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「#エロ」のBL小説を読む
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※社会人設定


自分が結婚して、家庭を持つとは思わなかった。そして、その奥さんになる人が特殊な職業に就いているなんて、更に想定外だけれど。なんだかんだで、結婚生活は順風満帆だと思う。
俺の奥さんである名前は小説家だ。しかも普通の小説家じゃなくて官能小説家。そもそも小説が書けるって時点ですごいと思うのだけれど、官能小説となると更に難しそうな気がするから、俺はただただ尊敬しかしていない。官能小説家で売れっ子というのはおかしな言い方かもしれないけれど、俺がバレーコーチとして働いていることもあって生活が苦しいなんてことはないし、きっとそこそこ売れているのだろう。仕事のことはあまり口出ししないようにしているから、正直よく分からない。
最初は戸惑うこともあったけれど結婚して2年も経てば、まあそれなりに順応してくるもので。元々、少し驚きはしたけれど奥さんの仕事に反対していたわけではなかったから、今の生活に不満はない。俺も好きなことを好きなようにさせてもらっているし、有難いことだ。


「コーヒー飲む?」
「ああ…ありがとう。いつもごめんね」
「いや、良いけど。今日、外で高校ん時の奴らと飯だって言ったよね?」
「うん。覚えてるよ。いってらっしゃい」


名前は基本的に穏やかで、怒ったところなんて見たことがない。感情がほとんど上下しないというか、まあそれは俺も同じだから似た者夫婦ってやつなのかもしれないのだけれど。ちなみに、名前が官能小説家だからと言って夜のあれやこれやが特殊なのかというと、そういうことはなく。今のところ俺達は普通のセックスを楽しんでいる。俺主体で。
俺の淹れたコーヒーを美味しそうに啜りながらも難しい顔をしている名前は、どうやら執筆モードに入ったらしいので、俺は邪魔をしないようにそっと部屋を出た。今日は久々にアイツらと飲むことになったので、身支度を整えて家を出る。社会人になってからはなかなか仕事の予定が合わず会う機会も減ってしまったけれど、それでもこうしてたまに集まるのだから、高校時代にバレーで苦楽を共にしてきた仲間というのは自分の中で特別なんだなあと思う。
指定された店に着くと、そこには既にツンツン頭の見慣れた姿があって、おう、と声をかけられた。残りの2人は待ち合わせ時間にルーズなタイプだからなかなか来ないかもなあと思っていたのだけれど、どうやら社会人になって時間厳守という言葉を覚えたらしく、きちんと時間通りに現れた。少し感心してしまったのは、馬鹿にしているのかと怒られそうなので言わないでおこう。


「久し振りだね〜何ヶ月ぶりだっけ?」
「3ヶ月ぐらい?」
「岩泉、メニュー取って」
「ん。揚げ出し豆腐は頼めよ」


久し振りだろうがなんだろうが、4人の間に流れる空気は変わらない。それぞれ違う道を選んで、違う人生を歩んではいるけれど、こういう何とも言えない落ち着いた空気が俺は好きだ。
ビール4つと揚げ出し豆腐、その他にいくつかの料理を注文して、近況を報告し合う。と言っても、大抵は及川の失恋話だったり(高校の時からそうだったけれど、及川はどうしてイケメンでモテるはずなのにこうも上手くいかないのだろうか)、各々の仕事の愚痴だったりと、ほとんどテーマは決まっている。俺は基本的に聞き役に徹しているので、話を振られない限りは相槌を打っているだけだ。
いつものように、及川の可哀そうな失恋話を酒の肴にしながら笑っていると、ふと思い出したかのように及川にじとりと睨まれて首を傾げた。なるほど、珍しく俺に絡んでくるほど、今日の及川は腹の虫の居所が悪いらしい。


「いつも聞きそびれちゃうけどさあ!まっつんは結婚生活どうなの?幸せ?」
「まあね」
「へぇ…奥さんと仲良くしてんの?」
「それなりに?」


これは面白い話題だと食い付いてきた花巻の質問に曖昧な返事をして、運ばれてきた揚げ出し豆腐をいただく。岩泉は話に興味がないのか、目の前の料理を貪ることに集中している。こういうところ変わらないよなあ、と思わず口元が緩んだ。そんな俺にまだ絡んできた酔っ払いは、今更だけどなんで結婚したの?とか、奥さんの仕事どうなの?とか、根掘り葉掘りきこうとしてくるものだから非常にウザい。
まあ別に減るもんじゃないし、何を言ったってこちらがダメージを受けることはないのだけれど。及川は、俺の結婚生活の話なんか聞いて何が面白いのだろうか。


