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青城男子バレー部のマネージャー。そのポジションはうちの高校に通う女子生徒なら大体が憧れる。残念ながら純粋なバレー好きが多いというわけではない。イケメン揃いの部員達を間近で応援できるというのが魅力らしいのだけれど、そう思っている女子達に、是非とも今の私のポジションを譲ってあげたい。


「ドリンクの味、薄いね」
「名字ちゃん、またサボったでしょ」
「えー?そんなことないけどなぁ?」


松川に指摘され及川に呆れられるのにはもう慣れた。だって分量とか適当だもん。何回作っても慣れないのだから仕方がない。元々大雑把だし。むしろ、飲み物があるだけでも有難いと思ってほしいところだ。
仕事が雑だとか適当すぎるとかサボってるとか、私は散々言われたい放題だし、この適当なスタイルを今更改める気はない。ていうか、マネージャーやれば?って誘ってきたのはそっちじゃないか。元凶となったピンク頭の男をじろりと睨みつけると、その男はタオルで汗を拭きながらニヤリと笑った。


「どうしたの名前ちゃん?そんなに俺のこと見つめちゃって」
「見つめてるんじゃなくて睨んでるの」
「付き合ってるとしてもさぁ、部活中にそんな熱烈な視線送られたら周りから嫉妬されちゃう」
「ねぇ、私の話きいてた?」


このド派手なピンク頭の男は脳内がお花畑なのだろうか。こんなヤツが彼氏なのだから、私は男を見る目がないのかもしれない。いや、でも、なんだかんだいって好きだけど。
私にバレー部のマネージャーをやらないかと提案してきたのは貴大だ。付き合い始めた頃は、なるほど、貴大はそんなに私と一緒にいたいのかと思い、できることがあるなら貴大のために頑張ろうと決心してその提案を易々と飲んだわけだ。
けれども蓋を開けてみればどうだろう。マネージャーというものをやったことがないだけでなく、バレーの知識も体育の授業で習ったこと以外は分からないし(授業で習ったことすらも断片的にしか覚えていないけれど)、そんなてんてこ舞いの私に、主に3年生のレギュラー陣は容赦なく色々なことを頼んでくるし、平日だけならまだしも今までまったり過ごしていた休日は奪われるし、正直、こんなはずじゃなかった。
何度もやめようと思ったし、貴大にやめるべきではないかと相談もしたのだけれど、なんで?マネージャーやだ?と尋ねられると、嫌だとはっきり答えることはできなくて。結局ずるずるとマネージャーを続けている現状。当初の目的であった、貴大のために役に立つ、という目標が達成できているのか。甚だ疑問である。


「私、やっぱりマネージャーやめようかなあ」
「それ前もきいたけど。マジなの?」
「わりとマジで相談したんだけど」
「受験あるからか?」
「いや…それは関係ないよ」


貴大の驚いた顔と、岩泉の至極真面目な顔が向けられて、それぞれに返答する。岩泉の言う、受験、というのが理由なら、私はとうの昔にやめていると思う。しかし生憎、私はそんなに賢くないし受験なんてどうにかなるかとお気楽に考えているので、その理由は当て嵌まらない。
それならば理由は何だと4人の目が集まったところで、休憩時間は終了となった。なんとなく気まずい空気が漂っていただけに、このタイミングでの練習再開は有難い。
そうしていつも通りに練習をして、自主練も片付けも着替えも終えて、いつもと同じように皆で帰ろうと部室棟の前で待っていた私のところに、貴大だけがやって来た。珍しい。いつもなら4人揃ってぞろぞろ来るのに。


「他の3人は?」
「後で来ると思うけど、それより」
「え、何、」
「マネージャーやめんの?」


真剣な貴大の顔を見るのは、試合中を除くとこれで2回目。1回目は、告白された時。私はこの表情を前にすると、どうにも上手く言葉が発せなくなってしまうらしい。真面目な雰囲気というのは苦手なのだ。


