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俺のクラスには名字名前という女子がいる。頭はそこそこ良いけど運動はからっきしで、ちょっとヌケている、もしかしたら天然と言われる部類の人間かもしれない彼女。正直、鈍臭い奴は苦手というか嫌いだ。その手のタイプを相手にするのは疲れるから。それなのにどうしたことか、どちらかというと苦手もしくは嫌いなタイプに属するであろう彼女のことが、俺は最近気になって仕方がないのだ。


「う、わぁ!」


今日もまた名字は鈍臭さを存分に発揮していて、クラス全員分のノートを派手に床にぶち撒けていた。どうやら日直の名字は、それらを全て1人で持って行こうとしていたらしい。
1人で持つには多いし明らかに重すぎるだろうことは少し考えれば分かることなのに、なぜそんな無謀なことを試みるのだろう。そういうところが馬鹿だと言うのだ。
もう1人の日直はどこに行ってしまったのか不在で、散らばったノートを拾い上げているクラスメイト達の中にも、一緒に持って行ってあげるよ、という心優しいやつはいないらしい。俺は別に優しくないし、なんなら今もノートを拾ってやってもいない。
…が。再び1人でそれらを持とうとする名字を見ているとどうにも放っておけなくて、俺は仕方がなくも手伝ってやろうという気になってしまった。ゆっくりと名字に近付いて、それ手伝う、と。俺が言い出すより早く名字の手元からノートの山を奪い去ったのは、同じクラスの1人の男子。


「名字さん、手伝うよ」
「ありがとう!助かるー!」


名字は屈託無い笑顔を見せてそいつにお礼を言っていて、その姿がどうにもいけ好かない。あと一歩早ければ俺がその笑顔を向けられていたのだろうか。そんな考えが一瞬でも脳裏を過ったことに驚いた。
くだらない。馬鹿馬鹿しい。そう思っているはずなのに、楽しそうに話をしながら教室を出て行く2人の背中をなんとなく眺めてしまう俺は、やはりどうかしてしまったのかもしれない。
そんな名字が、今日の席替えで俺の隣の席になった。よろしくね、と愛想よく笑いかけてくる名字を見て、こいつは誰にでもこんな風にヘラヘラ笑いかけるのかと、妙に苛々する。


「白布君とは同じクラスだけどあんまり話したことないね」
「話題がないだろ」
「そうかなあ…話題……あ、白布君ってバレー部だよね?」
「なんで知ってんの」
「だって有名人だもん。2年生でレギュラーメンバーなんでしょ?すごいなあ…!」


何の下心もなく、本当に純粋な気持ちでそう思っているのだろう。名字の瞳はキラキラしていて、戦隊もののヒーローを見つめる子どものようだった。まともに会話をしたこともないのによく知ってんな、と思いつつも、嫌な気持ちはしない。
バレーをするためにここに入学したんだからレギュラーにならないと意味がないよ、と。思ったことをそのまま口にしようとした時だった。


「名字さん席近いじゃん。よろしくー」
「あ、さっきはありがとう。よろしくね!」


先ほど名字と仲睦まじくノートを運んでいた奴が、俺の背後から突然会話に横槍を入れてきた。声をかけられて無視するわけにはいかないだろう。名字はにこやかに、相変わらずのほほんとした口調で挨拶をしている。
それで終わればいいものを、そこから雑談が始まり俺との会話はいつの間にかフェードアウトしていた。…ムカつく。話題がないと言ったのは俺の方だし、名字に執着する意味も分からない。が、俺よりクラスメイトのそいつと楽しそうに話す名字を見ているのは、非常に面白くなかった。


「名字、」
「へ?…なぁに?」
「バレー興味あんの?」
「え…と、見るのは好きかな。急にどうしたの?」
「別に。きいてみただけ」


俺が突如会話を中断させたからだろうか。それまで名字と話していた俺の背後のそいつは自分の席の隣の女子と会話を初めていて、もう名字に声をかけてきそうな雰囲気はない。
たったそれだけのことで僅かでも優越感を覚える俺は我ながら幼稚だと思うが、困ったことに感情が上手くコントロールできないのだ。らしくない。自分でもそれは重々承知である。


