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青葉城西高校は比較的大きな高校だ。だから生徒の数もそれなりに多く、毎年クラス替えを行う度に、クラスの中には初めましての人もちらほら存在する。そんな中、3年間同じクラスの人もいたりするのだけれど、よく考えたら3年間ずっと同じって結構すごい確率じゃないだろうか。大袈裟に言えば運命じゃないか、なんて。相手が松川君だから、私はきっとこんなメルヘンな考え方をしてしまうのだ。
私は松川君に密かな恋心を抱いている。それも1年生の時から。よくもまあブレずに、余所見もせずに、松川君だけを想い続けることができるなと自分でも感心してしまうぐらいには一途な想い。
最初は普通のクラスメイトの1人だった。普通の男子に比べたら背が高いなと思うぐらい。それが、急に気になる人へと昇格したのは、一緒に日直をした1年生の秋だったと思う。
バレー部は強豪と謳われているから一刻も早く練習に行きたいはずだろうに、松川君は私を焦らせるでも、日直の仕事を放り出して部活に行くでもなく、一緒に最後まで残ってくれていた。それだけでも好感度が上がったのだけれど、私がキュンとしたのは日誌を書いている時だ。
日直の名前を書かねばならず、自分の名前は自分で書こうということになり松川君がさらさらと記載していくのを見て思わず出た言葉。


「松川君って意外と字綺麗なんだね」
「意外って。ちょっと失礼じゃない?」
「ごめん、なんかこう…もっと豪快な字を書きそうなイメージがあったからつい…」
「…名字さんって面白いね」


そう言って、ふっと笑った顔があんまりにも優しくて。松川君って凄く優しい人なんじゃないかなと思ったのだ。きっと、きっかけはその笑顔。けれども振り返ってみれば、松川君はその日1日をかけてじわじわと、私の心を侵食していたのだと思う。
クラス全員分の提出物であるノートを持って行こうとした時にさりげなく多めにもってくれたり、授業の合間の短い休憩中に黒板を消していると私が届きにくい上の方をさっと消してくれたり。たとえ私が日直のペアじゃなかったとしても、松川君は同じようにさりげなく気遣いをしただろう。それが分かっていても尚、私はその日、松川君の全てに惹かれてしまったのだ。
しかし残念ながら、私と松川君は3年間同じクラスであり続けているにもかかわらず、ほとんど接点がなかった。一緒に日直をしたのもその時が最初で最後。クラスではことごとく席が離れてしまうし、委員会でもその他の行事でも、松川君と関わる機会は訪れず。消極的すぎる自分を恨んだところで、この片想いはどうにも進展しそうになかった。
そうか、私はこのまま片想いを引き摺りながら卒業するのか。それならばいっそ、松川君への気持ちは少しずつ断ち切った方が、傷が浅くて済むのではないか。そう思い始めた矢先、なんという運命のイタズラか、私は再び松川君と日直をすることになったのである。もしも神様が存在するならば、こんな意地悪をしなくても良いじゃないか、と抗議したい。


「名字さん、提出物ってもう集まった?」
「うん。今から持って行くよ」
「俺が全部持って行くから、名字さんは日誌書いてて。放課後、残んなきゃいけなくなるから」
「…そうだよね、松川君、部活で忙しいもんね」


1年生の時とは違う。松川君は今やバレー部のレギュラーとして活躍していて、全国制覇を目指しているらしい。あの時のように、放課後ゆっくり残って私がマイペースに日誌を書き進めていくところを見る暇なんて、ないに決まっている。最初から自分だけが浮かれていたと分かっていても、松川君との感じ方の違いを見せつけられると切なくなってしまう。
私の呟きはどうやら松川君の耳に届いていなかったようで、何?と聞き返されたけれど、私は、なんでもないよ!と取り繕った。重たいはずのクラス全員分のノートをひょいっと抱えた松川君は、そのまま職員室に行ってしまって。結局、放課後まで、私と松川君が交わしたまともな会話はそれだけだった。
皆が部活や帰宅に急ぐ中、私は自分の席で日誌を広げる。コツコツ書いていただけあって、今日の出来事、というところ以外は概ね書き終えている。ああ、そうだ。あと、日直の名前。松川君の名前、勝手に書いちゃっていいかな…いいよね?
私は日直の名前を書く欄に自分の名前をサラサラと書いて、もうひとつの欄に、松川一静、と書こうとした。けれど、持っていたペンを取られてしまったことにより、その行動は中断せざるを得なかった。