「あいつらも気にしてた。名前マジでやめんのかって。なんかあった?」
「そんな…大それたことじゃないし…」
「名前に色々任せすぎてるのは分かってる。けど、なんだかんだで頼ってんの。だから俺らが引退するまでは、やめないでほしい」


普段の彼らからは私に頼っている雰囲気なんてちっとも感じとれなかった。貴大がこうして必死にマネージャーを続けてほしいと言ってくるのも、驚きでしかない。私、こんな感じだけど、少しは必要とされてるのかも。そう思ったら、自然と笑いが溢れてしまった。


「貴大の真面目な顔、変なの」
「は?俺はいつでも真面目ですぅ〜」
「はい嘘」
「つーか、話。逸らすなよ」
「…やめないよ。最後まで、みんなの面倒見てあげる」


バレーに興味があるわけではない。貴大と付き合ってはいるけれど、皆がいる前でそんなにベタベタしたいわけでもない。でも、ね。きっと私、忙しくても文句言ってばかりでも適当でも、それなりにマネージャーの仕事を楽しいと思ってると思うんだ。ただちょっと不安だっただけ。私は必要なのかなって。ここにいていいのかなって。


「面倒見てあげてるのはコッチだけどね〜」
「いや、及川は違う」
「名字、最後までよろしくな」


いつから私と貴大のやり取りを聞いていたのか、大きな影が3つ現れる。盗み聞きとは趣味が悪い。でも、皆の表情がいつもより柔らかいような気がして。なんとなくむず痒くなった。
誰からともなく歩き出して、ぞろぞろと帰路につく。引退まであとどれぐらいなんだろう。あと何回、こうして皆で帰ることができるんだろう。しんみりとしたことを考えそうになった頭を軽く振って、お腹すいた〜!と言ってみれば、ラーメン行く?と、お決まりの提案をされた。


「行くー!」
「名前、女子力って言葉知ってる?」
「ねぇ、自分の彼女にそういうこと言うのひどくない?」
「花巻たまに名字のこと惚気てくるよ」
「アイツ可愛いとこあるって言ってたもんな」
「そうそう!名字ちゃん、愛されてるねぇ〜」
「お前ら黙れ!」


貴大が相当恥ずかしそうに狼狽えているけれど、それを聞いている私は更に恥ずかしい。なんだ急に。こんな風にいじられることはほとんどなかったのに。私がマネージャーやめようかなって言って心配させてしまったことへの腹いせか。
今が夜で良かった。きっと普段より赤くなっているであろう顔も、バレずに済む。なーんだ!貴大ってそんなに私のこと好きだったんだー!なんて笑い飛ばして、さぁラーメンラーメン!と話をすり替えようとした私の計画はあえなく失敗に終わった。


「名字ちゃんの顔、赤くなーい?」
「え、マジ?」
「わー!こっち見ないで!」
「俺を盾にすんな!」
「なんで岩泉の後ろに隠れんだよ!そこは彼氏の俺の後ろだろ普通!」
「照れてる名字ちゃんレアだから写メっとこ」
「ちょ、やめてよ!」
「あ。及川、それあとでちょーだい」
「花巻は及川に頼まなくてもそういうところいつでも写メれるんじゃないの?」
「おい!俺を写してどうすんだ!クソ川!」
「岩ちゃんが退けてよ!」


静かなはずの夜道に、ぎゃあぎゃあと騒がしい声が響き渡る。こんな馬鹿なことをやっていられるのも、あと数ヶ月。だから前言撤回。マネージャーというこのポジションは、やっぱり最後まで誰にも譲れないや。
ざわめきが居場所になる頃

にとり様より「青城メンバーなら誰でもお相手お任せ、他の青城メンバーとわちゃわちゃする」というリクエストでした。あまり書いていない気がする花巻を中心に書いてみましたが、青城3年生夢という感じになりましたね…後輩達も登場させようかと思ったのですが会話文の収拾がつかなくなりそうなので断念しました。複数のキャラが登場するお話はあまり書かないので楽しかったです!この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.11.24


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