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私の彼氏である宮侑は2年生にして男子バレー部のレギュラーメンバーで、全国ナンバーワンセッターと謳われている。それだけでもハイスペックなのに、彼女という贔屓目なしに見ても侑は整った容姿をしているため、ファンの女の子は非常に多い。その証拠に「侑」団扇を持った女の子達が客席で黄色い声援を送る光景はもうお決まりになっていて、アイドル顔負けだ(ついでに「治」団扇も多くてまるでアイドルユニットのコンサートのようにも見える)。侑は試合中に喧しい声援を送られるのを心底嫌っているから、応援団の人達の注意によって最近は落ち着いてきたように思うけれど、それでもウォーミングアップの時や休憩中は容赦なく声援が送られる。
そんなモテモテハイスペック男の彼女である私は、どこにでもいるごく普通の女子高生だ。1年生の時に侑と同じクラスだった私は、たまたま席が近くなった時に侑から話しかけられて、それ以来、よく会話をするようになった。侑と他愛ない話をするのは楽しいし、見た目もそりゃあ申し分ないから、私が侑のことを好きになるまでそれほど時間はかからなかったように思う。
しかし冒頭でも述べたように、侑は私なんかには不釣り合いなハイスペック男なので、この好きという気持ちはそっと胸に秘めておこう。そう思っていたのに、1年生の3学期、信じられないことに私は侑から告白をされた。侑からの告白は「俺のこと好きやんな?」という、告白というには威圧的すぎるものだったけれど、図星を突かれて頷くことしかできなかった私を見て満足そうに笑う侑は幸せそうだったから、たぶん侑も私のことをちゃんと好きでいてくれるんだろうなあと思ったのを覚えている。
さて、そんなわけで私と侑は晴れてお付き合いをすることになったわけなのだけれど、ファンの女の子達にそんなことは関係ない。バレーの時はピリピリしている侑だが、日常生活においては気さくでノリがいい。だから余計に女の子達は侑に惹かれてしまうようで、侑の傍には割と高確率で女の子がいる。付き合う前まではよく話をしていたのだけれど、なぜか付き合い始めてからは会話する機会がめっきり減ってしまい、今ではほとんど教室で話すことはない。
彼女は私なのになんで他の女の子達とばっかり…、なんて思ったのは最初だけ。2年生になった今となっては、仕方ないよなあ、と思うようになった。そして同時に、今更だけれどなぜ侑は私なんかを彼女にしているんだろう?本当に好きなんだろうか?と、疑問を抱いていたりもする。
今日も今日とて侑は貴重な昼休憩を女の子達に奪われていて、私はというと、その様子を遠くから眺めていた。何やら楽しそうに会話をしている侑を尻目に、私はお弁当をパクリと口に運ぶ。すると一緒にお弁当を食べていた友達が、突然箸を置いた。何事かと思ってそちらへ視線を向ければ、友達はなぜか怒りに満ちた表情を浮かべている。


「宮君のあの態度なんなの!彼女の名前のこと放ったらかして女の子達と楽しそうにしちゃって!告白してきたのは宮君の方なんでしょ?」
「仕方ないよ。元々あんな感じだし」
「でも…名前は嫉妬とかしないの?」
「うーん…もう慣れちゃったのかな。嫉妬してもどうしようもないから諦めたっていうか…」


その発言を聞いた友達は、私のことを哀れむような視線を送ってきた。侑の行動にいちいち嫉妬していたらキリがない。2人でいる時には優しくしてくれるし、それなりに恋人らしい雰囲気だと思うから、私はそれだけで十分満足だ。これ以上を求めたらバチが当たってしまう。
友達はそんな私の様子を見て、名前が良いなら良いけど…と、食事を再開した。私は再び、何気なく侑の方に視線を向ける。すると丁度そのタイミングで、侑が傍にいる女の子の頭をよしよしと撫でた。
え。なんで。
きっと侑にとって、その行為は特別なものなんかじゃないのだろう。けれども私にとっては、重要なことだった。だって、頭を撫でるなんて、そんなこと、私にしてくれたこと、ないじゃないか。
嫉妬なんかしてもどうしようもないと言っていた数分、否、数十秒前の私はどこへやら。心臓がぎゅうっと握り潰されるようなドス黒いものがムクムクと湧き上がってきて、醜い感情で埋め尽くされる。
女の子達と楽しそうに話していたって良い。私のことをそんなに気に留めてくれなくたって構わない。けれど、仮にも彼女である私にしてくれないことを他の女の子にするのは、何となく嫌だった。


「ちょっと私、トイレ行ってくる…」
「え?さっき行ってなかったっけ?」


なんとなく侑を視界に入れたくなくて、私は上手い嘘も吐けないまま席を立つと、怪訝そうに表情を歪める友達を置いて足早に教室を後にした。恐らくトイレじゃないことはバレているだろうけれど、後で適当に取り繕っておこう。
本当にトイレに行きたいわけではなかった私は、1人で時間を潰せるところを求めてふらりと屋上へ続く階段の踊り場に向かった。屋上は鍵がかかっていて行くことができないため、その手前の薄暗い踊り場は滅多なことがない限り誰も立ち寄らない。私は埃っぽい階段に腰をおろして顔を足に埋めるような形で蹲る。
こんなこと、これからだって沢山あるに違いないのに、その度にこんな風に落ち込んだりモヤモヤしていたら身がもたない。ちゃんと分かってるはずだったのになあ…。


