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「#エロ」のBL小説を読む
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自分でも不思議だなあと思う。好みのタイプなんてそんなに考えたことはなかったけれど、どちらかと言うと落ち着いていて穏やかな雰囲気の子の方が好きだと思っていたのに、今の彼女は全くそれに当て嵌まらないから。
告白されて、嫌だと思わなかったから付き合ってみるか、ぐらいの気持ちだった。それが、今やきちんと好きだなあと思えるようになっているのも謎だ。いつから、何をきっかけに、なんて分かりはしない。気付いたら好きになっていた、なんて、安っぽいドラマで使われがちなフレーズが頭の中を駆け巡って、笑ってしまう。


「名字ちゃーん、まっつん来たよ?」
「及川うるさい!いいの!」


放課後、いつものように花巻と部室棟へ向かっていると、部室から及川と、自分の彼女である名前が現れた。背後から岩泉が現れたところを見ると2人きりというわけではなかったようだけれど、俺以外の2人と一緒にいたという時点でいい気分はしない。そりゃあ名前は及川と同じクラスだから接する機会も多いだろうけれど、部室にまで来る用事とは一体何だろうか。わたわたと動揺している名前に、俺はできるだけいつもと同じ表情、同じ声音で話しかける。


「何か用?」
「ううん!なんでもないの!」
「なんでもないのに部室に来たの?」
「それは…えーっと…、うーんと…まあ……ちょっと、ね」
「ふぅーん…」


どうやら俺には言いにくい何かのためにここに来たらしいが、隣でニヤついている及川が腹立たしい。岩泉が気を利かせて引っ張って行ってくれたけれど、追及したところで名前は何も話してくれなさそうだし、こんなところで醜い嫉妬心を露にするのは自分でもどうかと思う。
それでも、気付けばいつもより冷たい口調で、用がないなら帰れば?と口走ってしまったのは、俺の感情のコントロール不足が原因だ。名前は目を見開いた後、明らかに怯えたような表情をして、ごめん…とだけ呟くと、あっと言う間に走り去ってしまった。ああ、らしくない。


「珍しいじゃん。松川があんな言い方すんの」
「…ほんと、自分でも驚いてる」
「名字さんのこと、だいぶマジなんだ?」
「いつの間にか、ってやつ」


へぇ、と。さっさと着替えを済ませたらしい花巻は愉快そうに口元に弧を描いただけだった。どいつもこいつも、俺を挑発するのが随分と上手になったものだ。元々、彼女ができても揶揄われても、適当に受け流せるタイプだったのに。今回はどうも違うらしい。
自分でも自分がよく分からなくて戸惑う。気まずい雰囲気で終わってしまったから明日からどうしよう、なんて、今まで考えたこともなかった。我ながら女々しい。そして、依存しすぎている。本当に、らしくない。
イライラをなんとか抑え込んで着替えを済ませ、体育館へと急ぐ。部活の時はバレーに集中するよう心掛けているからプレーに影響はない、はずだった。けれども今日はやけにミスが多くて、それにもイライラ。表情には出ていないらしいがオーラがイラついていると花巻に指摘されて、俺ってこんなキャラだったか?と自分を見失いながら終えた部活。


「らしくねぇな」
「自分でもそう思う」
「気になるんだろ、名字のことが」


そういう話題に疎そうな岩泉にまで指摘されてしまっては否定もできない。俺が調子を崩すことなんて滅多にないから気になったのだろう。明日からもこんなんじゃ困る、と言われてしまったので、いよいよどうにかしなければならないと思ってはいるものの、さてどうしたものか。着替えながらも頭の中は名前のことでいっぱいで、救いようがない。
そんな俺に、事の発端になったと言っても過言ではない及川が声をかけてきた。及川が悪いわけではないということは分かっているけれど、反応の仕方が少し荒っぽくなってしまったことは大目に見てほしい。


「まっつんさぁ、名字ちゃんにちゃんと告白してあげた?」
「は?」
「部活見においで〜とか、誘ってあげたことないでしょ」
「それがどうした?」
「松川って意外と自分のことになると余裕ないっぽいじゃん」


