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#??




「これ、どうぞ」
「えっ」
「いらないなら捨ててください」
「そんなこと絶対せぇへん!」
「そうですか」


12月某日。私が侑さんに手渡したのは、所謂クリスマスプレゼントというやつだった。大袈裟すぎるほど驚いて喜んでいる侑さんは、まるで子どものよう。でも、そういえば去年は何をあげたら良いか分からなくて一緒に買い物に行って購入したから、こうして私からプレゼントとして渡すのは初めてだということに気付いて、だからこんなにも感動しているのかと妙に納得した。中身はそんなに大したものじゃないのになあ、なんて思いながらも、開けてもええ?と目をキラキラさせている彼を見ると笑って頷くしかない。
プレゼントとして選んだのは、男性へのプレゼントとしてオーソドックスなネクタイ。お洒落な侑さんに衣類系のプレゼントは好ましくなかったかな、と懸念していたけれど、取り出したネクタイを胸元にあてて、これめっちゃ俺に似合っとる!と鏡の前で喜んでいるところを見ると、どうやらお気に召してくれたらしい。パジャマ姿なので本当に似合っているかどうかは定かではないけれど、私は心の中でそっと胸を撫でおろした。
それからひとしきり喜んだ侑さんは、俺からもあんねん、と上機嫌で私にラッピングされた包みを渡してきた。なぜか2つも。2つも?という疑問を抱きつつも、私はとりあえずお礼を言ってそれらを受け取る。1つは小さめの紙袋に入っていて、恐らくアクセサリーの類だろうなという予想ができた。けれど、もう1つの包みの方は予想ができない。軽いしふわふわしているから衣類だろうか。私は侑さんに開けても良いかを確認して、了承を得てから1つずつ包みを開いていった。
1つ目の小さな紙袋に入ったプレゼントは、予想通りネックレス。仕事着と合わせても全く不自然じゃない程度に上品な作りのそれは、侑さんのセンスの良さを感じさせる。これはまあ、クリスマスプレゼントの王道って感じだ。そしてもう1つの包みを開こうとした時、侑さんが不穏なことを言った。怒らんといてな、と。嫌な笑みを張り付けて落とされた一言。それはつまり、私が怒ることを想定して投げかけられたのだろう。なぜ渡したら怒られるかもしれないと分かっているようなシロモノをプレゼントしようという気持ちになるのだろうか。私にはいつまで経っても彼の考えが理解できない。
嫌な予感しかしないので、いっそ開けるのを止めようかとも思ったけれど、プレゼントはプレゼント。とりあえず中身を確認してみよう。私は形の整ったリボンを解いて袋の中から中身を取り出した。そして、ああ、やっぱり開けるんじゃなかったと激しく後悔。そうだ、この人はこういうものを平気で贈ってくる人だった。


「名前に似合いそうやろ?」
「いいえ。全く」
「そんなこと言わんと試しに着てみ?」
「これのレシートまだ持ってますか」
「なんで?」
「今すぐ返品しに行こうと思って」
「それは無理やわ。ネットで買ったんやもん」


ふふん、と勝ち誇った顔をしているけれど、彼は本気で私がこんなものを身に着けると思っているのだろうか。袋の中から出てきたのは、下着?ベビードール?とりあえず、布の面積が極端に少ないランジェリーだった。ご丁寧に「セクシーなサンタさんになって愛しの彼を悩殺(ハートマーク)クリスマスプレゼントは私(ハートマーク沢山)」なんて謳い文句付きのタグまで付いているそれは、確かに、赤色の生地に白いふわふわしたものがついていてサンタクロースの衣装を真似ているように見えなくもないけれど、それにしたって布面積が少なすぎて、本物のサンタクロースが見たら「冬をなめんなよ」と激怒されるようなデザインだ。
私は物を大切にするタイプの人間だと自負している。だから、基本的に物を粗末に扱うことはないのだけれど、今回ばかりは残念ながらこの布切れをゴミ箱に放り込まなければならないようだった。だって、仕方がないじゃないか。絶対に着ないと分かっているものをタンスの中にしまっておいても邪魔なだけなのだから。
そんなわけで、私は無言で席を立ちゴミ箱の方に向かって一直線に歩みを進めた。けれど、そこで邪魔をしてくるのは勿論プレゼントの贈り主である侑さん。私が捨てようとしていることを分かっていながら、何しようとしとる?と尋ねてくるのが鬱陶しい。


