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彼氏の徹とOL


 お腹が痛い。そりゃあもう何もしたくなくなるほどに。今日は月に一度の女の子の日。……ってわけじゃない。それは先週終わった。だからこの腹痛の原因はよく分からない。
 最近仕事が忙しくてあれやこれや押し付けられまくってストレスが溜まっているから、ついに身体にまで異常をきたしてしまったのだろうか。だとしたら労災だ。けれども、それがたとえ事実だったとしても、私はこの痛みを我慢するしかないのである。
 そこに現れた彼氏の及川徹は、リビングのソファでぐったりしている私の姿を見るなり「ありゃ」と声を漏らしたかと思うと、のんびり隣に腰かけてきた。

「体調悪いの?」
「んー……お腹痛くて……」
「じゃあ特別に、俺が魔法かけてあげるよ」
「何それ効かなそう」
「ねぇ、ひどくない? そこはときめくところでしょ」
「ごめんごめん」

 そんな冗談を交えながらの会話の末「こっちおいで」と自分の脚の間をポンポンと叩く彼に従って、私は重たい身体を指定されたところに移動させた。彼の大きな身体に後ろから包み込まれるように抱き締められると、それだけで痛みが和らいだ気がする。
 背後から伸びてきた、これもまた大きな手が、私のお腹を優しくするすると撫でるのが気持ちいい。なるほど、この魔法は効くかもしれない。
 そうして暫く、穏やかでちょっと甘ったるい空気を味わっていたのだけれど、ここで甘くなりきれないのが私達だった。いまだに撫でられ続けている私のお腹が、キュルキュルと音を鳴らし始めたのだ。
 この距離だし手が当たっているわけだから、彼にも絶対に聞こえているだろう。恥ずかしい。早く音よ止まってくれ。
 そんな願いも虚しく、定期的にキュルキュルと鳴る己のお腹が恨めしくて堪らない。彼は一生懸命声を押し殺してくれているけれど、背中越しに震える身体が笑っていることを教えてくれる。
 ここで「もういいよ」と離れたら良かったのかもしれないけれど、忙しい彼とこうしてスキンシップを取れる時間は貴重だから、私は恥ずかしさを押し殺してでも現状維持の選択を取った。
 その結果、今度はキュゥーという妙な音まで奏で始めた私のお腹。これにはさすがの彼も笑いを堪え切れなかったらしく、ついに「ぶはっ」と噴き出した。もう、めちゃくちゃ恥ずかしい。

「すごい可愛い音聞こえたね」
「何も聞かなかったことにして!」
「いやいや、お前から聞こえる音は全部可愛いから忘れないよ」
「徹はいつも、よくそんな歯の浮くようなセリフ言えるね!」
「本心だから。それより痛みどう?」

 訊かれて気付く。あんまり痛くないかも。すごい。さすが自慢のイケメン彼氏様。魔法まで使えるのか。
 そんなどうでもいいことを思いつつ「もう大丈夫、ありがとう」と立ち上がろうとした私を、お腹に回したままの手に力を込めて食い止める彼は、ぴたりと私の背中に張り付いてきた。耳に彼の吐息が吹きかかる。ぞくぞくして、とても嫌な予感がする。

「痛みの和らげ方って色々あるんだけど、一番効くのってどんな方法か知ってる?」
「も、もう痛くないから、それはまたの機会で……」
「俺が逃すと思う?」

 横目で耳元にある彼の表情を窺えば美しいという形容詞がぴったりの笑顔があって、見なければ良かったと後悔した。「キスは麻薬と同じぐらい痛みに効果的なんだよ」って。それはキスをするための口実じゃない?