及川に交じって花巻も参戦し、俺は責められているようだった。確かに、告白というか好きだとも言ったことはないし、部活に誘ったこともない。付き合っているならそれぐらいしろということなのか。今までの彼女は自分から色々ねだってきたから、求められるならと渋々対応してきたことは否めないが、そういえば名前からは何も求められたことがない。
好きだと言ってほしいとか、部活を見に行きたいとか、一緒に帰りたいとか。そんな、彼女なら言ってもいいであろう望みを、名前は何ひとつ言っていないことに今更のように気付いた。俺は馬鹿だったのか。こんなにも余裕がなくて気が利かない男だったのか。
今までの自分の行いを反省しつつ、明日にはどうにかする、と返事をした矢先。部室を閉めていつもの4人でぞろぞろ帰っていると正門に見慣れた人物を発見して驚いた。そこには帰ったはずの名前がいて、俺達の存在に気付きどうするべきかと慌てている様子が目に映る。そんなところも可愛いなあ、なんて。思っても伝えたことはないけれど。


「どうしたの。こんな時間まで」
「え、っと…ちゃんと話、したいなって思って…」
「まっつん、俺達先に帰るから明日報告よろしく〜」
「今度ラーメン奢りな」
「明日の練習でも腑抜けてたらさすがに怒るぞ」


それぞれ好きなことを言い残しつつも、さっさと帰ってくれた3人には少しだけ感謝して。残された俺達はゆっくりと歩き始める。本当は俺から連絡をして話がしたいと切り出すべきだったのに、名前から言わせてしまったことは男として情けないと思う。けれども、既に相当カッコ悪い状態ではあるので、この際気にしないでおこう。
俺の半歩後ろを歩く名前は俯いているけれど、時折何かを口にしようと顔を上げては断念している。きっと部室でのことを伝えようとしているのだろう。俺がまだ怒っているとでも思っているのか。いつも威勢のいい名前が、今はやけに大人しい。


「俺のことで及川に相談でもしてた?」
「えっ!いや、うーん…ちょっと、だけ…?」
「部室に来て相談するほど深刻だったなら俺に直接言ってくれたら良かったのに」
「だって、恥ずかしかったんだもん…こんなウジウジ悩むの、私らしくないなって思うし…松川に、急にそんな女の子ぶられても…って引かれるのも怖かったし」


ぼそりぼそりと紡がれたセリフは随分と可愛らしいもので、緩んだ口元を思わず手で覆い隠してしまった。女の子ぶるも何も、名前はずっと可愛い女の子だ。例えば今、そっと掴んだ手の細さとか、ちょっと潤んだ瞳とか、不安そうな眼差しとか、引き寄せた時に香る匂いとか、その全部が女の子だって主張している。


「引かないよ。そんな名前が好きだからね、俺」
「す…っ、松川、今、す…すきって…!」
「うん。ごめん。ちゃんと言ってなかった。これからはちゃんと思ってること言うようにする」


名前は先ほど、らしくない、と言ったけれど、それは俺の方だ。気持ちを抑え込んだり及川に嫉妬したり、それこそらしくない。本気で人を好きになるというのはとても難しいことだけれど、それは自分が難しく考えすぎているだけで案外簡単なことだったりするのかもしれない。
突然手を取られたことも距離を縮められたことも予想外だったのだろう。驚きのあまり硬直している名前の髪をさらりと撫でる。ああ、そうえいばこんな風に触れることも初めてだなあ、なんて思って。


「名前のことちゃんと好きだから、他の男と仲良すぎるのは嫉妬する」
「え、う、うそでしょ、」
「今日も嫉妬した。及川に。だからこれからはなんでも俺に言って」
「松川はそんな…嫉妬とかしないだろうなって、余裕そうだなって思ってたのに、」
「いつも余裕ないよ。幻滅した?」


思っていることを素直に吐露したらどうなるだろう。恐る恐る、けれども堂々と言い放った言葉に、名前は顔を綻ばせて、嬉しい、とだけ言ってくれた。束縛する男はカッコ悪い。嫉妬したり自分の感情をぶつけたり、そういう男もダメだよなと思っていたけれど、どうやらそうでもないらしい。
翌日から、嬉しそうに体育館で部活を見学する名前に全てを悟ったらしい3人には、名前ともども散々いじられ倒したけれど、こういういじられ方は、まあ、嫌じゃないからよしとしよう。
プロトコルでも決めましょうか

まっつん女様より「内容はお任せで青城3年との絡みあり」というリクエストでした。大人びてないというか、余裕のない松川と青城3年の絡みが書きたくてこんな仕上がりになってしまいましたが大丈夫だったでしょうか?松川好きの方に受け入れてもらえるか不安ですが高校生らしい松川は書いていてとても楽しかったです。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.10.11


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