×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

侑はここ最近、無性に苛々していた。それは、現在進行形で侑の目の前で繰り広げられている2人のやり取りが原因だ。2人、というのは幼馴染みである名前と双子の兄弟である治のことで、3人で登下校をするのはもはや当たり前のことだった。けれど、ここ数週間、どうにも名前の様子がおかしい。侑が話しかけても素っ気ない名前が、なぜか治とだけは楽しそうに、仲睦まじく会話をしているのだ。
それまでは3人で普通に会話できていたし、名前の態度も侑と治で変化するなんてことはなかった。それなのに、何の前触れもなくいきなり自分にだけよそよそしい態度を取られるようになれば、侑でなくとも不愉快に感じてしまうわけで。ただでさえ怒りの沸点が低い侑は、そろそろ我慢の限界だった。よくもまあ数週間も耐えたものだと、逆に感心してしまう。


「なぁ名前、なんや俺に言いたいことあるんやったらはっきりしぃや?」
「は?…別に、そんなんないし」
「せやったらなんでそないな態度になるん?」
「侑…落ち着きや」
「治は黙っとき」


通学路でよもや大喧嘩になりそうな雰囲気を感じ取った治は、その場を穏便に済ませようと口を挟むが、それがまた侑の苛々を助長した。名前をかばったりして一体どういうつもりだ、と。そう思わせてしまったのだ。名前は侑から顔を逸らしたまま、何も答えない。


「…そうか、わかった。俺がそない邪魔なんやったらもう一緒に行くんやめるわ」
「え…私、邪魔やなんて一言も…、」
「帰りも俺1人で帰ったる。あとは2人で好きにしぃや」


名前のだんまりに痺れを切らした侑はそう吐き捨てると、2人を置いてさっさと歩き始めてしまった。名前はバレー部のマネージャーなので、どうせ朝練でも放課後の部活でも顔を合わせるというのに、これはなんとも気まずい。
名前は途方に暮れて隣を歩く治に視線を送った。さすがの治も、あそこまでキレてしまった侑は制御できないらしく、肩を竦めるのみだ。
どうしよう。名前は密かに自分の胸で燻る感情を持て余していて、ただオロオロとすることしかできなかった。


◇ ◇ ◇



そもそも名前が侑と上手く接することができなくなってしまったのは、数週間前の部活終わりの出来事に原因がある。その日、いつも通り体育館の後片付けをして鍵をかけようとした名前のところに侑がやって来た。


「早よしぃや。帰るで」
「分かっとるわ!今閉めようとしよるんが見えへんの?目、腐っとるんちゃう?」


こんなやり取りはいつものことで、名前は体育館の鍵を閉めると侑の方に向かおうと一歩を踏み出した。が、いつも歩いている場所だというのに、その日に限って階段を踏み外してしまい、身体がぐらりと前に傾く。
コケる、と思っていた名前だったが、待ち構えていた衝撃はなく。かわりにお腹の辺りに逞しい腕が回っていて、背後に侑がいることに気付いた瞬間、その腕が侑のものだということを理解して身体が熱くなるのを感じた。


「ご、ごめ、」
「危なっかしいわぁ…気ぃ付けや」
「ありがと…、」
「やけに素直やん。気持ち悪っ」
「…っ、うるさい!あほ!」


名前は照れ隠しに子ども染みた捨て台詞を吐いて侑から距離を取ると、一目散に走って1人で帰ってしまったのだ。侑も治もただの幼馴染みであって、今更男として意識できるわけがない。名前はそんな風に思っていた。
けれど、その時の出来事は名前が侑を男として意識するきっかけとなってしまったらしく、それ以来、どのように接したら良いのか分からなくなっていたのだ。口喧嘩はできるが、まともに目を見て話すことはできない。これはまずいと思った名前がどうするべきかと考えた結果、辿り着いた答えはもう1人の幼馴染みである治に相談することだった。


