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私はバレーが好きだ。テレビを見ていて、あんな風にスパイクやブロックを決めることができたら気持ちいいだろうなと、憧れから始まったその気持ちを糧に、私は小学生の時にスポーツ少年団のバレー部に入った。元々、私は球技というものがそこまで得意ではなかったのだけれど、練習すればきっと上手くなると信じて厳しい練習に耐えていた日々。しかしその日々は身を結ばなかった。
レギュラーに選ばれることはないまま中学生になり、中学でもバレー部で頑張ってはみたけれど結果は同じ。高校に入学して、私がバレー部に入ることはなかった。好きという気持ちだけではやっていけないと、漸く分かったのだ。
それでも諦めの悪い私は、バレー部のマネージャーになろうと決めた。のに、青城のバレー部は男女ともにマネージャーを募集していないと言われて落胆した1年生の春。けれども、私は今、男子バレー部のマネージャーをしている。


「名前、いつもありがとう」
「ううん。お疲れ様」


私がマネージャーになれたのは、全て一静のおかげだ。いつものようにタオルを渡しながら、私はこうしてマネージャーをさせてもらえていることに改めて感謝した。
そもそもバレー部がなぜマネージャーを募集していなかったのかというと、マネージャー志望の女子の多くが及川君目当てだから、という理由らしい。私がバレー部のマネージャーになったのは、一静と付き合い始めてからのこと。今までの経緯を一静に話すと、名前ならマネージャーになってもいいと思うけど、と言われ、トントン拍子にマネージャーになることができた。
一静の彼女なら及川君目当てでないことは明白だし、元バレー部だからどのように動けば良いのか分かるから特別に教えなければならないこともないし、ということらしい。何はともあれ、私に再びバレーに触れ合う機会をくれた一静には、本当に感謝している。


「今日は練習早めに切り上げなくちゃ」
「え?なんで?」
「明日に備えて清掃業者の人がワックスがけに入るんだって…たぶん及川君も知ってると思うけど」


明日の朝、学校の何か(詳しいことは忘れてしまったけれど教育委員会の視察?)があるらしく、今日は体育館に清掃作業が入ると言われた。そのため、練習はいつもより早めに切り上げなければならない。一静が及川君に確認してくれたところ、どうやら及川君はそのことをすっかり忘れていたらしく、岩泉君に伝達しろと怒られていた。
というわけで、早めに部活を切り上げた部員達は部室棟に着替えに向かう。私は少し片付けをしてから体育館を出ようと体育館倉庫へと足を運んだ。乱雑に押し込まれたスコアボードやボール、ビブスを少しでも綺麗にしまっておこうと整理をし始めた私は、いつの間にか片付けに夢中になっていて、時間が経つのを忘れてしまっていた。


「何してんの1人で」
「え?あ、一静。ごめん…整理し始めたらつい全部綺麗にしたくなっちゃって…」
「清掃業者の人、もう来るよ」
「うそ。じゃあ着替えて帰る準備しなくちゃ…」


ジャージのまま薄暗い体育館倉庫で作業していて、どれぐらいの時間が経ったか分からない。制服に着替えた一静が迎えに来てくれなかったら、私はまだまだ整理作業に没頭していただろう。一静の一言に慌てて倉庫を出ようとしたのも束の間、入り口に立っていた一静が倉庫内に私を押し込んで扉を閉めるものだから、ただでさえ暗い倉庫内は更に光を失った。これは一体どういう状況だ。私は着替えてないし荷物も全部女子更衣室に置きっぱなしだから帰り支度もできていないというのに。
ちょっと、と目の前に迫る一静の胸板を押してみたものの、その大きな身体は私の力ごときではぴくりとも動かない。すぐ後ろにはボールの入ったカゴがあって身動きが取れないし、一静の考えていることがさっぱり分からない。


「最近2人きりになったことないなと思って」
「確かにそうかもしれないけど、今ここで2人きりになってどうするの…」
「どうしたい?」


するりと腰に回された腕と耳元でわざとらしく囁く低い声に、背中がぞくぞくした。一静は見た目もそうだけれど、その雰囲気も、高校生なのかと疑ってしまうほど大人びている。私が一静を好きになったきっかけは勿論というべきかバレーのプレーを見てからなのだけれど、付き合い始めてからはバレー以外の部分で随分と絆されているような気がする。現在進行形で。けれども、今はここで雰囲気に流されている場合ではない。


