×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

意気揚々と友達に彼氏ができたと報告して、あのチャラい人?大丈夫?と、随分失礼な反応をされたのは、もう結構前の話になる。そもそも、なぜ友達が年上の彼氏である秀のことをチャラい人として認識しているのかと言うと、私と付き合い始めるより前に私達の学年で可愛いと評判の女の子に、連絡先交換しない?と、初対面にもかかわらず声をかけているところを目撃したからだ。綺麗な子や可愛い子には積極的に声をかけているらしい、という噂もちらほらあって、その時は、女好きなのか、ぐらいのことしか思わなかったけれど。
何の縁があってか、私は秀と同じ委員会だった。図書委員は定期的に図書室の貸し出し当番をペアでしなければならない。同じ学年でペアを組むのかと思いきや、違う学年でペアを組めというわけのわからないお達しがあり、くじ引きをした結果、私は秀とペアを組むことになったのだ。
放課後のたった15分程度ではあるのだけれど、部活で忙しい秀にとってその15分はとても貴重らしく、最初は図書室でそわそわと落ち着かない様子だったけれど、何回か当番をしていくうちに自然と会話ができるようになっていて、チャラいとか女好きとか、そういうイメージは徐々に薄れていった。
そうして、何度目かの放課後。私は秀に告白された。自分で言うのも悲しいけれど、私の見た目はよく言っても中の中ぐらいだと思う。だから、特別可愛いわけでも綺麗というわけでもない。ごくごく普通の、一般平均通りの女だ。秀は確か、見た目が煌びやかな子がタイプではなかったか。そう思って返事を躊躇っていた私に、秀は言ってくれた。俺にはお前が一番可愛く見えるようになったんだよって。
付き合い始めて、早3ヶ月が経過した。秀は相変わらず部活で忙しく、ほとんど会うことができない。けれども毎週月曜日は部活が休みということで、秀はその貴重な休みを私のために費やしてくれている。今日はその楽しみな月曜日。だんだんデートで行く場所もお決まりになってきているので、そろそろどこか新しいところに行ってみたいなあと、近くの穴場デートスポットをスマホで検索してみる。放課後の教室、秀はいつも私を迎えに来てくれるので、待っている間は暇なのだ。


「名前、おまたせ」
「ううん。いつも迎えに来てくれてありがとう」


まだ目ぼしいデートスポットが見つかっていない段階で、秀は私の前に現れた。教室内には私以外にも生徒が残っているけれど、秀はそんなことを気にすることなく私の席までやって来てくれる。最初こそクラスメイト達には冷やかされたりしたけれど、これが毎週ともなれば、またか、ぐらいの認識になってくるのだろう。今や秀が現れても、クラスメイト達は見向きもしない。


「何見てたの?」
「ん?これ?近くの穴場デートスポットを検索してたの」
「へぇ。で?行きたいところあった?」
「なーい。今日どうしよっかあ…」


役に立たないスマホはポケットにしまって、秀とともに教室を出る。ウィンドウショッピングもゲームセンターもクレープ屋さんもファミレスも、そう何回も楽しめるものではない。そして何より、高校生である私達にはそれほどお金がないのだ。だから、公園で夕陽を眺めながら話していただけのこともあったし、正直なところ、秀と一緒ならどこでも良いという気持ちもある。
靴を履き替えながら、なにか良い案はないかと思考を巡らせていると、先に履き替えた秀がやってきて、なあ、と声をかけられた。何?と首を傾げてみれば、秀はなぜか少し緊張した面持ちで目を逸らす。


「今日、うち来る?」
「え?秀の家?行ってもいいの?」
「うん。俺はいいけど」
「じゃあ秀のおうちでまったりデート決定だね〜」


秀はなんとなく複雑そうな顔をして、けれどもすぐに、行こうか、と私の手を自分のそれと絡めて歩き出した。手を繋いで歩くことにももう慣れたけれど、最初は緊張して手汗がひどかったよなあ、なんて思い出しながら、歩きなれない道を進む。秀の家は私の家とそこまで離れていないらしい。デートの後で私を家まで送り届けてくれる秀は私の家の場所を知っているけれど、私は秀の家を知らない。初めての訪問ということに今更緊張してきた私をよそに、家までの距離はどんどん縮まっていく。
ここだよ、と言われて辿り着いた家はとても立派で、身分違いの恋愛をしている気分に駆られた。これでは余計に緊張してしまう。