「どないしたん?」
「…え、」


頭上で聞き慣れた声がして、まさかと思って顔を上げると、そこにはわたしが今最も会いたくない人物がどこか不敵な笑みを浮かべながら立っていた。つい先ほどまで女の子達に囲まれていたくせに、いつの間にここまで来たのだろう。そもそも、なぜ私がここにいるということがバレてしまったのかも分からない。
私が呆然と整った顔を見上げたまま固まっていると、侑はその場にしゃがんでこちらに視線を向けてきた。侑は階段の段差分低い位置にいるはずなのに、座っている私とちょうど同じぐらいの目線になる。普段は見上げることしかできない侑の顔が目の前にあって、私は妙な緊張感を覚えた。


「なんかあったん?」
「……侑には、関係ない」
「なんや怒ってるやん。珍し」
「今は1人になりたいの…どっか行って」


思ったよりもキツい言い方になってしまったことに罪悪感を感じつつも、実際そう思っているのだから訂正はしない。こんな醜い感情、侑には知られたくないから。落ち着くまでは放っておいてほしい。そう思う私の気持ちなどまるで無視して、侑はその場を動かず私の方をじっと見つめたままだ。


「俺に言えへんこと?」
「………そう」
「ふぅーん……彼氏の俺に隠し事…傷付くわぁ…」
「何が彼氏よ。本当は誰でも良いくせに」


私は勢い任せに、普段なら絶対に言わないことを言ってしまった。それは全て、胸の内で燻る嫉妬というくだらない感情によるものであって、決して本心からそう思っているわけではない。慌てて取り繕おうと口を開きかけた私は、侑の射抜くような眼差しに気付いて息を飲んだ。ヤバい。これは相当、怒ってる。


「誰でもエエなんて、俺、言うた?」
「いや、言ってない…けど…、」
「けど?何なん?言うてみ?」
「……侑はモテるし、私じゃなくても良いんじゃないかなって…思って………」


この際だからと前々から感じていた不安を吐き出すと、侑は綺麗な顔を歪ませて、何を思ったか、私の唇に荒々しく口付けたまま覆い被さってきた。私の身体は必然的に冷たい床に倒されてしまい、顔の横には侑の大きな手があって身動きが取れない。


「侑…っ、ここ、学校…、」
「関係あらへん。俺がどんだけ名前のこと好きか思い知らせたるわ」
「ちょ、待って…侑、話、きいて…!」


いくら人が来ないところとは言え、ここは学校だ。首筋に顔を埋められて一瞬失いかけた理性を手繰り寄せて、私は侑の頭をぐいぐいと押し退ける。
すると侑は、意外にもすんなりと身体を離してくれて、話って何?と尋ねてきた。どうやら話は聞いてくれるらしい。私は呆れられるのを承知の上で、先ほど見た光景のことをぽつりぽつりと話した。


「…だから、なんていうか……私にはしてくれないのに、他の女の子にはそういうことできちゃうんだから、私じゃなくても良いのかなって…思ったんだもん…」
「……名前はアホやなあ」
「どうせアホですよ」


やっぱり、呆れられた。自分が幼稚すぎて恥ずかしくなった私は、ふいっと顔を逸らす。すると侑は私を床に押し倒したままフッフと笑ってから、頭を撫でてくれた。


「こんなこと、いくらでもやったるのに」
「子どもみたいって思ってるんでしょ」
「名前が嫉妬してくれたん、初めてやろ?嬉しいわぁ」
「……そうなの?」
「普通あんだけ彼氏が女の子に囲まれとったら嫌がるやん?名前、なんも言わへんねんもん。俺のこと、そこまで好きやないんかと思ってヘコんどったのに」


本気なのか冗談なのか分からないトーンでそんなことを言われて、私は逸らしていた顔を元に戻すとおそるおそる侑へと視線を向けた。いまだに私の頭をゆるゆると撫でている侑は、告白をしてくれた時と同じように、少し幸せそうに見える。
もしかして、私が思っている以上に侑は私のことを好きだと思ってくれているのかもしれない、なんて。そんな風に自惚れてしまうほど、その表情は柔らかかった。


「あ、の、我儘、言ってもいい…?」
「ん?エエよ」
「たまには付き合う前みたいに、教室でも侑と話したい」
「…そんなん、我儘って言わへんけど」


そう言ってフッフと笑った侑は、ちゅ、と私の額に口付けを落とすと、漸く私の上から退いてくれた。私がゆっくり身体を起こすと、侑は待ってましたとばかりに正面から抱き竦めてくるものだから心臓に悪い。


「今日、部活終わるまで待っとってくれへん?」
「え?なんで?」
「そういう気分やから」


な?ええやろ?と抱き締めながら耳元で囁かれて断れるわけもなく。私は侑の胸の中で小さく首を縦に振った。嫉妬なんてするだけ無駄だと思っていたけれど、こんな風に甘やかしてもらえるならたまには良いかも、なんて思ってしまったことは、侑には内緒にしておこう。
私の燻んだ心は、侑の体温によってじんわりと絆されていくのだった。
曇り空に太陽をどうぞ

葉月ゆい様より「普段は妬かないけどささいな瞬間に妬いちゃう彼女にベタ惚れな宮侑」というリクエストでした。思った以上に甘い展開になってしまいましたが大丈夫でしょうか…?そして宮侑が似非すぎてごめんなさい。優しめな宮侑難しいです…。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.04.20


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