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はじめまして、
恋ですか?


??プレゼント、すっかり忘れてた。







今まで平凡に生きてきたはずの私が、一体何をしたというのだろう。急にこんな幸せを与えられたら、一生かけても神様にお礼しきれない。何度もそう思ったし、今でもそう思っている。
大好きな御幸一也選手の彼女になった。一般人の、どこにでも転がっていそうな石ころみたいな女の私が。あの超有名人でキラキラを絵に描いたような御幸一也選手の彼女に。そんなの、何度頭で整理してみてもそう簡単に受け入れられるものではない。だから私は御幸さんの家の合鍵を渡された時も、こんなもの受け取れません!と全力で断ったし、買い物に付き合ってくれと頼まれた時も、私と一緒にいるところを見られたらいけないので!と必死に逃げた。
けれども御幸さんはそんな私の態度が気に入らないらしく、私の言動に対して毎回不服そうな顔をする。ちなみに、合鍵は受け取らないならそこらへんに捨てるなどと危険極まりないことを言われたので渋々受け取ったし、買い物にも引き摺って付いて行かされたので、結果的には全て御幸さんの思い通りになっているのだけれど、御幸さんは満足していない。結果はどうあれ、過程に問題があると思っているようだ。
そんな付き合いを始めてから1ヶ月と少しが経過し、12月最大のイベントと言っても過言ではないクリスマスがやってきた。御幸さんはたまにテレビに出ることがある。特にシーズンオフ中の年末年始には出演の依頼が多いらしく、今日は年明けの特番の収録のため、めんどくせぇなあ…とぼやきながら朝早くに出て行った。私はというと、そんな御幸さんの帰りを、御幸さんの家で、そわそわしながら待っていた。
クリスマスは絶対予定空けとけよ、と念を押されたのは付き合い始めてすぐのこと。元々そんなに忙しい人間ではないから予定なんか全く入っていなかったけれど、御幸さんと2人でクリスマスを過ごすなんて恐れ多くて、この日が来るのが怖かった。けれど、心の準備ができていなくてもクリスマスはやって来てしまったので、私は御幸さんの家の綺麗で広い台所をお借りして夜ご飯を準備し、帰りを待っているわけである。
今から帰る、と連絡があったのが30分ほど前のことだから、きっとそろそろ玄関の扉が開くだろう。そう思っていた矢先に、ガチャリと鍵が開く音がした。予想通り、御幸さんが帰ってきたらしい。私は玄関先に向かうと、靴を脱いでいる御幸さんに、おかえりなさい、と声をかける。ただいま、と返されれば、まるで夫婦みたいだと一瞬思って、そんな大それたことを考えてしまった自分を心の中で叱責した。


「良い匂いする。飯できてんの?」
「はい。台所お借りしました」
「おーすげぇ。美味そう」


台所に入って料理を眺めた御幸さんは何気なく嬉しいことを呟いてくれて、思わず顔が綻ぶ。クリスマスだからと必死になって作った甲斐があった。サラダもシチューもチキンも、そして冷蔵庫の中で眠っているケーキも、一応全て手作り。重たい女だと思われやしないかとヒヤヒヤしていたけれど、御幸さんは嬉しそうなので一安心だ。
御幸さんが部屋着に着替えている間にシチューやチキンを温め直してテーブルに並べていく。御幸さんが知り合いからいただいたというシャンパンを開ければ準備は万端だ。2人で向かい合ってシャンパンで乾杯。私の料理を、美味いじゃん、と言って食べてくれる御幸さんを眺めているだけで、私のお腹はいっぱいである。そうして夜ご飯を終えて食器洗いを済ませ、デザートのケーキを準備しようと冷蔵庫に向かっている時だった。


「ケーキ準備しますね」
「え」
「え?」
「…何でもない」
「お腹いっぱいですか?」
「まあ…いや、食うよ」


御幸さんにしては珍しく歯切れが悪かった。何かがおかしい。お腹がいっぱいなら時間をおいて準備すれば良いと思ったけれど、どうやらそういうわけでもなさそうだし、それならば考えられるのは。


