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※夜久視点


俺と名字は1年生の時に同じクラスになり、3年生になった今、また同じクラスになった。何があったのかはよく知らないけれど、俺の知らない間に名字はあまり学校に来なくなっていたらしい。3年生になってから暫くするまで再会を果たすことはなかったのだけれど、久し振りに見た名字は1年生の時よりも少し大人っぽくなっているぐらいで、そんなに雰囲気が変わったとは思わなかった。
そんな名字と、うちのバレー部主将である黒尾が、最近急接近している。…ような気がする。同じクラスなのだからそれなりに会話はするだろうけれど、気付けばあの2人はじゃれ合うような関係にまで発展していて、一体何があったんだと不思議に思った俺は、ある日の部室で黒尾にきいてみることにした。


「黒尾、名字とすげぇ仲良くね?」
「あー?そう見える?」
「そう見えるもなにも…他の女子とあんなに話さねぇじゃん」


無自覚なのか、自覚していてあえてしらばっくれているのか。黒尾はそういう感情が読み取りやすそうでいて読み取りにくい。とにかく、面倒臭いやつなのだ。


「名字がなんで学校来るようになったか知ってる?」
「そんなのきいた事ねぇし…」
「リエーフを見てみたかったんだとよ」
「は?」


黒尾の話によると、(本当かどうかは分からないが)名字はイジメられて、とか、心の病で、とか、そういった深刻な理由ではなく、ただちょっと勉強が面倒臭くなって卒業できるギリギリの日数だけ登校すればいいや、という、なんともふわっとした理由で学校に来ていなかったらしい。そして、そんな名字が学校に来ようと思ったきっかけが、新入生にハーフがいるらしいという噂をききつけ、本物のハーフを見てみたい、というもの。なるほど、リエーフがらみとなると、バレー部主将の黒尾と名字が関わる理由もなんとなく理解できる。


「で?リエーフを見た感想は?」
「背高い。銀髪って地毛?ハーフってあんな感じなんだー」
「……それだけ?」
「それだけ」


なんだそりゃ。ていうか、いつの間にリエーフを見に来ていたんだろう。学校に来なくなった理由といい、また来るようになったきっかけといい、名字は掴めない。何を考えているのかよく分からなくて、そういうところはもしかしたら黒尾に似ているかもしれない、なんて思って。その日の部活はいつも通りに終了した。


◇ ◇ ◇



「ちょっと、髪ぐちゃぐちゃになっちゃうじゃん」
「元々ぼっさぼさだろ、おチビちゃん」
「ひっどい!私がチビなんじゃなくて黒尾が無駄にデカいだけでしょ!」
「無駄じゃありませーん。バレーで役に立ってますぅ」


そこそこ仲が良いなとは思っていた。が、思っていた以上に距離感が近い2人の関係に、俺は呆れている。なんだ、この感じは。喧嘩友達、よりももっと親密そうな気がする。3年生になってまだ数ヶ月。よくもまあここまでの関係に発展したなと感心すらしてしまう。背の高い黒尾が名字の頭をわしゃわしゃと撫でていることも、その後のやり取りも、何も知らないやつが見たら付き合ってるのか?と勘違いしてしまいそうなほどだ。


「お前ら、何やってんの…」
「あ、夜久!私、チビじゃないよね?」
「夜っ久んにきいたらそりゃあ誰でも大体チビじゃないっしょ」


なんとも失礼なやつである。こういうところは1年生の時から変わらない。とことん馬が合わない黒尾とは絶対に仲良くなれないと思っていたけれど、3年生になった今では、喧嘩はすれども信頼できる仲間として認められる程度になっているのだから、人生とはどうなるか分からない。とは言え、今の発言はいただけないので、思いっきり足を踏んづけておいた。大袈裟に痛がっているが気にしない。


「名字は小柄な方だと思うけど女子ってそんなもんじゃねぇの?」
「だよね?黒尾が巨人なだけだよね?」
「巨人は言い過ぎだろ。リエーフはもっとでけぇんだぞ」
「だってリエーフはハーフだもん」
「なんだそりゃ」