「それで、どないせぇ言うん?」
「それが分からへんから相談しとるんやんかぁ…」
「…ほんま、自分らめんどくさ……」


治は項垂れる名前を呆れたように眺めながらそう吐き捨てたが、なんだかんだ言いつつも名前の話し相手になっていた。さり気なく2人の間を取り持つ努力をしていた治だったが、根本的に名前が侑をあからさまに避けているものだからどうすることもできず。結局、今のような事態に陥ってしまったのだった。


◇ ◇ ◇



名前と侑が険悪な雰囲気になってから数日。侑はいまだに苛々を抱えたまま1人で登下校していた。治は何も言ってこないし、名前の方からも何のアクションもない。これはいよいよ、自分は邪魔者だったのか、と。そう思い始めていた時だった。部活終わりの体育館に、治と名前の姿を見つけたのは。
2人で一体何の話をしているのか。遠くから見る名前の顔はなぜかほんの少し赤らんでいるように見えるし、それはまるで恋人同士のようで。治は元々そこまで自分のことをペラペラと話すタイプではないから、例え名前と付き合っているとしても言ってこないということは十分にあり得ることだ。
アホらし。俺に内緒でお付き合いかいな。ほんま、胸糞悪いわぁ。
心の中でそんな悪態を吐きながらも、なぜか侑はその場を離れることができなかった。それゆえに、体育館にいた治と目が合ってしまう。


「侑!名前から話があるらしいで!」
「ちょ!治!」


治は侑の存在に気付くなりそう言ってから体育館入り口まで大股で歩いてくると、制止を試みる名前をたしなめて、2人で早よ解決しぃや、と言い残してその場を去って行った。取り残された2人の間には、当たり前のことながら重苦しい空気が流れる。


「…話て、何?」
「え、いや、それは……、」


久し振りに会話を交わしたからだろうか。名前は胸がきゅうっと締め付けられる思いがした。侑と治と隣にいることが当たり前だった名前にとって、自分のせいで侑と距離を置くことになってしまったこの数日は思っていた以上に辛くて。
何をどう伝えれば良いのか分からない。けれども侑とこのまま気まずい状態でいるなんて嫌だ。そんな思いが溢れてきて、気付けば名前は涙目になっていた。


「侑のこと、幼馴染みって思えへんようになってもうたんやもん…どないしたらええか、自分でも分からへん…」
「は?」
「治のことは何とも思わへんのに、侑のことだけ意識するのおかしいやん…?治に相談しよったんやけど、2人で解決せぇって言うばっかで…」


もう包み隠さず思っていることを伝えることしかできない名前は、涙目のまま必死に言葉を紡ぐ。これにはさすがの侑も驚かざるを得ず、苛々していた気持ちはどこかへ吹っ飛んでしまった。
遠回しに告白とも取れる発言をされ、侑の口元は自然と緩む。なんや治に貸し作ってもーたなぁ。侑は名前にゆっくり近づくと、頭にポンと手を置いた。


「お前、アホやろ。どんだけ俺のこと好きやねん」
「な…!違う!そんなんやない!」
「俺のこと男として意識してんねやろ?可愛いとこあるやん」


侑はしたり顔で名前にずいっと顔を近付けて笑う。なんとも悔しいことに、名前はその行動に顔を赤くさせることしかできなかった。


「しゃーないなあ…名前がどーしても言うなら、彼女にしてやってもええで?」
「は?か、彼女とか…!ないわ!」
「ふーん?せやったら他に彼女作ってええんやな?」
「それ、は……嫌……かも、」
「フッフ…よぉ言えました」


撫でるというにはあまりに乱暴な手付きで名前の頭をわしゃわしゃと掻き乱した侑は上機嫌である。いまだに納得できない、という雰囲気で髪を整えている名前も、心の中では安堵と嬉しさでいっぱいだ。
そんな2人を物陰から見ていた治は、ほんま世話焼けるわ…と呟くと、1人、家路につくのだった。
青春ごっこ

優衣様より「治と仲の良いヒロインに侑がヤキモチを妬く」というリクエストでした。勝手に幼馴染み設定を追加してしまい申し訳ありません。私が今まで書いた宮侑よりピュアすぎるような気がするので違和感ありまくりかもしれませんがどうかご容赦ください…。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.04.25


BACK