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付き合うなら絶対に年上。理由は簡単。包容力があって大人の余裕がある人と付き合いたいって思うから。男の精神年齢は実年齢のマイナス5歳だってきいたことがあるし、確かに同学年の男子を見ていると餓鬼だなあと思うことが多い。だから、やっぱり年上が良いよねってつい最近再確認したばかりだと思っていたのに、どうして私は、よりにもよって年下男子と付き合っているのだろうか。
押しに負けた、というのはあるのかもしれない。けれども、本当に嫌だと思っているなら告白を断り続けることもできたはずで。熱意に負けてしまった時点で、私だって満更でもなかったんじゃないかとは思うのだ。それを認めるのは悔しいから、絶対に本人には言ってやらないけれど。
2歳年下にあたるリエーフと付き合い始めたのは2日前。好きなんです、本気です、と会うたびにしつこく迫られ続けて1ヶ月。冷たくあしらえばすぐに諦めるだろうと思っていたのに引く気配はなく、それどころか、日に日に告白の熱量は増していく一方で、このままでは部活に支障が出るのでは?と心配になり、主将である黒尾に相談した。そこで得られたアドバイスは、付き合ってみれば?というなんとも無責任な言葉のみだったのだけれど。まさかそのアドバイスを実践することになろうとは思わなかった。
いつも通り、好きです!付き合ってください!と突進する勢いで伝えてきたリエーフに、いいよ、と。そう返事をしてしまったのは、間違いなく自分だ。
お試しで。仕方なく。そんな言葉がしっくりきそうな状況から始まったお付き合いにもかかわらず、私はこの2日間、とても幸せそうなリエーフを見るたびに胸がむず痒くなっていた。あんな大きな図体をしているくせに無邪気な笑顔を見せて子どもかってほどはしゃいでいるリエーフは、なんというか、まあ、可愛い。


「名前さん!今日の昼休憩は一緒に飯食えますか!」
「ああ…うん、いいよ」
「よっしゃー!教室まで迎えに行きますね!」
「いい。やめて。恥ずかしいから」
「えぇー…」
「食堂でしょ?席取って待っててよ」
「はい!」


この2日間、もはや彼氏というより召使いと言っても過言ではないほどリエーフのことをパシリとしてこき使っているという自覚はある。けれどもリエーフは嫌がるどころか、尻尾を振って嬉しそうに言うことをきいてくれるものだから、それでいいのか、とツッコミたくなってしまう。なんで私なんだろう、と。今更ながらに思う。
リエーフは背が高くて、見た目だって悪くない。ちょっと幼い性格ではあると思うけれど、そんな男子を可愛がりたいと思う女子は幾らだっているだろう。告白されたというのは今のところ聞いたことがないけれど、モテないというわけでもなさそうだし、考えれば考えるほど謎は深まるばかりだ。
言われた通りに食堂で待っていたリエーフと昼ご飯を食べている時も、特別な話をしているわけではないのに満面の笑みを浮かべている姿を見ると、私には勿体ないんじゃないかなあ、なんて。正直、こんなにも真っ直ぐに好意を寄せられたのは初めてのことで、どうしたら良いか分からなかったりする。でも、たった2日間でも分かったこと。それは、リエーフに胸をキュンとさせられることが増えているということだった。


「名前さん!今のブロック!見てくれてました!?」
「ああ、うん、すごいすごい」
「リエーフ!お前、名字の方ばっかり見てんじゃねぇよ!ボール見ろ、ボールを」
「すんませーん!」


黒尾に怒鳴られてもちっとも気にする様子なく、私に、見ててくださいねー!と手を振るリエーフは、随分とメンタルが強いなあと感心してしまう。でもまあ、なんだかんだ言って練習自体をサボることはせずに一生懸命取り組んでいる真面目さも認めてやるべきなのかもしれない。
そんなことをぼんやり思っていたからだろうか。休憩中、私の元に猛ダッシュで近付いてきたリエーフに、今日のブロックすごく調子が良いので褒めてください!とお強請りされた私は、普段なら、何言ってんの!と一蹴するところなのに、どうするべきか悩んでしまい固まった。ていうか褒めてくださいって言われても。さっき、ちゃんとすごいねって言ってあげたじゃないか。


