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プロ成宮×幼馴染彼女


※社会人設定


「だから、なんで?」
「さっきから何回も言ってるでしょ!イメージの問題!」
「俺が良いって言ってんのに?」
「鳴が良くても私が良くないの!」
「だから、なんで?」


この男は本当に馬鹿なんだと思う。学生時代からそんなに頭が良い方じゃないことは知っていたけれど、そういう次元の問題じゃなくて。私は大きな溜息を吐いた。
鳴とは幼馴染だった。幼馴染、と言えば聞こえはいいかもしれないけれど、私と鳴の場合は腐れ縁と言った方が正しいかもしれない。幼稚園も小学校も中学校も同じ。だから、高校では絶対に同じところに進学するまいと思っていたのに、何の運命の悪戯か、入学したらまた鳴がいた。私の進学先が野球の名門校だと知ったのは入学後のこと。野球馬鹿の鳴が絶対に進学しないであろう野球部のない高校を調べておけばよかったと後悔したのは言うまでもない。
そんなわけで高校3年間も私と鳴は同じ学校で過ごした。でも、その後はさすがに別々。鳴はすぐにプロ野球選手になって、私は平凡な4年制大学に進学。それなりに楽しいキャンパスライフを送って卒業し、今年の春から晴れて社会人1年生となった。
4年間、鳴には会っていない。ただ私は一方的にテレビで見ていた。鳴の活躍を。球界のプリンス、なんて誰が呼び始めたのだろう。プリンス、なんて呼べるほど高貴でもなければ穏やかな性格をしているわけでもないのに。けれどもプリンスだろうがそうじゃなかろうが、鳴の女性ファンが多いことは明らかだった。悔しいけれども、鳴は昔から随分と整った顔立ちをしている。学生時代も何人もの女の子に告白されていたから、きっと今でも沢山のラブレターなりファンレターなりもらっていることだろう。
そんなの今の私には関係ないことだ。そう思っていたのに、何がどうなってこうなったのか。結論から言うと、鳴は私の彼氏になった。ちょうど数分前に。
幼馴染。腐れ縁。離れたいと思っていた。でも、離れなかった。そうしていくうちに少しずつ大きくなっていた鳴への気持ち。高校卒業の時には自分の気持ちに気付いていたけれど、だからと言って今更そういう関係にはなれないと、心の奥に仕舞い込んだ。大学に行って彼氏もできた。けど、うまくいかなかった。鳴のせいだと言うつもりはさらさらない。けれども、鳴のことを忘れられなかったのは事実だ。
ただ、鳴はもう私の知らない遠い世界の住人になってしまったから、昔みたいに馬鹿な言い合いも、くだらない喧嘩もできやしない。それが寂しいなと思ったりして。そんな寂しさにも慣れてきた頃に突然お母さんから、家に帰ってきなさいよ、と言われた。何の理由もなく。でも、ちょうど仕事にも1人暮らしにも疲れてきて、年末には帰る予定だったけどちょっと早めに帰っちゃおうって、軽い気持ちで帰省したら、そこに、鳴がいたのだ。オフシーズンに入ったから帰って来たんですって、と。あなたのこと驚かそうと思って内緒にしてたの、と。お母さんは楽しそうに言った。


「元気そうじゃん」
「……鳴もね」
「ちょっと話があっておばさんに呼びだしてもらったんだけど」
「私に話?」
「そう」


帰ってきて早々、鳴は昔と変わらぬ自由奔放さを発揮して私を連れ出した。高校時代よりも随分と逞しくなった姿に見惚れる暇も与えてはくれない。ぐいぐいと腕を引っ張られ、なんなのよ、と文句を言ってみても知らん顔。なんか横柄さに拍車かかったんじゃない?と、私は顔を顰めてしまった。でも、その顔が驚きの表情に変わるのに、それほど時間はかからなかった。
鳴が足を止めたのは、むかーしむかし、私達がまだ幼稚園児だった頃、2人で作った秘密基地のあった場所。2人だけの内緒だよ、って。子どもながらに約束をした。まさかこんな場所の存在を鳴が覚えていたなんて。意外とセンチメンタルなのか。


「こんなところ、よく覚えてたね…」
「俺、記憶力いいから」
「嘘ばっかり。暗記もののテストひどい点数ばっかりだったじゃん」
「今はそういう話しに来たんじゃないから」


