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俺には1ヶ月ほど前、彼女ができた。クラスは違うのだけれど同じ委員会で、ちょっと可愛いなと思って話しかけてみたら、その雰囲気とか穏やかな感じとかが俺の理想そのもので、気付いたら俺はその子のことを好きになっていた。
猛アタックなんてするタイプじゃないから、それとなく名前をきいて、委員会の度に話しかけては距離を縮め、数ヶ月かけて漸く告白まで漕ぎ着けた時には、その子…名前の方も俺のことを好きになってくれていて、晴れて俺達は恋人になったわけだ。
恐らく本人に自覚はないと思うが、名前は結構可愛い方だし柔らかい雰囲気が男心を擽るタイプで、それなりに男子から人気がある。俺は付き合い始めてからさり気なく周りの男子を牽制し続けているのだが、何しろ名前自身に危機感ってものがないので 俺は毎日ヒヤヒヤだ。
今日は月曜日。つまり部活がない。俺は昨日のうちから名前に、今日の放課後はデートにでも行こうと連絡をしていた。部活で疲れてない?私に気を遣わなくていいからね、なんて気配りができるのも名前の良いところではあるけれど、俺としてはもっと名前の方から会いたいと言ってもらいたかったりする。
放課後、俺は名前のクラスの前でSHRが終わるのを待っていた。数分後、ぞろぞろと生徒達が出てきたので名前も出てくるかなーと、何気なく教室内を覗くと、そこにはいつもより数倍増しで可愛い名前がいて一瞬たじろいだ。髪はくるくるふわふわ、ほんのり化粧までしていて、これは一体どうしたことかと謎の焦燥感に襲われる。
少し冷静になったところで、もしかして俺とのデートのために気合いを入れてくれたのだろうか、と思い至った俺は、自分のテンションが上がっていくのを感じた。が、それも束の間。1人の男子が名前に近付いたかと思うと、あろうことかくるくるの綺麗な髪を掬い取って、可愛いね、なんて声をかけているではないか。名前も名前で、ありがとう、とはにかみながら返しているものだから、俺は気が気じゃない。
恋の力ってやつなのか、俺と付き合い始めてから名前は益々可愛くなったと思う。しかしそう思っているのは俺だけではないようで、今目の前で繰り広げられていることが俺の知らないところでも行われているのかと思うと、信じられないぐらいモヤモヤしてしまった。そしてその感情は冷静な思考回路を奪う。


「名前、何してんの」
「一静君!待たせてごめんね」
「それはいいけど。早く行こ」
「あ、うん…じゃあまた明日ね。バイバイ」


名前は律儀にも先ほどのいけ好かない男子に愛想よく手を振ってから俺の隣に並ぶ。だから。そういうところが危機感なさすぎだって言ってんのに。俺は柄にもなく、相当イライラしていた。


「一静君、今日どこ行こっか?」
「…別に俺とじゃなくて良いんじゃない」
「え?」
「さっきのアイツ。名前に気がありそうだったし。ソイツと行けば?」


分かってる。こんなのただの八つ当たりだ。子ども染みてて馬鹿馬鹿しい。けれど、一度飛び出してしまった言葉は取り返しがつかなくて、名前は泣きそうな顔で俺を見つめている。


「どうしてそんなこと言うの…?私、今日すごく楽しみにしてて…だから、友達にお願いして髪とか化粧とか手伝ってもらったのに…」
「似合わない。それ」
「………そっか……」


どこまでも制御の利かない俺の口は、思ってもないことを言ってのける。その言葉をきいた名前は薄っすらと目に涙の膜を張って俯き、今日は帰ろっか…と呟いた。


「………うん」
「1人で舞い上がっちゃって、ごめんね」


名前は俯いたままそう言い残すと、走って俺の元を去って行った。名前の小さくなる後ろ姿を呆然と見送って、俺は漸く我に帰る。なんて最低なことを言ってしまったのだろう。何も悪いことをしていない名前に謝らせたりして、俺は一体何をしているのだろう。
自分は結構大人だと思っていた。恋は盲目なんてよく言うけれど、俺は常に冷静に恋愛していけるタイプだと自負していた。しかし、現状はどうだ。ちっとも大人じゃない。むしろガキだ。すぐに後を追って引き止めればいいものを、俺はこんなどうしようもなく醜い感情を名前に曝け出すのが怖くて、その場から動けなかった。


