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サラリーマン侑とOL


 今日は疲れた。いや、今日「も」疲れた。社会人になってからというもの、毎日毎日、家と職場の往復で一日が終わる。こんなの嫌だ。もう辞めたい。そんなことを思う程度には身も心もズタボロな私がどうにかこうにか頑張り続けていられるのは、彼氏のお陰だ。
 ガチャリ。玄関の扉を開けば明かりがついていて、彼が来ていることを知らせてくれる。それだけで重たい身体が軽くなるのだから私は単純だ。

「ただいまー……」
「お。ご苦労さん」
「ほんとご苦労だよ」
「俺も今日はめっちゃ疲れた」

 私を笑顔で出迎えてくれた彼も、ここに来てからそれほど時間が経っていないのだろう。私の目の前でネクタイを緩めている。何度見てもその動作に見惚れてしまうのは、彼がイイ男すぎるからだ。

「疲れた日は彼女に癒されたくなるやん?」
「侑を癒せるほどの元気ないんだけど」
「んー? 別に、なんもせんでえぇよ」

 そう言って机の上に鞄を置いた私を正面から抱き締めてきた彼は、そのまますっぽりと全身を包み込むみたいに覆い被さってくる。私と彼の身長差を考えたら、本当に全て覆い隠されてしまいそう。その温度に、また身体が軽くなる。
 ファンデーションが付いてしまうかも、と躊躇ったのはコンマ数秒。私は視界いっぱいに広がる彼の胸板に顔を寄せて、その匂いを肺いっぱいに取り込む。オシャレに香水なんかつけている彼は、仕事終わりでもいい香りがするのだ。

「腹へったなあ」
「そうだねー」
「食べに行くんもめんどくさいなあ」
「そうだねー」
「なんか頼も」
「そうだねー」
「相槌めっちゃ適当やん」
「侑ぽかぽかしてるから眠たくなるんだもん」

 ぎゅうぎゅう抱き合ったまま今晩のメニューを考える。しかし私は一日の疲れと彼に包まれている安心感が相まって、急激な睡魔に襲われてしまった。
 それを咎めるでもなく「しゃーないなあ」と頭をポンポン撫でてから離れた彼は、私の手を引いて寝室へ。夜ご飯はいいのだろうか、なんて思いながらも、ベッドに座らされてしまえば、身体は自然とふかふかの布団へ倒れ込む。

「寝とき」
「お風呂入って化粧落とさなきゃ……」
「後で起こしたる」
「えー……今日の侑優しすぎて怖い……」
「俺はいっつも優しいやろ」
「そうだっけー? そうかもー?」

 会話をしている最中なのに瞼が重たくなってきて、うとうとと微睡む。辛うじて開けようとギリギリまで努力していたけれど、睡眠欲には敵わない。目がだんだん閉じてきて、やがて世界は真っ暗に。
 意識を手放す直前「おやすみ」という言葉とともに額に落とされたキスは、まるで王子様みたいだと思った。いつもはこんなに優しくない。けど、本当は優しいって、こういう時に実感する。
 侑のお陰で明日も頑張れそう。そんなことを思いながら、私は完全に夢の世界へ飛び立った。