名字のわけのわからない理屈を交えた発言に、黒尾は笑った。その笑みがあまりにも柔らかくて俺は内心非常に驚いていたけれど、なんとか平静を装う。こいつ、こんな風に笑うのか。胡散臭い笑みや爆笑しているところは見たことがあるけれど、今のように慈しむような笑い方をしている姿を見たのは初めてだ。その瞬間、俺は悟ってしまった。黒尾は名字に特別な感情を抱いているのだということを。
それからの2人はというと、相変わらずの関係だった。基本的に黒尾の方が仕掛けていくのだけれど、それに応じる名字も名字で、挨拶を交わしたと思ったらすぐに言い合いをしているものだから、最初は仲裁に入っていた俺も、もう好きにしてくれと、途中からは放置するようになった。きっと黒尾の方はそのやり取りを楽しんでいる。だから、俺が入るのは野暮ってものだろうとも思ったのだ。


「夜久〜黒尾がさあ…」
「なんだよ…今日はどうした?」


しかし俺がそんな気遣いをしているにもかかわらず、名字はよく俺のところにやって来ては黒尾の愚痴を言う。これをある種の惚気と取るべきか、心の底から飛び出した本音として受け取るべきか、俺はいつも迷っている。
名字は1年生の時から知っている俺のことを慕っているのか知らないが、わりとよく話す方だ。まあ黒尾のことで何か言いたいのであれば同じ部活の俺に言うのが手っ取り早いというのはあるのだろうけれど。


「名字は黒尾と仲良いよな」
「違うよ。あっちが勝手に絡んでくるから相手してあげてるの」
「だーれが相手してあげてるって?ん?」
「出た、黒尾」


どこからともなくふらりと現れた黒尾が、ナチュラルに名字の頬を抓る。そうして、いつも通り始まった口喧嘩の応酬。別に2人でやるのは構わないが俺を挟んでやり取りするのは正直勘弁してほしい。黒尾も、もっと大人になって上手にアプローチすればいいものを、小学生みたいな、好きな子には意地悪する、という古びた手法を使っているからややこしくなるんだと思う。
黒尾の気持ちはなんとなく、というかほぼ確実に分かったとして、名字は果たして黒尾のことをどう思っているのだろう。暫く学校に来ていなかった名字が、リエーフを見たいがために学校に来るようになった。それはまあいい。けれども、リエーフがどんな人物か分かった今、当初の目的は達成されたわけで、つまり、名字の持論(卒業できるギリギリの日数だけ登校すればいいという考え)通りにいけば、学校に休まず登校し続ける意味はない。さすがに受験も控えているから心を入れ替えたのかもしれないけれど、俺はなんとなく、黒尾とのやり取りを楽しみにしているから学校に来ている、という説もあるのではないかと考えていた。もしそうなら、名字は少なからず黒尾に好意を抱いていることになるわけだけれど、確証は何ひとつない。


「ほんと…お前らって面倒だな」
「何?夜久なにか言った?」
「何も」


ぐりぐりと名字の頭を乱暴に撫でる黒尾と、嫌がりながらも満更でもなさそうな名字。きっと黒尾は図りかねているのだろう。名字が自分のことをどう思っているのか。胸の中で持て余している感情をぶつけるべきか、今の関係を続ける方が良いのか。臆病だなと揶揄ってやりたい気持ちも少しあるけれど、もし自分だったら黒尾と同じことをしているかもしれないと思うと、下手に笑うことはできなかった。


「夜っ久ん、今日の部活、名字が見に来るってよ」
「へぇ、なんで?」
「…リエーフ、上手くなったかなと思って」
「ふーん…別にいいんじゃない?」


嬉しそうな黒尾と、少しドギマギしている名字。リエーフを見に来るって、それ、たぶん嘘だろ。全部が嘘じゃないにしても、半分は嘘に違いない。リエーフを理由に、本当は誰を見に来るつもりだよ。
たぶんだけど。確証はないけれど。お前ら、そろそろ次のステップに行ってもいいと思うよ。そんなことを言えるわけもなく、俺は今日も明日も明後日も、2人の馬鹿みたいな痴話喧嘩に巻き込まれるハメになるのだ。
エンドロールはまだ遠い

白雪様より「夜久視点、小柄クラスメイトヒロインに黒尾が一目惚れしたものの喧嘩友達という関係、曖昧な終わり方で」というリクエストでした。リクエスト内容は随分と省略してしまいましたが、具体的な内容を考えてくださったにもかかわらずきちんと全て内容を集約できていないかもしれません…すみません。曖昧な終わり方ということでしたが、今後の結末が見えてきそうな終わり方になってしまいましたね…苦情は甘んじて受け入れます笑。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.11.18


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