではなく、2人は無言のまま、花巻が一人暮らしをしているアパートを目指して歩き続けるのだった。


◇ ◇ ◇



アパートに到着してからも花巻は相変わらず不機嫌さを隠さぬまま、無言でシャワーを浴びに行ってしまった。このままでは、妙な空気のまま寝ることになってしまう。名前はシャワーを浴びて戻ってきた花巻に、恐る恐る声をかけた。


「貴大、あの…怒ってる?」
「分かってんじゃねーの?」
「……飲みの時のこと、だよね?」
「それ以外なんかあんの?」


花巻はかつてないほど冷たい口調だった。それに萎縮しつつも、名前は言葉を続ける。


「先輩のこと?」
「……なんで嫌がんねーんだよ」
「だって、先輩だし…」
「へー。じゃあ名前は先輩がすることならどんなことでも嫌がらねーんだな?」


花巻の突っかかるような物言いに、それまで下手に出ていた名前もカチンときてしまった。何も名前だって、自分から望んであんなことになったわけではないのだ。全面的に責められるのもおかしい気がする。


「そんなわけないでしょ!私から近付いたわけじゃないんだし…怒られたって困るよ」
「何?開き直んの?」
「貴大、どうしちゃったの?お酒飲みすぎなんじゃない?」
「は?」
「ちょっと落ち着きなよ…」


冷静にたしなめようとする名前の態度に、花巻は益々怒りを募らせる。
なぜごめんねという一言が言えないのだろうか。悪いことをしたとは思わないのだろうか。彼氏である自分の前であんなことをしておいて。罪悪感のかけらも感じられないその態度は一体どういうことだ。
小さな嫉妬も、積もり積もれば大きな憎悪へと変わってしまう。普段は穏やかで優しい花巻も、些細なことでどす黒い感情に飲み込まれてしまった。


「名前、俺のこと好きじゃねーんだろ」
「え、ちょっと待ってよ、なんでそうなるの…?」
「だから他の男とベタベタしてもそんな態度なんだろ」
「違うよ…貴大、」


これはまずいと名前が慌てて花巻に伸ばした手は、パシン、という音とともに払い除けられた。驚きのあまり動けずにいる名前に、花巻は冷ややかな視線だけを送る。


「違うって、何が?」
「たか、ひろ…ごめん、」
「何に対するごめん?好きじゃないのにたぶらかしてごめんってこと?」
「私は、貴大のことが、好きだよ、」
「へー?あ、そ」
「信じて、」
「……信じてほしかったら、俺の言うこときけよ」
「え、えっ!」


ただならぬ雰囲気を身に纏ったまま、花巻は名前の身体を担ぎ上げると、何の迷いもなくベッドに直行した。ばふっとベッドに名前を投げ捨てて、花巻は一瞬でその身体を組み敷く。花巻の手によってベッドに縫い付けられた名前の腕では、抵抗などできるはずもない。
見たこともない怒気を含んだ瞳に見据えられ、名前はゴクリと唾を飲み込む。こんな花巻、知らない。怖い。でも逃げられない。
名前が怯えていることは分かっていた。けれども花巻は、自分でも自分が制御できなくなるほど、嫉妬に狂っていた。名前は俺のものだ。誰にも渡したくない。だから、俺のものだって身体に刻み込んでやる。


「他の男のことなんか考えられねーようにしてやる」
「私はずっと、貴大のことしか、考えてないのに…、」
「口では何とでも言えるだろ。態度で示してみろよ…名前」


貪るような、食い尽くすような、荒々しい口付けを合図に、花巻は名前の身体に手を這わせるのだった。
ビター・アンド・ビター

後編に続きます。花巻ブラックですみません。