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卒業旅行に行こう!そう言い出したのは徹だった。部活を引退して早数ヶ月。私達には卒業が差し迫っていて、確かに周りの友達の中には、その手の話をしている人も少なくない。けれども、徹の提案はあまりにも突然すぎた。
とある日の昼休憩、思い立ったように卒業旅行を提案してきた徹は、高校生のうちに某夢の国に行きたいと、まるで女子高生みたいなワガママを言い出したのだ。これには私を含む残りの3人も開いた口が塞がらない。


「いつ行くんだよ」
「3月!」
「大学の準備で忙しそうだけどな」
「1日や2日遊んだって大丈夫だよ!」
「まあ俺は良いけど」
「さすがマッキー!」


難色を示す岩泉と松川だったけれど、花巻は少し乗り気みたい。あまりの唐突さに驚きはしたけれど、私もどちらかというと賛成かもしれない。夢の国に行くというのは魅力的だし、何より、このメンバーで馬鹿なことができるのも最後かもしれないと思うと感慨深いものがあるからだ。


「みんなで行きたいな」


ぼそり。私が呟いた言葉に、いち早く反応したのは徹で。じゃあ行こ!と満面の笑みを向けられた。


◇ ◇ ◇



3月某日。暖かくはなってきたけれど、まだ少し肌寒い風が吹き付ける中、私といつもの4人は夢の国にやって来ていた。宮城に住んでいたら一生見ることのないだろう人の多さに最初は少し圧倒されてしまったけれど、その独特の雰囲気に心が躍る。


「岩ちゃん似合ってるよ」
「うるせぇ…」
「ここでしかこういうことできないんだから良いじゃん。みんな付けてるんだしさ」
「写真撮っとこ」
「俺らだいぶ浮かれてるな」


5人揃ってキャラクターもののカチューシャや帽子を身に付けているので、松川の言う通り、確かに私達は浮かれた集団だと思われるだろうけれど、この場所では皆そんなもんだから気にはならない。スマホ片手に良い写真を撮ろうと奮闘している花巻は、非常に楽しそうだ。
岩泉はその性格的にまだ吹っ切れていないのか少し恥ずかしそうではあるけれど、なんだかんだで身に付けたものを取り払わないあたり、楽しんでいたりするのかもしれない。松川もいつもより表情が柔らかく見えるし、こうして旅行に来たのはなんだかんだで正解だったんだろうなあとしみじみ思う。それもこれも、突然の提案を持ち出してきた我らが主将の我儘から始まったというのが、少し引っかかるところではあるけれど。


「みんな絶叫系大丈夫だっけ?」
「あー、私パス。4人で行ってきなよ」
「名字はノリノリで行くタイプだと思ってた」
「実は苦手なんだよね…」
「じゃあさ、ここからは別行動にしない?」
「別行動?」


徹の提案に、私と残りの3人が首を傾げる。別行動って。4人は絶叫系大丈夫なんだから私に気を遣ってそんな提案をせずとも、待っているというのに。私が、良いから行ってきなよ、と言っても、徹は別行動の提案を譲らない。


「俺、名前と2人で回りたいんだもん」
「まあそんなことだろうと思ったけど」
「好きにしろよ」
「2人で楽しんできてくださーい」


またしても徹の我儘が通り、お昼ご飯までは別行動を取ることが決定したようなので、3人は私と徹を取り残して園内の奥の方へと消えてしまった。2人で回りたい。徹がそう言ったのは、私が一応彼女という特別なポジションの人間だからだろう。5人全員で楽しみたい気持ちと徹と2人で回りたい気持ち。どちらも半分ずつあって、私は欲張りだなあと思う。
3人が見えなくなってからするりと絡められた指は、私の手を上手に包み込む。こうして手が繋がれたということは、恋人モードに突入したということだろう。試しにちらりと頭上の徹へと視線を向けてみると、それを待ってましたと言わんばかりに私を見下ろす大きな瞳とばっちり目が合ってしまった。私の行動は全て徹にお見通しらしい。


「どこ行こっか」
「3人と行ってくれても良かったのに」
「いいの。俺が名前と2人で思い出つくりたかっただけだから。我儘言ってごめんね?」


徹は私を懐柔するのが得意だ。たとえ私のために別行動を提案してくれていたとしても、これではもう追及できない。徹の、ごめんね?は、いつも卑怯なのだ。
お前が好きなキャラクターどれだっけ?なんて尋ねながらマップを広げる徹に、自分の好きなキャラクターを伝える。じゃあ、ココ行こう。そう言って指差したのはキャラクターと写真が撮れるというスペース。徹は別にキャラクターとの写真なんてそれほど興味がないはずなのに、私が喜びそうなところをきちんと選んでくれる。デキた彼氏様だ。断る理由もないし迷っている方が時間の無駄になっているような気がした私は、いいね、と笑みを浮かべた。