いくら逞しくなっても、鳴は鳴だった。そのことに少し安心した。どんなに遠い存在になったとしても、鳴は鳴なんだって。当たり前のことだけれど、それを再確認できたことが嬉しかった。


「それで、話って?」
「覚えてないの?」
「何を?」
「ここでした、約束」


ここでした約束。秘密基地の存在は2人だけの秘密にすること。それから、もう1つ。大きくなっても、大切なことはこの場所で言い合おう。
そんな曖昧で子どもじみた約束を鳴が覚えていることに驚いた。小学生の時も中学生の時も高校生の時も、この場所に来たことはない。それまでに大切なことなんて幾らでもあったはずなのに、1度も、来たことがないのだ。それなのに今更になって、何を。


「大切なこと、言おうと思って」
「なに、急に。真剣な顔しちゃって」
「真剣だから」
「やだ怖い」
「ちゃんと聞けって」


いつからそんな風に私のことを見つめられるような男になったんだろう。見つめ合ったことなんて、それこそ幼い頃しかないように思う。怖いぐらい真剣な眼差しは、逸らすなよって言っているみたい。だから私は逸らせなかった。そうして、言われた。
俺好きなんだよね。ずっと。
その好きが何に対するそれなのか。分からないほど馬鹿じゃなくて、でも信じられなくて、どうしたら良いか分からなくて。でもちゃんと言った。約束だから。私も大切なことを伝えた。私もずっと好きだったんだよね、って。
それからお互いに恥ずかしくなって、なんで今言ってきたの、とか、そっちこそ俺が言ったから便乗して言ってきただけのくせに、なんて昔みたいにくだらない言い争いが始まった。それすらも懐かしくておかしくって、2人で笑い合って。このまま美しい馴れ初めを終えることができれば良かったのだけれど、そう上手くはいかなかった。


「じゃ、早速引っ越し準備してね」
「は?どういうこと?」
「一緒に住むから」
「どこに?」
「俺んちに」
「はあ?」
「広いからちゃんと部屋あるし」
「そういう問題じゃなくない?」
「そのうちでっかい家建てるから」
「だからそういう問題じゃなくて」
「じゃあどういう問題?」
「私と付き合ってるの、バラしちゃだめでしょ」
「なんで?」


こいつ、自分が有名人ってこと分かってんのか?って感じだった。球界のプリンスにこんな平々凡々な彼女ができたなんて知られたらイメージダウンも甚だしい。ファンだって減ってしまうかもしれないし、球団側の意向だってあるだろう。私としても仕事がやりにくくなってしまうし、そもそも付き合うことになっただけですぐ同棲ってどういう思考回路してるんだ。それらのことを伝えたにもかかわらず、鳴は「なんで?」を繰り返す。そして冒頭のやり取りである。ほんと、頭痛い。


「どうせすぐ結婚するんだから一緒に住めば良いじゃん」
「な、ちょ、そんなの勝手に決めないでよ!」
「じゃあ結婚しないの?別れるの?」
「それは…嫌だけど…」
「ほら、じゃあ良くない?」
「良くない!私の仕事のことだってあるし、そういうことは流れで適当に進めるもんじゃないでしょうが!」
「仕事なんて辞めなって。俺が稼ぐし」


どこまでもゴーイングマイウェイな男だ。そりゃあ鳴の給料?年俸?はものすごい金額だから私が仕事する必要なんてないかもしれないけど、今すぐに結婚とか、そういうわけじゃないんだし…でも結婚か…いいな…なんてときめいている場合ではなかった。危ない。


「ちゃんと、順番にしよう。私、逃げないし」
「何、順番って」
「親に挨拶するとか球団の人に報告するとか。そういうことちゃんとするまでは秘密にしとこうよ」
「うげぇ…こそこそすんの嫌いなんだよね…」


分かっている。鳴の性格上、そういうことが嫌いだってことぐらい。でも、ちゃんとしたいんだ。ちゃんと好きだから、適当にしたくないの。鳴の気持ちは嬉しいけど、だからこそ、ゆっくり色んなことをやりたい。
だから少しの間だけ、2人だけの内緒だよ。
いつかと同じセリフをいつかと同じ場所で行ってみる。すると鳴はちょっぴり固まって。しょうがないなあ、って言ってくれた。球界のプリンスが私だけのプリンスになりました、なんて。ちょっと似合わないね。