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及川や岩泉のような男同士の幼馴染と、俺と名前のような男女の幼馴染は何が違うのか。決定的な差は、そこに恋愛感情が芽生えるかどうかだと思う。男同士でもそういう特別な感情が芽生えることはあるかもしれないが、まあそれは例外とさせてもらって。つまり何が言いたいかというと、俺は幼馴染である名前に特別な感情を抱いてしまっているということなのだ。
初めて会ったのは小学生の頃だった。俺の自宅の近所に名前達の家族が引っ越してきて、それからはずっと一緒。同い年だから、妹として…という風に見たことは1度もない。小学生の頃は、近所に住んでいるただの仲の良い友達。中学生になると男女の友情ってのはどうも格好の餌食にされるらしく、付き合っているのかと冷やかされ、自然と距離を置くようになった。俺としては冷やかしなど気にならなかったのだけれど、名前の方は随分と気にしていたのを覚えている。
そうして俺達はそのまま中学校を卒業。てっきり俺と別の高校に進学するものとばかり思っていたのに、1年生の時、入学早々登校した教室に名前の姿を発見した時はさすがに驚いたけれど、そのおかげで中学生の頃に開いてしまった距離が自然と埋まっていったのだから、有難い運命の悪戯と言えよう。


「一静君、高校でもバレーやるの?」
「うん」
「じゃあ私、マネージャーやろうかなあ…」
「なんで?」
「それは…一静君が頑張ってるところ、今度はちゃんと近くで見たいなって思ったから…」


及川目当てのマネージャーはいらない、ということで基本的に女子マネは採用しない方針だったのだけれど、俺からの推薦ということで名前は男子バレー部のマネージャーになった。頑張っているところを近くで見たい、なんて言われて嬉しくない男がいるだろうか。顔にこそ出しはしなかったけれど、俺は内心、だいぶ浮かれていた。だからわざわざ推薦までして名前にマネージャーをやってもらうことにしたのだ。
いつから俺は名前のことを特別視するようになったのだろう。中学生の時、避けられるようになって初めて、名前がいないことの虚無感を知った。高校生になってまた以前のような距離感に戻りつつあって心底ほっとした。曖昧な感情の変化ではあったけれど、俺はじわじわと名前に浸食されていたのかもしれない。
高校3年生になった今、名前は当たり前のように男子バレー部のマネージャーとして傍にいる。それは嬉しい。けれども、2年生の後半辺りから、急に花巻との距離が縮まったような気がすることだけは気がかりだった。なぜ気持ちを自覚した時点からアプローチを始めなかったのか。自分の気持ちを名前に伝えなかったのか。俺は高を括っていたのだ。名前は俺のためにマネージャーを志望した。だから、俺以外の男を選ぶはずがない、と。その考えが、今となっては悔やまれる。


「名前ちゃん、来週の月曜日暇?」
「特に予定はないよ」
「じゃあ俺とデートしよ」
「デート?」


聞きたくもない会話を聞いてしまった。花巻が冗談めかして言った、デート、という単語に、俺はちくりと心臓に針を立てられた気分である。その針で空いた小さな穴から少しずつ血が滲み出して、やがて俺の心臓は止まってしまうのだろう。そんな妄想を繰り広げるほど、俺は現実逃避をしていた。
俺と名前が幼馴染であることはバレー部全員が知っている。けれども、俺が名前に想いを寄せていることは俺しか知らない。勝手に自分以外の男のところに行くはずがないと悠長に構えていた俺が悪いのは分かっているけれど、俺の頑張りを見たいから、などと期待を持たせるようなことを言った名前にも少しは責任があるんじゃないか、なんて思ってしまう俺は、どこまで最低なんだ。