◇ ◇ ◇



「可愛い〜!」
「ちょっと、くっつきすぎじゃない?」
「だって可愛いんだもん」


大好きなキャラクターを目の前にしてテンションが上がった私は、思わずそのキャラクターに抱き着いた。高校生にもなって、着ぐるみを着た人間に抱き着くなんて…と思うかもしれないが、ここは夢の国。このキャラクターは断じて着ぐるみを着た人間などではない。
そんなハイテンションな私に不機嫌そうな表情を見せる徹は、どうやら私がキャラクターとベタベタしているのが気に食わないらしい。キャラクターとともに写真を撮ってもらう時はお得意の営業用スマイルを浮かべていたので、出来上がりの写真の中の徹はとても楽しそうだけれど、現実は少々不貞腐れている。


「俺には抱き着いてくれないくせに…」
「だって徹は徹だし」
「さっきとのテンションの差!ひどっ!」


現実に引き戻された私は、泣き真似をする徹を軽くスルーして次にどこに行こうかとマップを広げる。結局、私が行きたいというところに付き合ってくれた徹。徹は行きたいところないの?と尋ねても、お前が行きたいところで良いよ、と言うのだから仕方がない。そうして、アトラクションの待ち時間を含めてあっと言う間にお昼時になり、私と徹は待ち合わせ場所に戻って来ていた。まだ3人の姿はない。


「お昼ご飯、何食べよっか」
「こういうところって高いもんねぇ…」
「お前、そういうところ現実的だよね」


だって私達はまだ高校生。お財布事情ってものがあるじゃないか。本日大活躍のマップを再び広げて何があるのかと見ていると、3人がやって来た。どうやら楽しめたらしく、3人はご機嫌な様子である。待ち時間があったのでそこまで沢山乗れなかったにしろ、松川のリサーチのおかげでそこそこスムーズに回ることができたらしい。さすが松川。こういうところでも抜け目ない。
少し久し振りに5人が揃ったところで、園内ではわりとリーズナブルなレストランに行くことが決定し、そちらの方面へぞろぞろと向かう。ただ歩いているだけでも園内の賑やかさや、時々現れるキャラクター達のおかげで十分楽しむことができる。


「で?2人での時間は楽しめましたか?」
「うん!」
「名前はね…」
「及川、ご機嫌ナナメじゃん」


松川と花巻のツッコミに何があったのか説明すると、なるほど、と岩泉までもが呆れたように納得していた。だって。行こうかって言ってくれたのはそっちじゃないか。


「名字、及川がイジイジしてんのどうにかして」
「えぇ…そんなこと言われても…」
「飯がまずくなる」


岩泉まで私に丸投げしてくるなんてひどい、と思ったけれど、もとはと言えば徹をこんな状態にさせたのは私だったことを思い出し、仕方がないなあと徹に近付く。3人の前では公認。普段の学校生活の中では決してしたことがなかったけれど、徹はこれで確実に機嫌を直してくれる。


「はい、徹。いい子だから機嫌直して」
「今日はこれだけじゃ騙されませーん」


自分より大きな徹に身を屈めるよう促し、頭を撫でる。これでいつもなら、仕方ないなあ、とだらしなく笑うくせに、今日はどうも様子が違う。これ以上、一体私にどうしろというのだ。


「はい」
「え?」
「俺にもぎゅーってしてくれたら機嫌直してあげる」


なんでそこまでして徹の機嫌を直さなければならないのか。そう思うけれど、3人は、もう好きにしてくれと言わんばかりに素知らぬ顔をしているので、これはもうお望み通りに行動するしかないのだろう。どうせ私達のことなど誰も見ていないだろうと、徹にぎゅっと抱き着いて、すぐに離れようとした。けれど、徹にホールドされてしまっては逃げることができない。


「徹、もういいでしょ…っ、」
「んー…だめ」
「先行ってるから」
「え、ちょっと、待って…!」
「ごゆっくりどうぞー」
「遅かったら先に飯食ってるからな」


逃げられない私と、逃がさない徹。ああもう、お腹すいたし、誰も見ていないとしても恥ずかしいからそろそろやめてほしいんだけど。出かかった抗議の言葉は、一段とキツく抱き締められたことによって飲み込まざるを得なかった。ここは夢の国。いつもとは違う甘ったるい雰囲気でも、見逃してくれるよね?
思い出は夢の中

にいな様より「青城3年組でディズニーに行くお話」というリクエストでした。登場人物が増えると誰がどのセリフを言っているのか分かりづらくて申し訳ありません…。青城3年とディズニー!絶対楽しい!行きたい!と思いながら書きました笑。誰が何のグッズを身に着けているかはご想像にお任せします笑。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.11.29


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