「ただいま」
「お邪魔しまーす…」


秀の後ろに続いて家に入ると、玄関にお母さんらしき女性が現れた。私のことを見るなり目を丸くさせて一瞬固まったけれど、すぐに笑顔を携えて、いらっしゃい、と言われた私は、ほっと胸をなでおろす。どうやら第一印象はそこまで悪くなさそうだ。
お母さんにぺこりと頭を下げて、先を行く秀の後を追う。秀の普段生活している空間に自分が足を踏み入れられるというのは特別な感じがあって嬉しい。シンプルで物が少ない室内には、秀の匂いが溢れていて少しドキドキしてしまう。こんなことを思っている私は変態なのかもしれない。


「ジュース飲む?」
「うん。ありがとう」


一旦部屋から出て行った秀を認めて、私はキョロキョロと室内を見渡す。本当に綺麗に片付いている。もしかして、今日は最初から秀の家に誘う予定だったとか?だから昨日のうちに掃除してたりして?自分の部屋を頭の中で思い出して、明らかに秀の部屋の方が綺麗であることにショックを受けつつ、そんな仮定を立ててみる。


「はい、ジュース」
「ありがとう」
「何か気になるものでもあった?」
「え?いや、部屋すごく綺麗だなーと思って…」
「あー…そう?」


ジュースを一口飲んで、秀はまた目を逸らした。今日はこれで2回目だ。これはもしかして、私の仮説が当たっているのではないだろうか。


「もしかして秀、今日もともと家に呼んでくれるつもりだった?」
「え!なんで!」
「なんとなく。だから綺麗なのかなーって」
「…まあ…ちょっとは考えてた。そろそろ良いかなって」


ずい、と。私と秀の距離が縮まる。キスされるというのが雰囲気で分かって目を瞑れば、唇に柔らかい感触があってすぐに離れた。至近距離にある秀の顔はほんのり赤く染まっていて、恐らく私はそれ以上に顔を赤らめているんだろうなあと思う。秀の部屋で2人きり。台所にはお母さんがいるわけだけれど、今、この空間には2人しかいない。どくどく。心臓の音がやけに煩い。
そっと頬に秀の大きな手が添えられて、また鼓動がはやくなる。こつんとぶつかった額と額。少し視線を上げれば秀と目が合って、どちらからともなく笑みが零れた。こんなにどろどろに甘い空気は、今まで感じたことがないかもしれない。


「俺、だんだん名前のこと好きになっていく気がするわ」
「最初はそこまで好きじゃなかったの?」
「そういう意味じゃなくて」
「ふふっ…分かってるよ」


チャラそうだし浮気されてない?大丈夫?と心配してくれていた友達よ。どうやらそんなことを心配する必要はなさそうです。付き合い始めてまだ3ヶ月。これから先、どうなるかなんてわかりはしないけれど。今、この時は、間違いなく秀のことを世界一好きだって思えるから。秀も同じことを思ってくれていたらいいなあ。
手を絡めて、再び重なる唇。どうかこれから先もずっと、こうして秀と幸せを共有できますように。唇が重なった分だけ、室内の空気がピンク色に染まっていくのを感じながら、私はただ目を閉じて秀のことだけを感じていた。
底なし沼に沈みましょう

はじめ様より「年下だけどタメ口のヒロイン、ラブラブなお話」というリクエストでした。矢巾を書くのは初挑戦だったので、そもそもこんな口調なのかこんなキャラクターで合っているのかと迷走しまくり…結果、迷走したまま終わりました…ラブラブなお話というのがこのような感じでよかったのかも疑問ですが、甘いお話を書くことができて個人的にはとても楽しかったです!この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.11.8


BACK