「2人でデート行くんだ?」
「まだ返事はしてないよ」
「いいじゃん。花巻、いいヤツだし」
「一静君は、行った方が良いと思う?」


その日の部活の帰り道、本当は行ってほしくないくせに強がりを言った俺に、名前は切なげに尋ねてきた。そんな顔するなよ。勘違いするだろ。そもそも、そんなことを俺に確認してどうするつもりなんだ。俺が行くなと行ったら行かないのか。幼馴染に、そんな権限はないだろう。


「名前が好きなようにしたらいいんじゃない?」
「…そう、だね」


俯いた名前がどんな表情を浮かべていたのか。覗き込む勇気はなかった。それからの俺達は家に着くまでお互い無言で。名前とこんなに居心地の悪い時間を過ごしたのは、初めてのことだった。


◇ ◇ ◇



むかえた月曜日。俺は意味もなく下駄箱でスマホをいじっていた。花巻と名前はまだ現れていない。今からデートに行く幼馴染と友人を、俺は一体どんな気持ちで見送れば良いのだろう。
自分の中で色々と考えた結果、名前が花巻のことを好きで、花巻も名前のことを好きだと思っていて、2人が(というか主に名前が)幸せなら、それで良いではないかと無理矢理思い込むことにした。それ以外に自分の気持ちを収拾する術が見つからない。
本当なら2人の仲睦まじい姿なんて見たくはないけれど、どんな様子なのか気になってしまうのも仕方のないことで。近付いてきた話し声と足音に、待っていた人物達が漸く現れたことを悟る。


「本当にごめんなさい」
「良いって。なんとなく分かってたし」
「…花巻君は良いヤツだって、一静君が言ってたの。本当だね」
「へー。松川ってそんなこと言うんだ」


何の話をしているんだ、と不思議に思ったところで、先に現れた花巻と目が合う。その直後に名前とも目が合って、進みかけていた足が止まる。見開かれた瞳は、驚きを表していた。


「なーんだ。待ってるじゃん、ちゃんと。良かったね、名前ちゃん」
「え、あの、花巻君、待って」
「邪魔者は退散しまーす」


あとは頼んだ。
花巻は俺にそれだけ言い残すと、ヒラヒラと手を振って1人で歩いて行ってしまった。どういうことだ、なんてパニックになるほど、俺の頭の回転は悪くない。
俺を見ないように必死に視線を逸らしている名前の頬にほんのり赤みがさしているのは、つまり、そういうことだと判断させてもらっても良いのだろうか。


「花巻とデート、行かないんだ?」
「断ったの」
「どうして?」
「…一静君は頭が良いから、もう分かってるんじゃない?」
「さぁ…どうかな」


ちらほらと下駄箱にやって来る生徒が、俺達をチラチラと見遣る。周りの視線なんて、俺は昔から気にならない。名前との噂なら、何の苦にもならないから。名前はまだ気にするだろうか。俺と噂になることを。
名前に近付いて、さらりと髪の毛を掬う。昔に比べて伸びた髪は、より一層女の子らしさを感じさせる。


「一静君、見られてる…」
「嫌なら逃げれば?」
「…意地悪」


逃げないよ。そう言って、そのまま俺のされるがままになっている名前の頬は、先ほどよりも更に赤く染まっていた。


「俺とデートする気ある?」
「…もちろん」
「じゃあ行こうか」


靴に履き替えて、自然な流れで手を攫う。お互いに好きだとも、付き合おうとも言っていないけれど。俺達の関係が、ただの幼馴染から別の何かに変わったことは確か。
明日、花巻には礼を言わなきゃいけないな。シュークリームでも買ってやればいいか。今から名前と買いに行こう。少しぶらぶらしてから、いつもと同じ帰り道を歩こう。これからもずっと、こうして、2人で。
過去も未来もいただきます

舞華様より「幼馴染マネヒロイン、両片想い、切甘」というリクエストでした。高校生松川が大切な幼馴染を想いすぎるがあまり花巻にさえも嫉妬してしまうのって可愛いかなと思って書かせていただきました。松川のことだから明確な告白はきっとこの後してくれると思うんですよね笑。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.11.28


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