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doux espace


ベッドの中で黒尾と過ごす時間は落ち着く。特に何をするわけでもなくゴロゴロしていたら気付けばお昼になっていた。さすがにこれ以上寝ているのはヤバイと思った私は、布団で体を隠しながら上体を起こす。


「起きる?」
「うん。もうお昼だし。お腹すいたし」
「じゃー俺も起きるわ…シャワー貸して」
「どうぞ」
「あ、一緒に風呂入る?」
「入らない!絶対無理!」
「冗談だっつーの」


冗談ならもっと冗談っぽく言ってほしい。黒尾は普通にお風呂とか一緒に入りそうだし。ほんの少し本気にした私って、一体…。
ニヤニヤ笑う黒尾には、たぶん私が考えていることなんてお見通しなんだろう。くそう。ムカつく!


「半分は本気だったけど。今一緒に入ったらまたそーゆーコトになるからやめとく」
「……黒尾って無駄に体力あるよね…信じらんない」
「お褒めに預かり光栄デス」
「褒めてないし」
「ハイハイ…風呂場ってトイレの横にあったっけ?」
「うん。あとでタオル置いとく。着替えはないけど…」
「あー、昨日の服着るから」


黒尾はベッドの下に落ちていた下着をさっと履くと、そのままの格好で部屋を出て行った。昨日も思ったけど、黒尾はイイ躰をしている。こんな言い方をすると変態みたいだけど、事実だから仕方ない。
私はそっと布団の中を覗き、自分の躰を確認する。うん、やっぱり太った。お世辞にも綺麗とは言えない。私は、真面目にダイエットに励もうか考え始めるのだった。


◇ ◇ ◇



黒尾がシャワーを浴びている間に昼ご飯を作った。そこまで料理は得意じゃないし、冷蔵庫にはろくなものがなかったから焼きそばしか作れなかったけど、何もないよりはマシだろう。出来上がった焼きそばを皿に盛り付けたところで、タイミングよく黒尾が台所に現れた。パンツ一丁の姿で。
別に意識する必要はない。今更上半身裸の黒尾を見てワタワタするのはおかしい。そんなこと分かっているのに、昨日や今朝の出来事が蘇ってきて、私は内心大慌てだった。


「おー焼きそば。美味そう」
「早く食べよ。冷めるから」
「シャワー浴びてこねぇの?」
「うん。食べてからにする」


黒尾は私の発言をきくと、寝室へ消えた。きっと服を取りに行ったのだろう。暫くすると昨日と同じシャツとズボンを着た黒尾が台所に帰ってきたので、2人揃って手を合わせ、焼きそばを食べる。なんとなく話すこともなくて静かだ。
食べながらぼんやり思い出すのは、黒尾の色っぽい声や表情。私、変態なのかな。頭がそのことばかりを考えているような気がする。


「静かじゃん」
「黒尾もね」
「俺は余韻に浸ってただけだから」
「はあ?なんの?」
「昨日と今朝のアレコレの」
「ぶふっ」
「ちょ、おまっ…!汚ねぇな!」
「黒尾が変なこと言うからじゃん!」


黒尾の発言に思わず焼きそばを噴き出してしまった。自分でも女として、いや、人としてどうかと思うけれど、今のは黒尾が悪い。


「今更照れんなよなー」
「その話題を掘り返さないで」
「…後悔してんの?」
「それは!……して、ないけど」
「ん、なら良い」


黒尾は意地悪だ。胡散臭いし、人のことを弄んで楽しんでる性格の悪いヤツだとも思う。けれど、肝心なところでいつも、黒尾は優しい。だからつい、絆されてしまうのだ。その行為ですらも計算の内なのだろうか。


「なぁ、名前」
「何?」
「なんで俺のこと、まだ黒尾って呼んでんの?」
「え?だって黒尾は黒尾じゃん」
「昨日は鉄朗って呼んでたじゃん」
「あれはこう…勢い的な?」
「俺も名前って呼んでるし、名前も俺のこと名前で呼べよ。付き合ってんだから」
「な、なんか…恥ずかしい…」
「なんで?」
「だってずっと黒尾って呼んでたのに、いきなり名前で呼ぶとか…ねぇ?」
「俺だってそうなんですけど?」


