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朝のSHRが終わった後の教室内はいつも騒がしい。今日はいつにも増して賑やかだ。なんでも、他のクラスに転校生が来たらしい。噂によるとなかなかの綺麗め美人とのこと。高校2年生の3月というなんとも中途半端な時期に来たことも話のネタとして盛り上がる原因ではあるだろうけれど、それ以上に男子達の心を浮つかせているのは、その転校生が綺麗め美人だという噂の方にあると思う。俺だって少しは興味がある。とは言え、自慢でもなんでもなくモテモテの俺からしてみれば、そこそこ美人、ぐらいのレベルでは心が躍らないのも事実だったりする。
俺は前の席に座る幼馴染の肩をツンツンとつついた。


「ねーねー岩ちゃん。岩ちゃんも気になる?噂の転校生のこと」
「あー…この時期に来るの珍しいよな。どうせなら新学期始まってから来りゃいいのに」


ゆるりとこちらに顔を向け俺からの問いかけにそう返してきた岩ちゃんは通常運転だ。美人の女の子らしいってところにはさほど興味がないらしい。色恋沙汰にめっぽう疎い幼馴染のことだからどうせそんなことだろうとは思っていたけれど。
それにしても、岩ちゃんの言うことは一理ある。何もあと数日で3年生に進級するこの時期にわざわざ転校してくるなんて、キリが悪いというかなんというか。俺だったら3月は学校行かずにサボっちゃうけどなあ、なんて考えたところで1時間目の開始を告げるチャイムが鳴った。ガヤガヤとしていた教室も先生が入ってくると途端に静かになる。
早く授業終わらないかなあ。バレーしたいなあ。そんなことをぼんやり考えながら、俺は教科書とノートを開いた。


◇ ◇ ◇



昼休憩。俺と岩ちゃんのところに来るメンバーは決まっている。今日も今日とて、いつもの4人が岩ちゃんの机の周りに集まっていた。
俺、岩ちゃん、マッキー、まっつん。全員男子バレー部のメンバーだ。
大の大男が4人揃って机を囲んでいる風景はよく考えたら相当むさ苦しいかもしれないけれど、そこは俺の爽やかさでカバーだ。


「及川、今すげー馬鹿なこと考えてただろ」
「えー?むさ苦しい男が3人集まっても及川さんのおかげで爽やかな雰囲気になってるなーって考えてただけだよ☆」
「…岩泉、頼んだ」
「おうよ」
「いったー!岩ちゃん、本気のグーパンはダメだよ!ほんとに痛いから!」


ざまーみろ、とケラケラ笑うマッキーとまっつん。
いや、笑いごとじゃなくてこれ本当に痛いんだから!少し涙目になりながら岩ちゃんのグーパンを食らった箇所をさすっていると、そういえば、とマッキーが目を輝かせて口を開いた。


「うちのクラスに転校生来たんだけど、めっちゃ美人!マジで!」
「あー…そうだったな。確かにあれは美人。キレイ系」
「え、何?まっつんも認めちゃうぐらい美人なの?気になるー!」
「なんで俺の美人情報は信じねーんだよ」
「だってマッキー、大体の女の子のこと可愛いとか綺麗とか褒めるじゃん」
「確かに」


そんなことねーよ!と反論しているマッキーは無視して、俺はその転校生のことを考えながら牛乳パンを齧った。普段、女子のことをそこまで評価しないイメージのまっつんまでもが美人だと言うからには、ぜひともお目にかかりたい。
俺達3人の会話をよそに黙々とお弁当を掻き込んでいた岩ちゃんはどうやら食べ終わったらしく、お弁当箱を片付けている。


「でもさー、大抵の女の子は及川さんを見たらイチコロじゃん?その美人な転校生ちゃんも、俺に出会ったら好きになっちゃうかもよ!」
「ほんとお前ウザいよな」
「ウザ川だな」
「さっきからうるせェんだよウザ川!さっさと食え!」
「ちょ!岩ちゃんまでウザ川とか言わないで!痛いし!グーパンやめてってさっき言ったじゃん!」


この4人が集まるとなぜかいつもぞんざいに扱われるのがお決まりと化しているのが悲しい。岩ちゃん、痛いよ。
これ以上殴られたらたまったものではない。静かにもそもそと牛乳パンを食べ終えたところで、ちょうどチャイムが鳴った。それぞれの教室へと帰っていくマッキーとまっつんを見送って、俺も自分の席につく。
午後の気持ちの良い陽気の中うとうとしながら考えたのは、やっぱり噂の転校生のことだった。


◇ ◇ ◇



放課後。俺は職員室に向かっていた。先生にみんなから課題のプリントを回収して持ってこいと頼まれたからだ。バレーあるのに。先生の鬼!
とは言え、日頃の女の子達への真摯な対応のおかげで(?)プリント集めを手伝ってもらえた俺は、難なく回収を済ませ任務を終えようとしている。先生にプリントを渡し早々に職員室を退散。急いで体育館へ向かおうとしたのだけれど、そこで俺の視界に入ってきた1人の女子生徒。
遠目からでも分かる。あれはきっと、噂の転校生ちゃんだ。だって見たことないし、何より美人。
俺の足は自然とその転校生ちゃんの方へと向かっていた。


「もしかして、今日転校してきた子?」
「…そうですけど」
「すごい美人だね!よく言われない?」
「……。何か私に用事でも?」


飛びっきりのスマイルで話しかけたにもかかわらず、その転校生ちゃんはにこりともせず、むしろ怪訝そうな顔で俺を見た。
こう言うと自意識過剰と思われるかもしれないけれど、俺が笑いかけてこんな冷たい反応をしてきた女の子は彼女が初めてだと思う。俺は心が折れそうになりながらも笑顔を絶やさず続ける。


「見かけたから声かけただけだよ。俺、及川徹。4月から3年生になる同級生だから…よろしくね!」
「同級生…そうなんだ…」
「名前教えてよ」
「…名字名前」


渋々、といった様子でそう返事した彼女はやっぱり笑わない。同級生ときいて少しばかり驚いたような、そして嫌そうな雰囲気を醸し出されたような気がするけれどスルーしよう。
じゃあ、もう行くから。
結局、俺が一方的に話しかけて会話らしい会話もないまま、彼女は颯爽と去って行った。…何これ。すごい虚しいんですけど。
彼女の後姿を見つめながら、じわじわと言いようのない感情が芽生える。
名字名前ちゃん、ね。4月から楽しくなりそうだ。


感情の黎明


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