「もしかして…ケーキ嫌いですか?」
「あー…ケーキが嫌いっていうか、実は甘いもんあんまり好きじゃなくて。でも別に食えないってほどじゃねぇから」


食うよ、と。御幸さんはまた言った。食べられないほどじゃないと言っても、あまり好きじゃないなら食べたいわけでもないだろう。私が用意したから、優しい御幸さんは無理矢理にでも食べようとしてくれているのだ。
ああ、もう、私の馬鹿。浮かれ気分でケーキなんか作って、御幸さんの好みもきちんとリサーチせずに1人で突っ走って。ファン失格、勿論、彼女としても失格だ。私は冷蔵庫からケーキを取り出すと帰り支度を始めた。


「私、そろそろ帰りますね」
「は?なんで?ケーキは?」
「持って帰ります」
「食うって言ってんのに」
「良いんです、無理しないでください」
「…ていうか」
「え、」
「誰が帰って良いって言ったっけ?」


リビングのソファに座っていたはずの御幸さんが台所まで来て私に詰め寄ってきた。怒っているような雰囲気で目の前に立つ御幸さんに気圧される形で後退りした私は、すぐに壁際まで追い込まれてしまう。
ごめんなさい、と謝れば、すぐ謝んなって言ってんのに…と溜息混じりの声が降ってきて、また謝りたい衝動に駆られた。謝るなと言われても、私は御幸さんに謝らなければならないことしかしていないのだから仕方がないではないか。


「ケーキ。用意して」
「でも…」
「食ったら風呂入って寝る。分かったな?」
「私も一緒に…ですか?」
「当たり前だろ」
「良いんですか、それで」
「俺がそうしたいって言ってんだけど…嫌?」


嫌じゃない。むしろそんなプラン、御幸さんの方が嫌じゃないですか?ときき返したいぐらいだ。私が首を横に振ると、じゃあケーキ、と私の頭をくしゃりと撫でてリビングに戻って行く御幸さんにキュンとして頬が緩んでしまったのはバレていないだろうか。
私は持って帰る予定だったケーキを小さめに切り分けてコーヒーを準備した。甘いものが苦手だと言うのなら、できるだけ味を相殺できるようにしなければ。そうしてケーキとコーヒーを持って行けば、御幸さんは何の躊躇いもなくパクリとケーキを頬張った。そんなに無理して沢山食べなくても良いのに。御幸さんはどこまでも優しい。


「美味いじゃん」
「でも、甘いでしょう…?」
「まあな」
「…ありがとうございます」
「何が?」
「苦手なのに食べてくれて…」
「名前が作ったやつなら食わねぇわけにはいかねぇだろ」
「無理させちゃって、ごめ」
「謝ったらペナルティーな?」


う、と口籠る私にニヤリと笑う御幸さん。その悪戯っ子みたいな表情にもキュンとさせられて、私の心臓は非常に忙しい。ペナルティーが何かは知らないけれど、御幸さんのことだから無理難題を提示してくる可能性が高いので、私は大人しく自分の分のケーキを口に運ぶことで押し黙った。
それからケーキとコーヒーを無事に平らげて、再び食器を片付けていた私の元に御幸さんがやって来た。どうしたんですか?と尋ねれば、もう終わった?という問い掛けで返事をされて首を傾げる私。


「終わりましたけど…」
「じゃあ風呂な」
「そんな、御幸さんからどうぞ」
「さっき言ったろ?一緒に、って」
「えっ!?」
「ほら、行くぞー」
「ちょっとそれは!さすがに!」
「はっはっは!俺から逃げられると思ってんの?」


御幸さんは基本的に優しいと思う、けど。たまに強引すぎるところは、ちょっと困っていたりする。だって私は御幸さんから逃れる方法なんて知らないんだもの。
結局、お風呂場に強制連行されて一緒に入るハメになり、それが終わったかと思ったら寝室に連れ込まれるという、御幸さんの思惑通りの展開になってしまったわけだけれど。なんだかんだで幸せすぎたので、私はやっぱり神様にお礼しきれないなと思うのだった。

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