確かに。言われてみればごもっともだ。なんでいつも黒尾は、私がなかなかできないことや言えないことをサラリとこなしてしまうんだろう。ずるいヤツだ。
黒尾の指摘通り、私だけ名前を呼ばないのもなんとなくおかしい気がしてきたし、良い機会だから名前で呼んでみよう。簡単なことだ。鉄朗って呼べば良いだけじゃないか。


「て…、」
「ん?何?」
「てつ、ろう…?」
「っ…、あのさぁ……普通に呼べねぇの?」
「普通って何?今のじゃおかしい?」
「名前の呼び方、舌足らずな感じなんだよ。すげー煽られるわー」
「へ?」
「もう1回呼んでみ?」
「……てつろう?」
「よーし分かった。お前襲われたいんだよな?焼きそば食い終わったし食後の運動でもするか?」
「待っておかしい!そっちが呼べって言うから呼んだのに!」


なんと理不尽な言い分なのだろう。名前を呼べというから呼んだのに、それで襲われるって、どういう理屈だ。椅子から立ち上がってこちらにジワジワ近付いて来る黒尾は、まるで肉食獣のようで恐ろしい。


「なんか恐いから近寄らないで」
「つれないこと言うなよ。俺らの仲じゃん?」
「恐い恐い!もうホントに無理だからね!体が壊れる!」
「大丈夫だって。気持ちイイことなんだから体に悪いわけねーじゃん」
「その理論おかしい。ちょ、顔近い……っ」


私も椅子から立ち上がって後退りしたのだけれど、呆気なく壁際に追い詰められてしまった。所謂、壁ドン状態。目の前には黒尾のニヤニヤした顔。万事休すである。
キス、される。そう思って固く目を閉じたのに、訪れるはずの感触はなかなかやってこない。恐る恐る目を開けると、それはそれは楽しそうに笑う黒尾がいて、やられた、と思った。私で遊んだな!


「キスされると思った?」
「人の心弄んで、さいってい!」
「そんな怒るなって。な?」
「怒りたくもなるでしょ。私すごいマヌケじゃんか」
「期待してたんだ?」
「そうですよ。悪いですか……っ!」


完全にそんな雰囲気じゃなかったのに。黒尾は私の口を己のそれで塞いできたのだった。なんで、こんなに翻弄されてるんだ、私。これが惚れた弱みってやつなのか。


「ゴチソウサマ」
「むかつく…!」
「お前が俺に勝てるわけねーだろ」
「そんなの分かんないよ」
「じゃあなんかやってみ…っ、………、くっそ、こいつ…」


余裕綽々の黒尾が気に食わなくて、私は負けじと黒尾の唇に自分のそれを押し当てた。キスと呼べるような綺麗なものじゃなかったけれど、黒尾を驚かせるには十分だったようだ。満足げな私と、少し悔しそうな黒尾。これはなかなか見られない光景だろう。
けれど、そんな満足感も束の間に過ぎなかった。そう、私は壁ドンされたままなのだ。逃げ道はない。顎を持ち上げられ噛みつくようなキスをされても、どうすることもできない私。頭がぼーっとする。


「嫌ならやめるけど、どうする?」
「ばか」
「それはどうしてほしいってこと?」
「鉄朗なら分かってるはずでしょ」
「……じゃ、遠慮なく」


馬鹿は私だ。ダメだって言ったくせに、自分から求めるようなことを言ってしまって。けれど、後悔はしていない。
お皿の片付けしてないとか、シャワーまだ浴びてないのにとか、夜ご飯どうしようとか、そんなことはどうでもよくなってしまって。私はまた、甘ったるい空気に溺れてしまうのだった。



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doux espace=甘い空間


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