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倉持と夏の教室


夏ってのはどうしてこうも暑いのか。考えたってどうにもならないが、こうも暑いと干からびてしまうんじゃないかと本気で心配になってくる。そして、ただでさえ立っているだけでも汗が噴き出るこのクソ暑い中、自ら猛ダッシュを続けている俺は本当にモノ好きだと思わずにはいられなかった。
野球部の練習は、暑かろうが寒かろうが雨が降ろうが槍が降ろうが、基本的には休みなんてない。汗まみれ、泥まみれになりながら、何が楽しくて白いボールを追っているのかと思われるかもしれないが、生憎、俺を含む野球部の連中は野球馬鹿ばかりだから、その白い球を追いかけることに命を懸けていると言っても過言ではなく。もはや、本能的に身体を動かしているのだ。
そんな野球馬鹿のためにせっせと働くマネージャーってのは、ある意味、俺達なんかよりも根気があるんじゃないかと思う。いくら野球が好きだと言っても、ほぼ雑用みたいなことを毎日繰り返していて文句のひとつも言わない。朝練の時にはさすがにいないが、放課後の練習の時には俺達と同じように汗を拭いながら働いているマネージャーの1人の姿をぼんやりと思い出しながら、俺は朝練最後のダッシュを終えた。
朝っぱらからハードな練習を終えた俺は、寮に戻って朝飯を平らげてから教室に向かう。もうすぐ夏休み。野球だけで埋め尽くされる毎日は目前だ。
俺はお世辞にも勉強が好きとは言えないタイプだから、1日も早く夏休みに入ってほしいと思っている。蒸し風呂状態の教室で、下敷きを団扇代わりにしてパタパタと仰ぎながら、早く夏休みになんねーかなー、などと考えていると、隣の席の女子に、おはよ、と声をかけられた。
隣の席の女子というのは、俺が最近、密かに気になっている我らが野球部のマネージャー。暑くなってきてからは髪を結い上げて来ることが多くなり、その綺麗なうなじが露わになっていて、ある意味目の毒だ。


「朝練お疲れ様」
「おー。朝飯吐くかと思ったわ」
「やめてよ汚いな」
「ヒャハ!冗談だって」
「今日も暑いねー」
「夏だからな」


こんなくだらない会話の時でさえ柄にもなくドキドキしているのは、きっとそういうことなんだろう。俺だって健全な男子高校生だ。自分の感情に気付かないほど馬鹿ではない。
無駄に熱くなる顔を夏の暑さのせいにして、俺は尚もパタパタと下敷きで生温かい風を送り続ける。すると、それを見ていた隣のソイツも下敷きを取り出してパタパタと仰ぎ始めた。
ふわり。風に乗って俺の鼻腔を擽るのは、香水などではない、けれどもどこかいい香り。やべぇな。俺、変態みてぇ。


「あんまり涼しくなーい」
「じゃあやめろよ」
「んー。でも何もしないよりマシな気がする」


そうして暫く仰いでいたソイツだったが、何を思ったか、制服のシャツのボタンをひとつ開けて胸元から少し引っ張ったかと思うと、その隙間の中にパタパタと風を送り始めたではないか。
シャツの中が見えるわけではない。けれども、見えてもおかしくないほど際どい、なんとも絶妙な角度。俺の視線は自然とそちらに向いてしまい、無意識のうちにゴクリと喉が鳴った。いやいや待てよ、俺はマジで変態か!でもこれは男として、不可効力ってやつじゃねぇかとも思う。


「お前!そういうことすんな!」
「え?そういうことって?」


目のやり場に困った俺は、少し視線を逸らしながら指摘してみた。けれども、何がいけないんだとばかりにキョトンとした表情を浮かべたまま、依然としてシャツの隙間をそのままに仰ぎ続ける想い人。
俺が再びちらりと胸元に視線を送ったことに気付かれてしまったのだろうか。自分の胸元と俺を交互に見遣ったソイツは、仰いでいた手を止めた。


「倉持、もしかして…」
「ばーか!違ェよ!勘違いすんな!」
「……なーんだ。少しぐらいドキドキしてくれたのかと思って期待したのに」


耳を疑う発言をさらりとして、今度はシャツを直にパタパタとし始めた彼女を、俺はポカンと見つめる。なんだよ、それ。ドキドキしてたらどうだって言うんだよ。
暑さのせいか、元々俺の頭が悪いからなのか。言葉の真意をイマイチ掴みきれない俺は、一か八かの勝負に出ることにした。うだうだ考えるのは苦手だし、らしくない。


「お前さぁ、もしかして俺のこと好きだったりして?」
「うん?そうだよ。知らなかったの?」
「………は、」


そんな、当たり前でしょ、みたいなノリで何を言ってくれてんだコイツは。照れもしなければ隠しもしない。普通、女ってのは好きな男の前だともう少し萎縮するもんじゃねぇのか。
戸惑う俺を尻目に、ふふっと楽しそうに笑った彼女は、前屈みになって自らの太腿の上に頬杖をついた。シャツの隙間から垣間見える谷間に目がいくのは、もはや自然の摂理ってやつだと思ってほしい。


「倉持もさ、実は少しぐらいドキドキしてるでしょ?」
「………悪いかよ!」
「全然。もっとドキドキしてもらえるように頑張ろーっと」


満足そうにそう言って体勢を元に戻したソイツは、チャイムが鳴ると同時にボタンを閉めた。まさかとは思うが、コイツ、確信犯かよ。してやられた。
いまだに暑い教室内で、更に自分の体温が上がったような気がするのは、この気温のせいってだけじゃないと思う。パタパタ。下敷きで送る風はやっぱり生温くて心地良いなんて思えないはずなのに、俺の気持ちはやけに清々しかった。