「さっき褒めてあげたでしょ」
「そうですけど!もっとこう…特別なご褒美とか…」
「…何それ」


いつも五月蠅いぐらい元気なリエーフが急にごにょごにょと歯切れ悪く呟くものだから首を傾げる。特別なご褒美と言われても、それが一体何を意味するのか。私にはさっぱり分からない。私よりも随分と高い位置にある顔を覗き込むようにして視線を合わせて、はっきり言いなよ、と、我ながら男勝りなセリフを投げかけてみれば、リエーフは元々大きな眼を更に大きく見開いて。ゴクリと唾を飲み込んだ。そうして、意を決したように言い放たれた言葉は。


「ぎゅってしてください!」
「…は?」


体育館内に木霊するぐらい響いたのに、私の耳にはよく聞こえなかった。というか、聞こえてはいたけれど理解したくなかったというのが正解かもしれない。周りにいた部員達もぽかんと口を開けて呆けていて、暫く怖いくらいの静寂が続く。そして、ぶひゃひゃ!と下品な笑い声が聞こえた瞬間、初めて皆が我に返った。
言った張本人は大真面目な様子で私を見つめたままだし、周囲の視線はどのような返事をするのかと私に注がれているし、できることなら逃げ出したい。けれども、逃げることは許さないと言わんばかりに真剣な眼差しを注がれ続ければ、それは叶わなくて。せめてもの抵抗で俯くのが精一杯だった。


「あのー…やっぱりダメですか…?」


大きな身体を折り曲げて俯く私の顔を覗き込もうとしてくるリエーフをチラリと目だけで確認する。その表情は捨てられた子猫みたいで、きっと狙っているわけではないんだろうけれどズルいなあと思った。
好きだと思って付き合い始めたわけではない。私の理想の彼氏は、大人で包容力があって私より余裕のある人。つまり、リエーフとは正反対と言っても良い。それなのに、ここ最近感じているキュンとした胸の締め付けは一体何だ。私はとうとうおかしくなってしまったのか。それとも、リエーフの熱に浮かされてしまったのか。
依然としてしゅんと肩を落としながら、幾分か身体を小さく縮こまらせているリエーフを見たら、もうどうにでもなってしまえと、なかば投げやりな気持ちになって。その大きな背中に手を回し、ぎゅうと抱き締めてしまった。まさか私がこんな行動に出るとは思っていなかったのだろう。明らかに身体を固くさせているリエーフは、えっ、とか、あの、とかワタワタしていたと思ったら急に動かなくなった。


「いつもすごいなって思ってるから、これからもカッコいいところ見せてよ」
「…俺、名前さんのことやっぱり大好きです!」


背中をポンポンと撫でながら言ったセリフにリエーフは抱き締め返すということで返事をしてくれた。とても不本意ではあるけれど、ひょろりとしているくせにガッチリした体つきをしているところはやっぱり男の子なんだなあと意識してしまって、また胸が疼く。私の彼氏は当初の理想とかけ離れているけれど。こういうのも悪くないかなって思わされちゃったから、責任取ってもらわなくちゃね。


「お2人さーん。休憩そろそろ終わっていいっすかあ?」


せっかくの雰囲気もニヤニヤ顔の主将に台無しにされてしまったから(まあ部活中だから仕方がないとは思うのだけれど)、今度は2人きりのときに、ちょっと恋人らしいことをしても良いかもしれない。少しばかり名残惜しいなと思いながらリエーフから離れて、頑張れ!と送り出す。コートに走って行く大きな背中は、なんとなくだけれどいつもより堂々としていて、背筋が伸びているような気がした。
真っ直ぐにカンパイ

あいあふ様より「ヒロインはリエーフの先輩、バレー部のマネージャーで彼女、部活中にリエーフが甘える」というリクエストでした。リエーフを書くのは初めてでしたし年上彼女の設定もほとんど書くことがないのでとても新鮮でした!甘えさせ方が思い浮かばずこのようなありきたりな展開になってしまい申し訳ありません…精進致します…。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.10.30


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