◇ ◇ ◇



あれから4日が経過し、今日は金曜日。謝らなければと思ってはいるものの、俺はなかなか一歩が踏み出せずにいた。ガキみたいに八つ当たりした俺を、名前はどう思っているだろう。幻滅しているんじゃないだろうか。そう思うと、情けないことに尻込みしてしまうのだ。そんな俺の様子を見て、部活に行こうと誘いに来た花巻は呆れたように苦笑する。


「まだ謝ってねーの?」
「んー…」
「もしかしてフラれたらどうしようとか考えてる?」
「…ちょっと」


花巻は冗談のつもりで言ったらしく俺の返答に驚いているが、そりゃそうだろう。それだけのことをやらかしてしまったという自覚はある。


「名字さんと話して来いよ」
「いや、でも部活…」
「俺が適当に遅れるって言っとく。今日何もしなかったら土日入って益々謝りにくくなるだろ」
「そりゃそうだけど…」
「フラれたら慰めてやるわ」


花巻にドンと背中を叩かれて、俺は立ち止まった。確かに、このままズルズル引きのばしても状況は悪化するばかりだろう。俺は花巻に、行ってくるわ、とだけ伝えると、来た道を引き返して名前のクラスを目指した。


◇ ◇ ◇



名前はクラスにおらず、もう帰ったと思う、と言われた。俺は急いで靴に履き替えると、名前の家までの道のりを走る。学校を出て数分走ったところで名前の後ろ姿を見つけた俺は、その手を漸く掴むことができた。


「え…え!?一静君…?部活は…?」
「ごめん、」


4日ぶりに名前の顔を見た俺は、それまで躊躇っていたことが嘘のようにするりと謝罪の言葉を口にしていた。走ったせいで少し息は弾んでいるけれど、もう少ししたら落ち着くだろう。名前は今の状況が飲み込めていないらしく、え?え?と、パニック状態に陥っている。


「月曜日、ひどいことした」
「……ううん。私が勝手に楽しみにしてただけだから。気合い入れすぎだったよね」
「違う。名前は何も悪くない」


あんなことをしたのに名前は俺を責めるどころか申し訳なさそうにしていて、罪悪感とともに愛おしさが込み上げてくる。俺は衝動に駆られるまま、掴んでいた名前の手を自分の方に引き寄せると、小さな身体を抱き締めた。


「名前がどんどん可愛くなるから変なヤツが寄り付きそうで不安だった。あの日、名前が知らないヤツに絡まれてるところ見て勝手に嫉妬してあんなこと言った…ごめん」
「そう、なんだ…、」
「ほんとは、すごい可愛いと思った」
「……ありがとう」


名前は控えめながらも俺の背中に手を回して、しがみつくみたいにぎゅっと力を入れてくれた。じわりじわりと伝わる体温が心地良い。
通学路だということも忘れて暫くそのまま抱き合っていた俺達だったが、先に我に帰ったのは名前の方で、急に慌てたように俺の腕の中から脱出すると、部活!と叫んだ。


「大丈夫。遅れるって伝言頼んでるし」
「でも、」
「来週はデートしよ」
「…うん」
「今週より気合い入れて可愛くして」
「ふふ…分かった」


名前は、ふわりと笑った。


◇ ◇ ◇



そうして迎えた月曜日。名前は約束通り、いつも以上に気合いを入れた姿で俺を待っていてくれた。くるくるふわふわの髪。控えめに施された化粧。やっぱり可愛いなー。
俺は名前の髪をくるりくるりと自分の指に巻き付けて遊んだ後、身体を屈めて耳元で囁いた。


「今度からは、可愛くなるなら俺の前だけにしてね?」
乞い焦がれる月曜日

ましゅー様より「付き合い始めてから可愛くなった彼女に他の男子が話しかけてきてモヤモヤイライラした松川が八つ当たり、喧嘩して仲直り」というリクエストでした。松川らしからぬ高校生男子っぽさが書けて個人的には楽しかったのですが、こんな感じで大丈夫だったでしょうか…?この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.04.20


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