「白布君は頭も良いしバレーもできるし、私なんかとは比べものにならないぐらいすごい人だよねぇ…」
「何、急に」
「前から思ってたよ。だからなんていうか…話すのもね、ちょっと緊張しちゃう」


なんでそんなことを、本人を目の前にして馬鹿正直に言ってしまうんだろう。こっちも無駄に緊張してしまうではないか。ああそうか、この子は馬鹿なんだ。だから思ったことが全て口から出てきてしまうんだ。そうに違いない。だからこの手の人間は苦手なのだ。俺のペースを簡単に乱すから。
いまだにへらりと締まりなく笑っている名字は、でもね、と言葉を続ける。


「白布君と話してみたいなあって思ってたから、嬉しい」
「……なんで」
「うん?」
「なんで俺と話してみたいって思ってたのかきいてんの」


話しかけ辛いオーラを放っているという自覚はある。というか、無駄な会話は極力したくないと思っているから、自らそういう雰囲気を醸し出していると言っても過言ではない。だからクラスメイト達は何かしら用事がある時しか俺に話しかけてこないし、俺もそれで良いと思っている。
けれど、どうしたことだろう。今日の俺は自分から生産性のない会話を名字と繰り広げているではないか。こんな俺と話してみたいってどんな物好きだよ。


「なんでってきかれても難しいな…仲良くなりたいって思ってるから?かな?」
「俺と仲良くなっても何のメリットもないと思うけど」


俺の発言をきいてキョトンとしている名字。考えていることや思っていることがこうも分かりやすく顔に出るものなのか。名字は、何言ってんの?と顔で俺に喧嘩を売ってきている。


「メリットなんて考えて友達つくらないよー!白布君ったら変なの!」
「変なのは名字だから」
「ねぇねぇ白布君。私ね、白布君のこと好きだよ」
「は」
「だから友達になって!」


俺の聞き間違いでなければ名字は今、俺のことを好きだと言った。何の躊躇いもなく、それはそれはもう自然に。本当に、変な奴だ。好きってそう簡単に言うもんじゃないだろ。馬鹿なのか?…そうだ、こいつは馬鹿だった。俺は何回再認識すれば気が済むんだ。
とはいえ、どういうつもりで言った「好き」かは知らないけれど、俺がその言葉に少なからず動揺してしまったのは事実で。いまだに、だめ?白布君?と俺の顔色を窺ってくる名字に、不覚にも口角を上げてしまった。
俺は鈍臭い奴も馬鹿も嫌いだ。けど、まあ、例外もあるってことなんだろう。癪だけれどもう認めざるを得ない。


「名字、俺のこと好きなの?」
「うん。好きだよ」
「で、友達になりたいんだ?」
「うん」
「俺は嫌だな」
「え」


固まった直後しゅんと俯いて、元々小さかった身体を更に小さく萎ませる名字にほくそ笑む。分かりやすすぎるんだよ。だからつい意地悪したくなるんだろ。


「友達以上になりたいとは思わないんだ?」
「……へ?」
「言っとくけど、俺と友達止まりなんて許さないから」
「え?ん?は?」
「名字のペースに合わせて友達からスタートしてやるけど、まずは他の奴に媚び売るのやめろよな」
「こび、うる?え?ちょ、白布君…?」


恐らく名字の頭の中は大混乱状態だろうけれど、せいぜい必死に整理すれば良い。他の奴にヘラヘラ笑ってる余裕がなくなるぐらい、俺のことしか考えられないように。そして名字が漸く整理できた頃に、また俺のことで埋め尽くしてやろう。
担任の、そろそろ静かにしろよー、という間の抜けた号令によって少しずつ静かになる教室内。ちらりと名字に視線を向けると、バッチリ目が合った。が、すぐにふいっと逸らされる。
なるほど、意外なことに俺が思っていたよりも名字の頭は回転が早いらしい。俺は名字の髪の隙間から覗く耳の赤さを確認してから、緩む口元を隠すように頬杖をついて前を向くのだった。
故意に恋するお年頃

こおり様より「嫉妬する白布」というリクエストでした。嫉妬というか独占欲丸出しになっただけ感が否めませんが…そしてとても素直じゃない感じになってしまいましたが…ヒロインにちょっぴり翻弄され気味な白布を書くのが新鮮で楽しかったです!この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.05.04


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