「ゴミはゴミ箱へって、学校で教わりませんでした?」
「それはゴミちゃうやん!」
「着ないものはゴミです」
「1回でええねん!それ着てしよ!」
「……はあ?」
「エッチ!」
「いや、そんな、そこまで必死にしがみ付かれても…」


私の両手首を持って懇願してくる侑さんに、正直ちょっと引いた。そんなに必死になることなのか、と。侑さんとのセックスなんて、今まで何回してきたか分からない。けれど、私はまあ、今後も侑さんに求められたらそれなりに受け入れるつもりでいた。しかし侑さんの方は、もしかして私との普通のセックスに飽きてきたのだろうか。だからこんなものをネットで購入して、こんなに必死になって私に着てくれとお願いしてきている、と。そういうことなのか。そう考えると、私の心は急に萎んでいった。
こんなもので装飾しなければ興奮しなくなった、と。暗にそう言われているのだとしたら、私自身に魅力がなくなってしまったということになる。まだ結婚して1年も経っていないというのに、これではお先真っ暗だ。私は手に握る赤い布切れを見つめながら溜息を吐いた。


「いいですよ」
「え、ほんまに?」
「そうでもしないとやる気にならないんでしょう」
「は?いや、そういうわけちゃうけど…」
「これに着替えたらいいんですか。ベッド行きます?」
「ちょ、ま、名前、どしたん?」
「どしたんって。したいんでしょう。セックス」
「それはそうやけど…なんか、怒っとる…?」
「…怒ってません」


恋人達が甘い夜を過ごすはずのクリスマス。私はどうしてこんな惨めな気持ちになっているのだろうか。ヤケクソになってこんな、着ている意味があるのかどうかも分からないチャラチャラしたものを身に纏おうとして。そんなことをしてまで、彼の心を引き留めたいなんて。ほんと、アホらしい。
そう、私は怒っているわけじゃない。不安なのだ。飽きられてしまったら私は捨てられるのか、とか。浮気されるんじゃないか、とか。そういうことを考え始めてしまったから。彼を失うかもしれないことが、彼に愛想を尽かされるかもしれないことが、こんなにも怖い。もうなんていうか、馬鹿馬鹿しくなるぐらいに。


「名前」
「なんですか」
「こっち向いて」
「…や、」
「なんで」
「なんでも」
「なんで泣きそうになっとんの」
「泣きそうになんか、」
「なっとるよ」


私の手首を掴んだまま侑さんが身を屈めて顔を覗き込んできたせいで、表情を隠すことは叶わなくなった。泣きそうになるぐらい嫌なら最後まで嫌がってくれたらええのに、なんて言う侑さんは、先ほど子どもみたいな表情を見せていた彼と同一人物なのだろうか。急に大人な対応をされると、どういう反応をしたら良いのか分からなくなる。


「これ、着なくてもいいんですか…」
「ほんまはめっちゃ着てほしいけど、泣かせてまで着せるんはちゃうやん」
「…着なくても、えっちしてくれますか…」
「は?え?ん?」
「ちゃんと、まだ、私のこと必要としてくれますか?」


実に馬鹿馬鹿しい質問をしているということは分かっていた。恥ずかしいことを言ってしまったということも。それでも彼はこういう時、茶化したりせずにちゃんと答えてくれるのだ。そんなん当たり前やん、と。私の頭をゆっくり撫でて、ついでと言わんばかりに抱き締めながら。それだけで私は安心する。ああ、この人は私のことをちゃんと好きでいてくれてるんだって。何も不安になる必要はなかったんだって。
彼と一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、私は麻痺していく。好きだという感情が溢れて止まらなくなる。彼に出会うまで知らなかった感情が、どんどん湧き出てきてしまう。だから私は出会った時よりも凄く面倒臭い女になっているはずなのに、彼はなぜかそれを嬉しがるのだ。俺のことそんなに好きなんや、って。


「侑さん、」
「ん?」
「ベッド行こ」
「へ、」
「これは着るつもりないけど…それじゃあいや?」
「っあー!そういうん、ずるない?」
「いやなの?」
「…あかん…もう…めっちゃ可愛い…」


どうやら彼はまだまだ私にご執心のようで。その後たっぷりと、時間をかけてベッドで可愛がってくれた。ちなみに、彼が寝ている間にこっそり例のランジェリーを着てみたら、案の定、着ている意味がないだろって感じだったのですぐさま脱ごうとしたのだけれど、運悪く目覚めてしまったらしい侑さんに見つかってしまって酷い目にあったのは、あまりにもベタすぎる話なので割愛させてもらうことにしよう。


冬の日のい思い出