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突然だけれど、岩泉君はとてもカッコいい。私は高校に入学してからというもの、密かにずっと岩泉君に想いを寄せている。同じバレー部でいつも岩泉君と一緒にいる及川君がイケメンでモテるのも分かるけれど、私は断然岩泉君の方が素敵だと思う。バレーをしている時の真剣な表情もさることながら、普段の学校生活のふとした瞬間に見せる少年っぽい笑顔や、難しい問題を解く時に見せる困り顔も、岩泉君の魅力を引き立てていると思うのだ。
嬉しいことに私は高校生活最後の年にして初めて岩泉君と同じクラスになることができた。接点はないし、話したこともほとんどないけれど、私は岩泉君の姿を見ていられるだけで幸せだ。
そんな私に転機が訪れたのは、3年生になって暫く経った6月のこと。岩泉君と及川君が話しているのをきいて6月10日が岩泉君の誕生日だということを知った私は、こっそり机の中に誕生日プレゼントを入れておいた。なんだかストーカーみたいで気持ち悪がられるかなとも思ったが、直接岩泉君に渡す勇気なんてない。
誰からだ?まあいっか、貰っとこう。そんな風に適当に流してもらえたら良いや。そう思っていたのに、岩泉君は机の中から私が忍ばせておいたプレゼントを取り出すなり、まだ傍にいた及川君に、なんだよこれ、と押し付けた。
岩泉君の3つほど隣の席で固唾を飲んで見守っていた私は、1人で動揺してしまう。どうやら及川君のイタズラサプライズだとでも思ったらしい。及川君は勿論、俺は知らないよ?と正直に返している。


「お前じゃなかったら誰だよ…こんなことすんの」
「岩ちゃん今日誕生日なんだから、誰かがこっそりくれたんじゃない?密かに応援してるファンの子とかさ」
「そんな物好きいねぇだろ」


ここにいます、と言いたい気持ちは山々だったが、私は勿論、素知らぬ顔を決め込む。結局岩泉君は、不思議そうに首を傾げながらも私のプレゼントをカバンの中にしまい込んで、その場は収束した。


◇ ◇ ◇



その日の放課後。私はいつものようにバレー部の見学に来ていた。今日は普段と違って岩泉君の周りにちらほらと女の子がいて、可愛らしいラッピングに包まれたプレゼントを渡している。岩泉君はどこか嬉しそうにそれらを受け取っていて、胸がチクチクと痛むのを感じた。


「岩泉君、これからも応援してるね!」
「バレー頑張ってね!」
「おう…」


私もあんな風に可愛らしく、プレゼントを渡す勇気があったら良かったのになあ。そんなことを思いながらぼんやりとその光景を眺めていると、なんと岩泉君と目が合ってしまった。偶然とは言え、ばっちり私のことを認識してしまったであろう岩泉君から逃げるように、私はその場を後にする。
別に逃げる必要なんかないし岩泉君からしてみれば、いたんだ、ぐらいのレベルだろうけれど、朝の一件もあって何となく気まずい気分になってしまった私は、あの場にとどまることができなかった。


「名字!」
「え、岩泉、くん?」


ききなれた声に名前を呼ばれまさかと思って立ち止まり振り返ると、そこにはやはり岩泉君がいて、私は身体を硬直させる。追いかけて来てくれた時点で驚きなのに、まともに話したこともない私の名前を覚えていてくれたことは更なる衝撃だった。同じクラスだからなんとなく覚えていてくれたのかもしれないけれど、私にとっては嬉しいことこの上ない。
それにしても、なぜ岩泉君は私なんかを追いかけて来てくれたのだろうか。戸惑う私をよそに、岩泉君は私の方に向かってゆっくり歩いてくる。どうしよう。さすがにここで逃げるのは不自然だよね?