「奥さん、小説家?だったよね?まっつんが家のことやってんの?」
「んー、まあ分担してるし時間ある方がやるって感じ。ずっと執筆してるわけじゃないし」
「へぇ…松川、料理もすんの?」
「まあ一応」
「バレーコーチ続けてんのか」
「続けてるよ」


いつの間にか3人から質問責めに合うというなかなかレアな状況になっているけれど、先ほども述べたように聞かれて困るようなことは何もないので、尋ねられたことにできるだけ簡潔に答えていく。ききたいことだけきき終わったら飽きるだろうと思っていたのに、なんだかんだで俺への質問は尽きなくて、お酒が入ったこともあってかその質問内容はどんどん下品な方向へ変わっていった。


「小説って言ってもさあ、そういう内容なわけでしょ?その辺どうなの?」
「どうって?」
「夜のオハナシ」
「お前らなあ…」
「岩ちゃんだって気になるくせに!」


お前らは高校生かとツッコミをいれたくなるほど低レベルな質問に、俺は呆れるばかりだ。いや、別に言ってもいいけどさ。それきいてどうすんの?というのが正直なところである。ああ、でも名前は知られたくないかな。また適当にはぐらかそうか。
お酒をぐびぐびと喉に流し込みながらそんなことを考えていると、ぎゃあぎゃあと騒いでいた及川が、で?どうなの?と話を戻してきた。なんだ、忘れていなかったのか。


「それ、きいてどうすんの」
「今後の参考に!」
「参考にはならねぇだろ」
「岩ちゃん黙って」
「職業柄、なんか違うのかなって興味あるんだよ」


花巻の発言に、うんうんと首を縦に振っている及川と、それを怪訝そうに眺めている岩泉。隣の花巻は頬杖をついてチビチビとお酒を飲みながら俺の返答を待っているようだ。勿体ぶるほどの内容でもないし期待に添うことはできないけれどそれでも良いならと、俺はさらりと、普通だよ、と答えた。
嘘でしょ、とか、恥ずかしがるなよ、とか言われても、事実、夜の事情は特別なことなどないし嘘も吐いていないのだからどうしようもない。そうなのか、と納得してくれているのは岩泉だけで、あとの2人は不信がって俺をじろじろ見てくる。いや、そこは信じろよ。


「小説のネタに…とか、そういうことになんないの?」
「言われたことないけど」
「意外。マジか」
「読んだことあんのか。奥さんの書いたやつ」
「あー…それは、まあ、一応ある」


恐らく岩泉は深く考えずに尋ねてきたのだろうけれど、この話題が一番気まずい。名前の書いた小説というのはなかなかに表現が豊かで、読んだことがあると言っても最後まで読み切ることはできなかった。なんというか、居た堪れなくて。


「どうだった?」
「…どうもこうもないけど」
「けど?」
「…知り合いには読まれたくない」
「今から本屋行くか」


本音を吐露してみた結果、冗談か本気か分からないトーンで言った花巻に倣って、そうだね、とやけに真面目な顔をしてジョッキのビールを飲み干した及川は、本当にお会計をし始めた。マジか。読まれて困るわけではないけれど、恥ずかしいような、そうでもないような。書いてある内容の全てがそうというわけではないけれど、実は俺とのあれやこれやが含まれているなんて、読んだだけで分かりはしないだろう。
本屋!行くよ!と意気込む及川を筆頭にぞろぞろと店を出た俺達は、高校時代よろしく馬鹿みたいな話をしながらだらしなく夜道を歩くのだった。
秘密の花園へご招待

ふよう様より「社会人で夫婦設定、ヒロインは官能小説家、松川は主夫の傍らバレーコーチをしている、青城3年の飲み会で結婚生活を暴露するお話」というリクエストでした。ヒロインとの絡みがほぼないので、これで夢小説と言えるのか?と甚だ疑問ですが、青城3年の飲み会とのことだったのでこのような仕上がりになりました…私では思いつかないような素敵な設定を考えてくださったのに生かしきれず申し訳ありません…。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.11.02


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