「着替えて、帰りたい」
「…そっか。じゃあ着替えておいで」


ここまで追い込んでおいてすんなりと離れた一静は、意外にも簡単に私を解放してくれた。そのおかげで清掃業者の人が来る直前に着替えを済ませて帰路につくことができて一安心ではあったのだけれど、一静の様子がいつもと少し違うことが気になる。話しかけても、そっか、うん、へぇ、など、なんとなく気のない相槌ばかりだし、何より、いつもさりげなく繋がれる手が、今日は宙ぶらりんなのだ。


「一静?怒ってる?」
「なんで?俺が怒るようなことしたの?」
「したつもりはないけど…今日、なんか…素っ気ないかなって…」
「素っ気ないのは名前の方だと思うけど」


その一言に、私は首を傾げる。素っ気ない?私が?思い返してみて思い当たる節があるとすれば先ほどの体育館倉庫での出来事ぐらいだけれど、そこまで素っ気ない態度を取ったつもりはないし、そもそも一静はあれぐらいのことでどうこう言うタイプではないと思う。私が何も言わずに考え込んでいることが分かったのか、一静は、ふぅ、と小さく息を吐いた。察しの悪い私に呆れているのだろうか。


「練習前、及川と。体育館倉庫で何してたの」
「え?及川君?……あー…棚の1番上にあるビブス、取れなかったから取ってもらった…けど、」
「それだけ?」
「うん。…え、一静、もしかして、」


言われなければ忘れていた、本当に僅かな時間の出来事。練習前の体育館倉庫で、私は及川君とほんの少しだけ2人きりだった。けれども、ビブスを取ってもらって、ありがとう、どういたしまして、と会話を交わしたぐらいで、気にされるようなことではない。しかし今の一静の反応と、先ほどわざわざ体育館倉庫に押し込められた事実を組み合わせると、もしかしたら一静にしては珍しく、


「やきもち、妬いたとか…?」


思い至ったのはその可能性だけだ。半信半疑で尋ねてみれば、一静は、はぁぁぁ、と大きな溜息を吐いて。ごめん、忘れて。そう言って大きな手で顔を覆った。つまりは図星ということなのだろう。


「実は名前をマネージャーにしたの、ちょっと後悔してる」
「え。もしかして迷惑かけてる?仕事できてない?」
「今の話の流れで分からないあたり、心配すぎるんだよね」
「…ごめん」
「いや…俺に余裕なさすぎるだけか」


自分の彼女だと分かっていても、たとえ短い時間であっても、他の男と一緒に2人きりでいられたら心配になる。それが友達である及川や岩泉、花巻であっても、後輩の奴らであっても。それぐらい名前のこと、結構マジだよ。
一静はほんの少し照れた様子を見せてそう言った。付き合い始めて2年以上が経っているにもかかわらず初めて言われたことばかりで、私はどう反応したら良いのか分からない。けれども、時間が経つとともに、戸惑う気持ちよりも嬉しさの方が上回り始めて、私の顔は次第にだらしなく緩んでいく。


「一静、私のことそんなに好きだったんだ」
「ちょっとのことで嫉妬するぐらいには」
「ふふ…嬉しい」
「ところで、今日は部活早く終わったからまだ時間あるよね?」
「え?うん…?」
「俺、最近だいぶ名前不足なんだけど」


付き合ってくれる?
疑問形で投げかけられたけれど、私に選択肢は与えられていない。イエスかイエスでお答えください。一静の笑顔が、そう言っている。そんなに追い詰められなくたって、私がノーという返事をすることなんて有り得ないのにね。


「私も、一静不足、かも」
「言うようになったね」
「そう?」
「じゃあ俺んち行くよ」


私はバレーが好きだ。一静も私と同じようにバレーが好きなんだと思う。バレーと私、どっちが好き?なんてきくような馬鹿な真似はしないし、そこはバレーだよって答えられても全然構わない。けれども私は随分重たい女になってしまったようで、バレーと一静どっちが好き?ってきかれたら、迷わず一静だよって答えられちゃうほどには一静のことが好きになってしまったらしい。
漸くいつものように繋がれた手は、私の弾む心を更に軽くさせた。
おもいおもい、ふわふわ

ピー様より「松川夢でマネージャーをしている彼女」というリクエストでした。マネージャー設定で色々なお話を書きすぎて新鮮みのある展開が思い浮かばなかったのですが、結局のところ松川は最終的にいつもヒロインの心を鷲掴みにしていくんですよね。私の中でそういうイメージなんです笑。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.11.19


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