「なんで逃げるんだよ…俺、何かしたか?」
「な、何も!」


緊張しすぎて声が上擦ってしまったけれど、岩泉君はそれを笑うでもツっこむわけでもなく、首の後ろをポリポリと掻きながら何を言おうかと考えているようだった。


「……及川目当てか?」
「え?」
「いつも見に来てんだろ」


今日は信じられないことが立て続けに起こる日だ。私がいつも見に来ていることなんて、岩泉君は知る由もないと思っていた。それなのに、まさか私の存在に気付いていたなんて。毎日来ていることは否定できないが、なぜ及川君?頭の中はパニック状態になっていて、うまく言葉が出てこない。


「呼んできてやろうか?」
「え、いや、待って、」


及川君を呼ばれたところで何も用事はないし困るだけなので慌てて止めると、岩泉君は不思議そうな顔をする。そんな、少し呆けたような顔もカッコいいから困りものだ。
引き止めたのだから何か言わなければと思うけれど、かつてないほど至近距離にずっと好きだった岩泉君がいると思うと口から心臓が飛び出てきそうで思うように声が出ない。頑張れ、私。


「どうした?」
「…あの、私、及川君見に来てるわけじゃないから…」


なんとか絞り出した声は少し震えていたような気もするけれど、岩泉君の耳にはきちんと届いたようで、目を丸くして驚いている。そして、私のお目当てが及川君でないことを知った岩泉君は、当たり前のように、じゃあなんで来てんだ?と尋ねてきた。
ここで、岩泉君を見るためです、なんて言ったら引かれてしまうだろうか。けれど、うまく誤魔化す言葉が思い浮かばない私はもごもごと本当のことを伝えるしかなかった。


「岩泉君を…応援、したくて…」
「は?俺?」
「……うん」


岩泉君がどんな表情をしているのか、俯いている私には見えない。見る勇気もない。けれど、ざり、と岩泉君が近付いてくる足音だけは聞こえたから、私はより一層体を強張らせる。
何を言われるんだろう。気持ち悪いって思われてるかな。ネガティブなことを考えながらひたすら自分の足元を見つめていた私だったけれど、その視界に岩泉君が現れて思わず顔を上げた。なんで覗き込んでくるんだ!


「なんでそんな顔してんだよ」
「岩泉君に嫌われちゃったかなって…思って…」
「自分のこと応援してくれるヤツを嫌うわけねぇだろ」


ニカッと歯を見せて照れたように笑う岩泉君は眩しくて。私はもう、このまま死んでしまうんじゃないかってほど心臓が暴れ回るのを感じていた。やっぱり岩泉君は誰よりもカッコいい。


「…実は2年の終わりぐらいから、名字がいるのは知ってた。すげー真剣にコート見て、他の及川の追っかけとは違うなーと思ったから」
「そうなの…?」
「さっき目が合った時、俺のこと応援してくれてんじゃねぇかってちょっと期待したから、そのー…なんだ、嬉しかった」


岩泉君の言葉はどれもこれも私には勿体なさすぎて俄かには信じがたい。けれど、岩泉君が嘘を吐くことはあり得ないと思うから、今言ってくれたことは全て事実なのだろう。だとしたら、私も言ってしまっていいだろうか。あの、プレゼントのことを。


「あの、岩泉君、誕生日…おめでとう」
「あ?ああ…知ってたのか」
「机の中にプレゼント入れたの、私、なんだ…ごめん…直接渡す勇気がなくて…」


岩泉君は数秒固まった後、なんだよ…、と小さく呟いた。その顔は今まで見たことのない表情で、私の勘違いでなければ照れているように見えた。もしかして、喜んでくれているのだろうか、と。私はほんの少し自惚れる。


「ありがとな」


たったそれだけの一言と、少しあどけなさが残る笑顔、そしてちょっぴり不器用にくしゃっと撫でられた頭に、私はフリーズした。部活があるからと、私を残して走り去って行った岩泉君が体育館に入ったことを確認してから、私はその場にへたり込む。
駄目だ。身体中が熱くてたまらない。息も苦しいし、岩泉君はズルすぎる。
ねぇ岩泉君。私、もう少し頑張ってみても良いかな。今度はちゃんと、伝えたい言葉を直接あなたに届けるから。どうかさっきみたいに、私の大好きな笑顔を見せてください。
いつかの未来で独り占め

めぐみ様より「岩泉で切甘」というリクエストでした。切ない要素がほぼない上、糖分も控えめで申し訳ありません。岩泉の不器用さが前面に押し出されてしまいました…。この後きっと幸せになるだろうなと妄想していただけたら嬉しいです笑。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.04.23


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