「そこは自分で書くよ」
「松川、君…」


私の手から奪ったペンで自分の名前を書いた松川君は、はい、とペンを返してきた。てっきり部活に行ったとばかり思っていたのに、まだ残っていたということに驚く。相変わらず綺麗な字の羅列。1年生の時を嫌でも思い出してしまう。


「松川君、部活行っていいよ」
「それが書き終わったら行くから」
「え!いいよ。ほんとに。私ちゃんと書くし…」
「1年生の時と同じように、待ってる」


松川君の口から飛び出した、1年生の時、というキーワード。あの時のことを覚えていたのは、もしかして私だけじゃなかったのだろうか。ひとりでにざわめき出す胸。
松川君は私の座る机の目の前にしゃがみ込んで顔を覗き込んでくる。そしてそのまま私に傾けられたのは、忘れられるはずもない、私が一目惚れしてしまった、あの笑顔だった。私の心臓が、忙しなく暴れ出す。


「もう忘れちゃったか」
「忘れてない…ずっと、覚えてる」
「よく覚えてたね」
「松川君こそ」
「…なんで覚えてるんだと思う?」


そんなこときかれても分かるはずがない。けれど、期待はしてしまう。良い意味で記憶に残っているんじゃないかって。たとえば、私と同じように。


「ごめん、ずるいこと聞いた」
「…どういうこと?」
「俺、あの日に名字さんのこと良いなあって思い始めたんだよね」
「え!?」
「そんなに驚く?」


放課後、日誌書いてる時。名字さんの笑顔を初めて見てやられちゃったんだよね。
松川君は少し照れたようにそう言った。私と同じ時、同じタイミングで、同じようなことを考えていたなんて。これこそ運命と呼ぶのではないだろうか。
驚きと嬉しさのあまり、あわあわと声が出せずに狼狽えるだけの私に、松川君はまた笑う。その笑顔は反則だよ。私もその笑顔にやられちゃったんだもん。


「ねぇ、その反応は期待してもいいってこと?」
「…うん、」


いつのまにか私達以外は誰もいなくなった教室内。私の心音がきこえてしまうんじゃないかというほど静かで、それがまた、ドキドキを上乗せする。
勇気を振り絞って頷いた私。松川君の顔は、もう見れない。俯いて机の端を見つめることしかできない私に、松川君は、ペン貸して、と言ってきた。おずおずとペンを貸すと、松川君は日誌の唯一空いているスペース、今日の出来事の欄に何やら書き始める。


「日誌、宜しく」
「え、あ、うん…」
「じゃあまたね、名前ちゃん」


ペンを机の上に置いて私の頭を撫でる。それだけの動作を流れるようにしてあっという間に教室を出て行ってしまった松川君。名前を呼ばれたことも、頭を撫でられたことも、私をフリーズさせるには十分すぎたのに。日誌に目を落とした私は、更にトドメをさされた。


“片想いが実りました。”


今日の出来事って。こんなの個人的すぎるからダメだよ、松川君。綺麗な文字を指でなぞって、こっそりスマホで写真を撮る。名残惜しいけれど、この「今日の出来事」は私達だけの思い出にしようね。
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あやね様より「高校3年間同じクラスの松川とヒロインで両片想い、好きになったきっかけが同じタイミング、ハッピーエンド」というリクエストでした。ありがちなお話になってしまったかもしれませんが、松川って最後にズルいところあると思うんですよね。本当は教室を出た瞬間に、はぁーってしゃがみこんでほっとしていたらいいなと勝手に考えました笑。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.11.26


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